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第二の星で  作者: ぷりお
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エルガー帝国のナーケル

「イスィーズ隊長!」

巨人が鎧を纏ったような機体が、倒壊した建物の瓦礫を押し除けて、低空飛行を行う。


その機体は鎧の意匠を継いでいると言えるが、瞳のツインセンサーは赤く輝き、デザインも、鋭利で肩は愚か、腕のデザインも、頭部の一本の角も刺々しい。


中世のあの無骨な甲冑ではなく、どこかヒロイックな、近代のマシーンであると再度感じさせるデザインであった。



「イスィーズ隊長、機体の不良ですか?それとも……!」

その機体はバーニアを器用に扱い、空気を押し出すような細かい音と共に、機体を地面と平行であった状態から、垂直になるような姿勢をとる。


モニターを介して、横目でそれを見つめ、ズシリと地面が揺れた。最後の排熱を兼ねて吹き出された風は、近辺の瓦礫を飛ばして、家さえも吹き飛ばそう、というところであった。


寝そべった自身の機体に寄り添うように屈んだそれは、腕を動かし、イスィーズ機の肩に手を置く。



「隊長、ハッチが開かないのであれば……」


「そうじゃない……。ただ、今は出たくないんだ。」


イスィーズの声は震え、水音を纏わせていた。

状態の悪い、ノイズと、外の雑音混じりの回線であっても、泣いているということがわかった。



「しかし、隊長。このままあの白い戦艦に逃げられては…」

味方機の首が重苦しい音を立てて、上空の、砲撃を行いながらも確かにこの街を出ようという、巨大な戦艦を向く。


イスィーズもそれに合わせて、メインコンピューターを操作して、右小型モニターに、あの戦艦を捕捉させる。

暫くして、その戦艦は緑で囲われ、その枠線が付いたということは、拡大と録画を可能にする。

戦艦を拡大させると、メインコンピューターにその画像が表示された。


戦艦、ノアの側で、黒い点線と赤い点線2つが蠢いている。そしてその戦艦の予測進路は、東北東。つまり、このままロンデイルへ向かえてしまう進路ということだ。



「……そうか、あの艦にはメサイア様が!」

イスィーズは隣で静止していた機体へ視線を向ける。

ロンデイル、メロー閣下と王室直属のメサ・ロトゥンド隊には、複座式の機体があるという。足を取り除き、

女王メサイアが乗ることによって、その性能を発揮する機体が。


イスィーズはメインコンピューターを操作し、オートに切り替える。

機体は操作を待たずに、瓦解した建物の残骸に手を置き、寝そべる形から、上体を上げ、下半身に力を入れ始めた。

頃合いを見て、オートを切り、操縦席を握る。


「ガディヨットーに集結しろ、我々もここを離脱する!」




眼前の黒い機体は、先程の勢いを無くし、フラフラと力無く飛行して、屋根にその体を当てつけていた。


「くそ…」

ナーケルは自身の頭を覆うような巨大なヘッドマウントディスプレイを外し、頭を抑える。

座席のヘッドレストから延長するように取り付けられたそれは、コックピットの天井を向いていて、ナーケルはその素顔を、機体内部で晒していた。

強化人間にとって、それは異常である。


「あの機体、いきなり素早さも、パワーも無くなった。」

スタームはヘルメットのバイザーを上げ、その眼鏡を外してから汗を、袖で強引に拭う。

先程までの機体の圧倒的といえるパワーとスピードは消され、サブモニターとコンピューターに頼り切りの状況ではなくなっていた。


現に、この強化人間として戦うナーケルの、ヘッドマウントディスプレイを使用しない状況下での力量は、

本来のナーケル・ヨーガのそれであり、スタームの横の

イブに到底敵う実力ではなかった。



「スターム少尉、今のうちに。」

イブのドミティアンがこちらを向き、今すぐにでも、撃墜されたクストと戦線から大きく離れたアダムの様子を見に行きたいようだった。


「あぁ、頼む。」

スタームは頷き、ヘルメットのバイザーを再び下げる。

マシンガンを右腕に構え、イブの背中を庇うようにするが、その黒い機体はやがて飛行もやめて、建物の屋根に取り付いていた。



「あの赤い機体の声……あいつの声を聞くと、俺が否定される感じがするんだ!」

ナーケルは頭を両腕で抱え、座席の前のメインコンピューターに寄りかかるような姿勢をとる。

本来であれば、異常を察知し、回収を行う機体がいる。

しかし、アシュクは愚か、シャキリでさえ、その場にはいなかった。




メインコンピューターを白い手袋越しに操作する。

ディスプレイを通して倒壊した地面を映し出し、所々に民間人だろうか、人の死体と、アッシスらしきマシーンの残骸が転がっていた。



右のモニターが短い高音を発し、地面に緑の枠線を作り出す。それは細かい動きを繰り返し、前進していた。


その枠線をタップすると、映像は拡大され、マシーンのツインセンサー内蔵のカメラは拡大と縮小を繰り返す。


「あれ…クスト少佐!」

イブは座席から乗り出すようにし、機体を降下させる。



クストは腕を外に振り、肩で息をしている。

ただ足が遅かった。


「なんて可愛い走り方なの。」

イブは肩を震わせ、機体を着陸させる。

風に煽られ、口を三角にして、目を細めるクストの顔が右の小型モニターに一杯に映し出され、イブはさらに笑ってしまう。



「まさか…スターム!」

クストは顔をパッと明るくし、片腕を地面に擦り付けながら、自分にそれを向かわせる機体を見上げる。

雨を遮り、ツインアイを緑に輝かせるその機体を操る人物を想像すると、胸が高鳴った。



「少佐、早く乗って!」

ツインアイを点滅させ、スピーカーを介して聞こえる声はイブのもので、肩透かしを食らった気分だった。


「准尉か、ありがとうね。」

クストはそそくさと手のひらに乗り込み、自身の落下を防ぐために折り畳まれた指の一本に掴まる。



機体が上昇し、体が下のあたりから浮かぶ感覚が襲う。

背筋がぞわぞわし、さらに強まった雨が顔に降りかかった。

機体は加速して、風と雨がクストの顔を襲う。

髪は濡れ切っていて、パイロットスーツも同様だった。


「イブ、風邪ひいちゃうから中入れてよー!」

クストは手のひらでジタバタと暴れ始める。

足を滑らせ、家の屋根達が視界に入った。

イブにスピーカー越しで危ないと叱られたので、

暴れるのはやめた。




スタームのコックピットの右小型モニターに、

ノアのブリッジ、ヘッドホンとマイクを付けた、

モニ・ラターが映し出される。


「少尉以外の機体はノアへ帰投しました。このままサウサンプトンは離脱します!少尉も急いで!」


モニはスタームを映し出しているコンピューターの

横のモニターが、敵艦インペネスと付随艦入港を示していることを確認し、叫ぶ。



「了解、そのまま3番ハッチに飛び移ります。」

スタームはメインコンピューターを操作する。

機体はツインアイを暗色から、緑色に輝かせ、生気を取り戻したように民家の屋根から上昇をかけた。


眼前の黒い機体のパイロットは何か叫んでいるようで、モニの通信が途絶した後、その音声を傍受した。


サウサンプトンの上空で初めて戦闘を行ったあの時、黒い機体のパイロットの声を聞いた時に、不思議とアネストから無断出撃を行った初陣を思い出した。


シスメと結びつくわけだった。

その男性の声は…


「これ……ナーケル中尉じゃないか…?」

スタームは瞳を震わせ、再びバイザーを上げてその機体を見下ろした。


雨は止み、灰色の雲の隙間から、赤色の夕日が差し込み始めていた。


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