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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第52話 王宮からの正式な依頼

王宮から届いた依頼書は、以前の召喚状とはまるで違っていた。厚い羊皮紙に、目的、期間、報酬、同行者、記録の扱い、宿泊場所、責任者の名が細かく書かれている。リディアが過去に提示した条件が、ほとんどそのまま採用されていた。


 依頼の内容は、王立療養室の食養部門を正式に整えるための監修だった。末尾には王太子セドリックの署名がある。


『かつて名もなく働かせたことを、制度の形で改める。あなたが来られない場合でも、北境食養院の者を講師として迎えたい』


 リディアは執務室で書類を読み終え、しばらく黙っていた。エルヴィンは向かいで待っている。


「行くか」


「行きます。ただし、私一人ではなく、講師を三人連れていきます」


「トマとネリは当然として、もう一人は?」


「村の産婆のハンナさんです。王宮の人は、身分の高い病人の食事ばかり考えがちです。でも療養室で働く人たちの家族にも、食べられない日があります」


 エルヴィンはうなずいた。


「王都は驚くだろうな」


「驚いてもらいます」


 その言い方が少し強かったのか、彼は口元をゆるめた。出発前、食養院では講師たちの荷造りが行われた。トマは緊張で手順書を三度確認し、ハンナは王宮の床で滑らない靴を選び、リディアは古い銅鍋を一つだけ持っていくことにした。


 王都へ着くと、宮殿の門は以前より遠く見えた。同じ石壁、同じ衛兵、同じ冬の匂い。


 それでも、リディアの足は止まらなかった。迎えたのはセドリックだった。彼は以前より痩せ、飾りの少ない服を着ていた。


「リディア夫人。来てくれて感謝する」


「依頼書に不備がありませんでしたので」


 少し硬い返事になった。セドリックは苦笑せず、真面目に頭を下げた。


「それが、今の私にできる最初の礼だと思っている」


 療養室は、王宮の東棟に移されていた。窓が多く、薬草の匂いがこもりにくい。厨房は広くないが、動線は整っています。皿の棚には名札があり、器の大きさごとに分けられていた。


 ネリが出迎えた。彼女は王宮の服を着ていたが、白い前掛けの紐は北境式に結ばれている。


「夫人。こちらです」


 リディアは彼女の顔を見て、安心した。かつての王宮厨房には、リディアを責める声があった。今の療養室には、緊張はあるが、誰かを押しつぶすような空気ではない。


 初日の講習で、リディアは王宮の料理人たちに言った。


「病人食は粗末な食事ではありません。豪華な食事を薄めたものでもありません。食べる人が、もう一度自分の体を信じるための食事です」


 料理人たちは黙って聞いた。ハンナが続けた。


「それから、食べさせる人の手が震えているときは、その人にも湯を飲ませてください。母親でも侍女でも、怖いまま匙を持つと、子どもはもっと怖がります」


 王宮の料理人が、驚いたようにハンナを見た。身分の低い村の産婆が、宮殿の講習室で話している。


 以前なら考えられなかった光景だった。リディアは何も補わなかった。


 この言葉は、ハンナのものだからだ。講習が終わるころ、セドリックが後方の席で深く頭を下げていた。


 謝罪は一度で終わるものではない。制度に変え、席を空け、名を残し、聞く態度を続ける。


 リディアはその姿を見て、ようやく王宮の朝に置き忘れてきた何かが、少しだけ整うのを感じた。

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