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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第41話 白葉草の冬

その年の冬、白葉草は北境を支えた。雪は例年より早く、山道はいくつか閉ざされた。だが各村には小さな食養棚があり、乾燥白葉草、麦粉、葛、乾燥林檎、手順書が置かれていた。


 ルッカ村から最初の記録が届いた。子どもの咳三名。白葉草湯で軽快。食欲不振の老人一名、麦湯から粥へ移行。煙抜き実施。


 短い記録だが、リディアはそれを何度も読んだ。あの村で、一人ひとりの朝が守られている。


 食養院には、雪の間も人が来た。完全に閉ざされた村には行けないが、近い村からは世話役がそりで記録を運んでくる。兵舎でも、冬の訓練後に温かい湯を飲む習慣が定着した。


 エルヴィンの胃は、ほぼ回復していた。ただしリディアは「ほぼ」という言葉を記録に残した。


「完治ではないのか」


「油断すると戻ります」


「厳しい」


「冬ですので」


 彼は苦笑しつつ、湯を飲んだ。夫婦となっても、そのやり取りは変わらない。変わったのは、リディアが彼の隣で自分の湯も飲むようになったことだ。


 ある吹雪の夜、食養院に急患が運ばれた。山道で迷った商人の親子だった。子どもは冷え、父親は空腹と疲労でふらついている。ガレア商会の下請けだった者だと、後で分かった。


 兵の一人が苦い顔をした。


「ガレアの関係者ですか」


 リディアは湯の温度を確かめながら言った。


「今は患者です」


 それ以上の説明は不要だった。白葉草湯、薄い葛湯、温めた布。手順通りに動く。父親は何度も礼を言い、やがて泣き出した。


「ガレア商会は潰れました。上は逃げ、下は荷を抱えたまま放り出されて……」


 ガレア商会は、王宮取引停止と各地の不良品発覚で信用を失っていた。ヴィクトルは不正帳簿で拘束され、下働きや小商人たちは仕事を失ったという。


 エルヴィンは父親の話を聞き、短く言った。


「北境で正しい薬草を扱う気があるなら、商人組合へ申し出ろ。不良品を売れば罰する。正しい品を運ぶなら取引する」


 父親は驚いた顔で頷いた。リディアは子どもの額の汗を拭いた。


 敵だった商会の下にいた人も、寒ければ冷える。食べなければ倒れる。食養の仕事は、相手を選ばない。


 翌朝、吹雪が弱まった。親子は温かい粥を食べ、少し元気を取り戻した。子どもは乾燥林檎を一切れもらい、嬉しそうに握っている。


 リディアは白葉草の在庫を確認した。まだ足りる。


 薬草畑を取り戻しておいてよかった。窓の外では雪が積もっている。だが食養院の中には湯気がある。名前のある朝食係たちが交代で鍋を見ている。


 冬は厳しい。けれど、朝は作れる。

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