表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身分違いの朝食係はもう辞めます、辺境公爵家で病人食を作ります。  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/68

第23話 朝食の証人たち

国王が粥を四口食べた翌日、王宮内で小さな聴聞が開かれた。


 場所は大広間ではない。国王の体調を考え、寝室に近い小会議室が選ばれた。出席者は国王、王太子、侍医長、グラント料理長、財務院の記録官、ローゼン侯爵家の代理人、ガレア商会のヴィクトル、そしてリディアとエルヴィン。


 ミレーヌ本人は、体調不良を理由に欠席した。リディアはそれを聞いて、少しだけ肩の力が抜けた。同時に、逃げられたと思う気持ちもあった。


 エルヴィンは隣で低く言った。


「本人がいなくても、記録は残る」


「はい」


「あなたは事実を言えばいい」


 小会議室の卓には、朝食の証拠が並んだ。匂い移りした白葉草。封の開いた花蜜湯の壺。偽の処方箋。リディアが残した三日分の手順。七日分の助言書。厨房の火口から外された石板。薬草購入の帳簿。


 どれも小さなものだ。だが、小さなものが積み重なって、国王の匙を止めた。


 最初に侍医長が発言した。


「国王陛下には、強い甘みと香りを朝に避けるよう、以前から記録しておりました。花蜜湯は嗜好品として少量なら問題ありませんが、療養食として毎朝用いるものではありません」


 ヴィクトルは笑みを作った。


「我が商会は、王宮からの注文に応じただけです。花蜜湯は高貴な方々に広く愛される品で、毒ではございません」


「毒でないことは、免罪にはなりません」


 リディアの声が、自分でも驚くほどはっきり響いた。視線が集まる。


 以前なら、ここで俯いていただろう。今日は違う。


「病人食では、体に合わないものを避けることが大切です。花蜜湯は健康な方の嗜好品としてなら使えます。しかし、陛下の朝の胃には重すぎます。しかも薬草棚の中で他の乾燥草へ匂いを移し、必要な白葉草まで使えなくしました」


 ヴィクトルは眉をひそめた。


「それは保管する王宮の問題では」


「はい。王宮の問題でもあります」


 リディアは逃げ道を塞がなかった。


「だから、王宮の鍵管理と棚の用途分けを改める必要があります。同時に、商会は薬草と嗜好品を同じ箱で納入しない責任があります。納品書では乾燥薬草と記載されていますが、実物は香り移りで病人用に使えませんでした」


 財務院の記録官が頷き、帳簿へ書き込む。グラントは石板について説明した。


「粥用の火をやわらげるため、リディア嬢が使っていた石板です。これを外されて以降、焦げが出やすくなった」


 ローゼン家の代理人が反論した。


「厨房の見栄えを整えることは、将来の王妃候補として当然の配慮であり」


 国王が口を開いた。


「見栄えのために、私の粥を焦がしたのか」


 代理人は黙った。セドリックは椅子の上で拳を握っていた。彼は何度も口を開きかけ、やがて立ち上がった。


「責任は私にもあります」


 部屋の空気が止まる。


「ミレーヌの提案を、私は止めませんでした。リディアが必要なことを説明した時も、身分を理由に軽んじた。王宮厨房の管理を見直すべきだと、何度も報告を受けていたのに、面倒だと後回しにしました」


 国王は息子を見た。リディアも見た。


 セドリックの顔には、初めて本物の恥があった。だが、恥だけでは失われた時間は戻らない。


 聴聞は続いた。偽処方箋は、ミレーヌ付き侍女の筆跡である可能性が高い。だが侍女は、ガレア商会から渡された説明書を書き写しただけだと証言している。商会は、一般的な宣伝文だと主張した。


 意図的な害意を証明するのは難しい。しかし、過剰な売り込みと不適切な介入、王宮側の管理不備は明らかだった。


 国王は最後に、リディアへ向いた。


「そなたは、どうすべきだと思う」


 王に意見を求められ、リディアは一度だけ息を吸った。


「病人食を、身分の低い雑事として扱わない制度が必要です。侍医、料理長、薬草管理、財務の記録を一つにしてください。誰か一人の善意ではなく、手順で守る形に」


「そなたが長になればよいのではないか」


 王の言葉に、セドリックがわずかに顔を上げた。リディアは静かに首を横に振った。


「私は北境公爵家と契約中です。王宮に残ることはできません。ですが、制度を作る助言はできます。ここで働く方々が学べるよう、温脈食記の写しを置きます」


 国王は目を閉じた。


「また、私はそなたに頼ろうとしたのだな」


「陛下は、今お気づきになりました」


 リディアの声は責めていなかった。けれど、許しだけでもなかった。


 国王は深く頷いた。


「ならば、制度を作る。そなたの名と、母君の名を記録に残そう」


 小会議室の窓から、朝の光が入った。王宮の朝食に、初めて証人たちが立った日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ