表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて勘当されたわたしは都会派冒険者になる  作者: 朝山 みどり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

02 この人たちはどうなる?

連載はここから、始まります。

 02 この人たちはどうなる?.


 さて、話はあの婚約破棄の夜会に遡る。


「待て、キャサリン。話は終わっていない」とロバート王太子が言った。


 だが、その声を遮るように、アビゲイルが一歩前に出た。


「これでわたくしも苛められることがなくなりました。嬉しいですわ」


 そう言って、アビゲイルはロバートを見上げる。


 その一言で、場の空気は完全に流された。誰一人として、去っていくキャサリンを追いかけようとはしなかった。


「そうだな。今まであれを排除できなくて申し訳なかった。だが、これからは安心だ」


 王太子がそう言い切った瞬間、待たされていた楽団が一斉に音楽を奏で始めた。


 ロバートの表情にはわずかな憂いが浮かんでいたが、それを気にする者はいない。アビゲイルは得意げに微笑み、すぐに踊りの輪へと加わった。


 華やかな音楽が広間を満たす。


 だが、その裏側では、確かに別の流れが生まれていた。


「死んだ母親の遺産の宝石を後妻の娘が持っているってことは、つまり盗ったってことだよな」


「平然としているのがまたな……」


「あの家は一家でおかしい。それに王家も……」


「しっ、聞こえるぞ」


 ささやきはすぐに押し殺された。しかし、完全に消えることはなかった。


「これで、アビゲイルも幸せになります」


 ローズライン侯爵にそう言ったのは、現侯爵夫人エリザだった。


「ほんとうに良かった。キャサリンは我が妹ながら、とんでもない女だった」


 続けたのはパーシー。前侯爵夫人の実子であり、キャサリンの実の兄である。


 本来ならば兄妹であったはずの二人。しかし、アビゲイルが虐められていると訴えてからというもの、パーシーはそれを疑うことなく信じ、キャサリンに冷たい態度を取り続けていた。


 やがて夜会は終わり、四人は屋敷へと戻った。


 翌朝。


 キャサリンが屋敷に戻っていないと知らされたパーシーは、さすがに驚いた。


 どれほど意地が悪かろうと侯爵令嬢だ。あれほどのことを言われても、最終的には戻ってくると考えていた。


 それが帰っていない。


 途中で何かあったのか。攫われたのか。


 一瞬、そんな考えがよぎる。


 だが、すぐにその思考を切り捨てた。


 勘当された平民がどうなろうと関係ない。


 そう結論づけると、パーシーは意識を切り替えた。


 これからはアビゲイルの時代だ。王太子妃の実家となる侯爵家の未来は明るい。


 その栄光を思い描き、満足げに息を吐いた。


 その後、仲間たちと街へ出たときのことだった。


 ふとした瞬間、視界に見覚えのある姿が映る。


 キャサリンだった。


 粗末な服を着て、通りの端に立ち、クレープを食べている。


 そして、笑っていた。


 心から楽しそうに。


 その光景に、パーシーの足が一瞬止まる。


 だが、すぐに首を振った。


 違う。あれは空元気だ。やけになっているだけだ。


 そう思い込むことで、胸の奥に生まれかけた違和感を押し込めた。


◆◇◆◇◆


 園遊会の翌日


 王妃は気分よく目を覚ました。


 昨日の出来事は実に興味深かった。


 息子がキャサリンに婚約破棄を突きつけたのだ。


 狼狽え、助けを求めてくる姿を期待していた。


 だが、侯爵が突然勘当を言い渡したことで、キャサリンは混乱したままその場を去ってしまった。


 すぐに思い直して戻ってくるだろう。


 そのときは慈悲を示し、側に置いてやろう。


 そう考えていた。


 しかし、キャサリンは来なかった。


 侯爵家に戻ったのだろうと思い、使いを出して確認させた。


 返ってきた報告は予想外だった。


 侯爵家にもいない。


 王妃は眉をひそめた。


 それでいいのか。娘がいなくなっているというのに。


 侯爵にも確認を取らせたが、返答は冷淡だった。


「勘当した娘のことなど知らぬ」


 そこまで言い切ったのだ。


 あの家が冷たいことは知っていた。だが、ここまでとは思わなかった。


 そのとき、ふとキャサリンの言葉がよみがえる。


 死んだ母の遺産である宝石を、アビゲイルが持っている。


 侍女にも確認させたが、確かにそう言っていた。


 侯爵はそれを認めている。


 王太子も知っている。


 もし事実ならば、王室がそれを容認したことになる。


 泥棒を認めるなど、あり得ない。


 王妃の顔色が変わる。


 すぐにお茶会を開き、貴族たちの反応を探らねばならない。


 最悪の場合、王太子を切り捨てる必要も出てくる。


 そこまで考えたとき、王妃はもう一つの存在を思い出した。


 王宮の隅に追いやっている第二妃の息子。


「すぐにお茶に呼びなさい」


 侍女にそう言いつけた。


◆◇◆◇◆


 園遊会の騒ぎが落ち着いたある日。


 王太子は侍従に起こされた。


「殿下、視察に遅れます」


「視察など、あれにやらせればいいだろう」


 不機嫌そうに吐き捨てる。


「あれとは、キャサリン様のことですか」と侍従が問う。


「そうに決まっておろう」


「もう、いらっしゃいません。婚約破棄の後、勘当されております」


「それがどうした」


「いらっしゃらないのです。ですので、お越しにはなれません」


「なんだと?」


「お起きください。視察のお時間です」


 半ば強引に起こされ、馬車へと押し込まれる。


 その中でも王太子は苛立ちを隠さなかった。


「なぜ、わたしがこんなことを……婚約破棄された程度で仕事を放棄するとは」


 今日の視察先は、水害の被災地だった。


 一昨年の河の氾濫で村は水没し、多くの死傷者を出した場所である。


 キャサリンは真っ先に現地へ向かい、人々を励まし、無理を押して予算を確保し、食料支援を行った。


 その後も何度も足を運び、復旧の様子を見守り続けた。


 共に泣き、共に働き、炊き出しのスープを一緒に作り、一緒に食べた。


 少しずつ、人々は笑えるようになっていった。


 そして今日は、最初の収穫を祝う式典の日だった。


 だが、王太子の目に映ったのは、いまだ傷跡の残る土地と、粗末な仮屋の並ぶ光景だった。


 その瞬間、露骨に顔をしかめる。


「王太子が来る場所ではない。式典は勝手にやれ。わたしは帰る」


 そう言い放つと、本当に踵を返した。


 帰路。


「おまえは何を考えている。このような公務は断れ」


 侍従に怒鳴りつける。


 侍従は、ただ黙ってうなずいた。



いつも読んでいただきありがとうございます!


誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。

とても助かっております。

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。

それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ