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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第27話 ローゼン家の夕食

ローゼン侯爵家の夕食会は、かつて王都で最も華やかな社交の場の一つだった。季節の花を浮かべた酒、色とりどりの菓子、香り高い薬湯。客は皆、侯爵家の洗練を褒めた。ミレーヌはその中心で育った。


 彼女にとって、香りは優しさだった。病室の苦い匂いを消すための花。沈黙を埋める甘い茶。疲れた人に「これを飲めば明るくなります」と差し出す壺。


 だから、薬草棚を見た時、ミレーヌは初めて自分の優しさが場違いだったことを知った。棚は華やかではなかった。


 乾いた葉。苦い皮。土のついた根。日付の札。湿気を避ける紙。匂いが移らないよう分けられた箱。どれも、病人の体を見て置かれている。


 侍医長は淡々と説明した。


「この白葉草は乾いた咳に使います。花粉の強い壺と同じ棚に置くと、香りが移り、咳を誘発することがあります」


 グラントは石板を見せた。


「これで粥の火をやわらげます。見た目は悪いが、外すと焦げる」


 ミレーヌは何度も頷いた。頷くほど、胸の奥が冷えていく。


 自分は知らなかった。知らないまま、自信を持って命じた。


 その夕方、ローゼン侯爵家の食卓で、彼女は父と向き合った。侯爵は不機嫌だった。


「王宮は大げさに騒ぎすぎだ。陛下の体調不良を、我が家と商会の責任にするなど」


「お父様。花蜜湯は、陛下の朝には合いませんでした」


「それは使い方の問題だろう」


「はい。使い方の問題です。そして、わたくしは使い方を知りませんでした」


 侯爵は娘を睨んだ。


「お前は王妃になるために育てた。厨房の小娘に言い負かされるためではない」


 以前なら、その言葉に従っただろう。だがミレーヌの脳裏には、リディアの言葉が残っていた。


 王宮を明るくしたいなら、暗いところから目を逸らさない方がいい。


「リディア様は、小娘ではありません。陛下の朝を支えた方です」


 食卓が静まった。侯爵夫人が不安そうに娘を見る。


「ミレーヌ、あなた」


「わたくしは、王妃に向いているか分かりません」


 その言葉を口にした瞬間、ミレーヌの手は震えた。


 王妃になることは、幼い頃から決まっていた未来のように扱われてきた。美しく、優しく、王宮を華やかにする。父はそれを誇り、母はそれを喜び、彼女自身もそれ以外の自分を考えたことがなかった。


 だが王妃は、花を飾るだけではない。薬草棚を見なければならない。下働きの休憩を知らなければならない。誰かの苦い朝を、甘い香りで塗りつぶしてはいけない。


「殿下との婚約について、わたくしは一度、辞退を申し出ます」


 侯爵が椅子を鳴らして立ち上がった。


「何を馬鹿な」


「馬鹿だったのは、知らないことを知っているふりをした時です」


 声は震えたが、言葉は止まらなかった。


「ガレア商会との取引記録を、王宮へ提出してください。ローゼン家が利益を得ていたなら、それも正しく調査されるべきです」


 侯爵の顔が赤くなった。


「お前は家を裏切るのか」


「いいえ。家がこれ以上、陛下の朝を傷つけた家として残らないためです」


 侯爵は言葉を失った。夕食の皿は、いつも通り美しかった。香りも甘い。だがミレーヌは、目の前の濃いソースを見て、国王の咳を思い出した。


 その夜、彼女は初めて、自分の食事を半分残した。翌日、ローゼン家から王宮へ取引記録の一部が提出された。


 完全ではない。侯爵はまだ抵抗するだろう。ミレーヌ自身も、すぐに別人にはなれない。けれど、彼女は薬草棚から目を逸らさなかった。


 リディアが後にその報告を聞いた時、少しだけ黙った。


「ミレーヌ様は、変われるでしょうか」


 エルヴィンが尋ねると、リディアは白葉草を乾燥棚に並べながら答えた。


「分かりません。でも、見始めた人は、見ていなかった頃には戻れないと思います」


 それは、ミレーヌのことでもあり、セドリックのことでもあり、リディア自身のことでもあった。

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