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身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


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第26話 王太子の朝

リディアが北境へ戻った後、王太子セドリックの朝は変わった。


 以前の彼は、起きると侍従が用意した茶を飲み、机に積まれた書類のうち急ぎのものだけを選び、厄介なものは午後へ回した。厨房のことは料理長に、侍医のことは侍医長に、婚約者の機嫌は侍女たちに任せていた。


 任せているつもりで、見ないだけだった。国王の療養食改定が始まると、その見ない癖は通用しなくなった。


 毎朝、侍医長、料理長、財務院の短い記録が届く。陛下の食事量、薬草の使用量、棚の鍵を開けた者、下働きの休憩時間。書類は薄いが、読み飛ばせない。


 初日、セドリックは思った。細かい。


 そう思った瞬間、自分の頬が熱くなった。その「細かい」をリディアへ何度も言った。


 細かいものを見ないまま、国王の朝を壊した。セドリックは書類を読み直した。


 国王は白粥八口、葛湯半量、薬湯四分の三。食後の咳なし。睡眠四刻。その数字が、朝の安堵を作っている。


 ミレーヌとの面会は、まだ保留されていた。ローゼン家は、娘に悪意はなかったと主張している。実際、明確な害意は証明されていない。だが、王宮の食事に不適切な介入をした事実は消えない。ガレア商会との利益関係も調査中だ。


 セドリックは、彼女を愛していたのかと自分に問うた。華やかな笑顔に惹かれた。自分を褒め、王宮を明るくしたいと言う彼女の言葉が心地よかった。リディアが突きつける予算や体調記録より、ずっと楽だった。


 楽な言葉を選んだ結果が、これだ。その朝、セドリックは初めて東厨房へ自分の足で向かった。


 厨房では、グラントが新しい記録板を壁に取り付けていた。下働きの休憩時刻も書かれている。ネリは粥用の石板を丁寧に拭き、別の若い下働きに火の音を聞かせていた。


「泡が大きくなると強すぎます。リディア様は、ここで火を落としていました」


 セドリックは扉の外で立ち止まった。彼女の不在は、ただの空白ではなく、手順として残り始めている。


 グラントが彼に気づき、礼をした。


「殿下。厨房は火を使っておりますので、足元にお気をつけください」


 以前、リディアもミレーヌに同じようなことを言った。その時の自分は、彼女を庇わなかった。


「料理長。邪魔でなければ、陛下の朝食がどう作られるか見たい」


 厨房の者たちは驚いた。グラントは少し考え、頷いた。


「見学ならば。手は出さないでください」


「分かった」


 セドリックは壁際に立った。粥は静かに煮えていた。王宮の朝を支える鍋は、祝宴の銀器よりずっと地味だ。だが、そこには多くの判断があった。水の量、火の高さ、薬草の札、器の温め方、運ぶ時間。


 見ているだけで、これまで自分が見なかったものの重さが分かった。


「殿下」


 ネリがおずおずと声をかけた。


「リディア様から、厨房の者も朝食を取るようにと書き残しがありました。陛下の御膳を運んだ後、交代で食べます」


「そうしてくれ」


 セドリックはすぐに言った。言ってから、足りないと思った。


「必要な費用は、王宮予算に正式に入れる」


 ネリの目が丸くなった。グラントが静かに頭を下げる。


 小さな変化だ。だが、朝は小さな変化の積み重ねでできている。


 粥が運ばれると、セドリックは厨房の外で深く息を吐いた。王太子としての仕事は、華やかな決断だけではない。見えない仕事を見えるようにし、記録し、守ること。


 彼はまだ、その入り口に立ったばかりだった。執務室へ戻ると、机にミレーヌからの手紙が置かれていた。


 震えた文字で、薬草棚を見たい、と書かれている。セドリックは長くその手紙を見つめた。


 許すか許さないかは、すぐには決められない。だが、見るところから始めるなら、彼自身も逃げるわけにはいかない。


 彼は侍従に言った。


「ミレーヌ嬢へ返事を。侍医長と料理長の立ち会いのもと、薬草棚の見学を許可する。ただし、今後いかなる食事介入も記録なしには認めない」


 侍従は驚き、すぐに礼をした。王太子の朝は、遅ればせながら始まった。

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