戦いに染まる
モニターは暗転し、やがて外の光景を一切遮断する。
外の光景を映し出し、武器をもって自身の身を守る兵器は、ただ焦げ臭く、いつ爆発してもおかしくない狭い爆弾に自分を閉じ込めているようだった。
座席から浮遊感がきて、体の中央からやってくるゾワゾワとした感覚。
操縦桿とコンピューターを操作しようにも、展開されたエアバッグによって遮られ、命を守るつもりなのだろうが、お節介もいいところだ。
時間はどれほど経っただろうか、自分の背中が座席に弾かれ、呼吸がままならなくなる。外で煉瓦が割れて、ガラスが散る音がする。窓なんてない合金に閉じ込められたコックピットからその音が確認できるということは、建物に機体が直撃して、肉薄しているということだ。
次は右側から衝撃が来る。先程まで鬱陶しかったエアバッグは、自分を守るために衝撃に合わせて逐一展開される。
自分が邪険にするものに命を救われるのは、なんとも情けない。
萎んでいくそれを手で退け、コンピューターと操縦桿に手をかけるが、メインコンピューターは暗転して、操縦桿は根詰まりを起こしたように固く、とても動かせるものじゃなかった。
明かりのない、暗いカプセルに延々と鳴り響く警告音。
「クソ…!俺達は戦争なんか知らないんだ…。月で煽てられて、地球に降りてみれば、こんなことをやらされるなんて知らなかったんだよ!」
座席から起き上がるように背もたれを腕で押し出す。
神経痛のような痛みが全身に走り、特に背中は声も上げられない。
肺がコックピットに立ち込め始める煙を拒絶するように咳をさせる。
それだけでも、全身が強張り、肋に鋭く痛みが走った。
「こうすれば楽か。」
おそらく地面に寝そべっているのだろう。機体の方向に正直な座席の背もたれにもう一度体を預ける。
「ははは…こんな体じゃ、もう結婚も何も出来ないよ。」
痛みに耐えながら、ヘルメットを外す、白と赤の2色を基調とした生命線は煤で汚れ、汗が滲み、とても被り直したくはなかった。
座席の後ろに位置するモニターへ向けて、それを力一杯に投げつける。
それはガラスを砕く音を発して、一度小さくバウンドするが、その後はただ面白味もなく転がるだけだった。
「脱出用のハッチ、開かないかなぁ。」
操縦桿をもう一度握ってみるが、それはやはり錆びているように動かなかった。
「あの機体、殺そうと思えばやれるが……」
ヴァレンのドミティアンは片腕を失ったことが原因で、フラフラと建物を削りながら落下する。
機体の爆発の可能性は極めて低いが、破損箇所に瓦礫が入り込んでは、後々影響があるだろう。
もう一度バーニアを点火、機体を上昇させ、近場の家屋の屋根へ取り付く。建物ははミシミシと唸るが、倒壊一歩手前でドミティアンを受け入れる。
「昔のものは、純粋で強固だよな。」
モニターを拡大すると、先程の機体は幾度か建物にぶつかったようで、上半身だけが、煉瓦造りのその地面に寝そべっていた。
「ジェナ達のことがあるが…。もう良いよ、十分わかったはずだ!」
機体は瞳を輝かせ、エンジンを点火する。建物の屋根達がゆっくりと下がっていき、視界全体がひらけていく。
遠くで巨大な戦艦が機体に追われていた。
拡大させるとそれは白く、青い色もラインとして入っていた。
「ノアだ…援護は何をやってる!イスィーズさん達は!」
機体の首を左右に稼働させる。モニターが右、左と動き、周辺の情報を読み込み、索敵も兼ねる。
自身の横に、鎧のような外装の機体が通り過ぎるのが確認できた。
「テラーストュートの機体、悪いが手柄は頂く!」
その機体は、先程の建物の側で寝そべっていた無抵抗の機体へ近づき、地面に体を平行にさせ、その巨大な拳を矢を引くように捻る。
「待て!」
ヴァレンは座席から前のめりになるようにして、叫ぶ。
その機体は捻った腕を敵機の胸に打ち込み、食い込ませ。
上半身だけだった機体は建物を巻き込んで爆発した。
「よく際限なくやってくれる!この人殺し共が!」
ドミティアンの武装、マシンガンを取り出す。
上の銃口は従来のそれだが、すぐ下に取り付けられた銃口は違う。ビーム兵器が内蔵されたものだ。
迷わず下の銃口を選び、紫の粒子が火器の内部と辺りの空域を輝かせる。
「味方でない!?……うわぁ!」
ドミティアンの右腕が紫に輝き、地面を平行に浮遊していた機体は背中を撃ち抜かれ、なす術なく爆発を起こす。
ヴァレンは呼吸を荒くし、バイザーを押し上げた。
「あの赤い機体、アダム准尉の…なぜ我々を攻撃した!」
モニターが拡大させた。味方の機体を准尉が破壊したのが。
ジェナと親密に、いや奴はたぶらかしたと言える。
イスィーズは操縦桿を握り、機体をそちらへ加速させた。




