75.地毒の発生
マティアス様が無言でカーテンを全部開け、ドアの外にいた者たちを呼んだ。
「今すぐ国王と王女の安否を確認しろ!
王太子は地毒にかかっている!」
「なんですと!!」
叔父様が叫んで、すぐに国王の部屋へと走っていく。
お兄様は騎士に命じて王女の様子を見に行かせていた。
「医師を呼べ。王太子の治療にあたらせろ」
「「はっ!」」
命じられた近衛騎士が走って医師を呼びに行く。
「マティアス様、医師はナタニエル様の症状を見たのなら、
地毒だと知っていたのではないでしょうか?」
「おそらくそうだろうな。国王のほうも診ていただろうし。
知っていて帝国に報告せずに治療をしていたのなら、
医師も罰する必要があるだろうな」
医師が来るのを待っていたら、
それよりも早く国王を確認に行った叔父様が戻ってきた。
「国王陛下の様子を確認してまいりました!」
「どうだった?」
「……とても生きているとは思えないほどひどく……。
ですが、脈はありました」
「そうか」
マティアス様のため息とともに、周りの者たちの雰囲気も暗くなる。
まだ生きてはいるが、治療が間に合うとは思えない。
生きているとは思えないほど症状がひどくなっているのなら、
いつから国王は放置されていたのか。
ようやく医師が連れてこられたが、真っ青な顔をしている。
処罰されると思っているのか、ガタガタ震えている。
遅くなったのは医師が自分では歩けなかったからのようだ。
拒んだからというわけではなく、恐怖で動けなくなっているらしい。
思ったよりもまだ若い医師だった。
見覚えがないのは、私が帝国に行ってから採用された医師かもしれない。
「お前は国王に治療したか?」
「く、薬は飲ませていました!」
「王女には?」
「お、王女ですか?まさか王女も同じ症状が出ているのですか?」
王女のことは知らなかったのか目を見開く。
マティアス様が近くにいた近衛騎士に問いかける。
「王女は今どこにいるんだ?」
「はっ!貴族牢にいます!」
「貴族牢?ああ、あれか。あのまま貴族牢にいるのか」
アンジェラ様は結婚式の前日に押しかけてきたことで、
ナタニエル様が貴族牢に入れると言っていた。
めずらしくアンジェラ様に冷静な対応をしていると感心したけれど、
今になって考えてみればおかしい。
「もしかして、ナタニエル様はアンジェラ様の症状を知っていて、
他の者に見られないように貴族牢に入れたのではないでしょうか」
「俺もそうだと思う。
だから急いで王女を連れ戻しに来たのだろう。
俺たちに症状を見せないように」
またマティアス様からため息が漏れる。
びくりと震えた医師はこれがどれだけひどい状況なのかわかっているのだろうか。
「おい、お前は地毒の治療をしたことがあるのか?」
「い、いえ……ありません。前の地毒の時はまだ十代でしたので」
「だろうな。お前が王太子に飲ませていた薬では効かない。
ほんの少しだけ進行を遅らせることができるかもしれないが、
このままでは三人とも死ぬだけだ」
「そんな!ど、どうすれば……」
「地毒のほうは俺がなんとかしてくる。
まずは与える食事はオードラン公爵領から取り寄せたものだけにしろ」
「は?オードラン公爵領ですか?」
王宮の食料はすべて王領から取り寄せたものだ。
言われた医師は意味がわからずぽかんとしている。
意味を理解した叔父様が即座に答える。
「わかりました。すぐに手配して参ります。
他の高位貴族の食事も同じですな?」
「ああ、できるかぎり貴族の食事はそうしたほうがいい」
「わかりました!」
叔父様が急いで手配するために走っていく。
それでも医師は意味がわからず戸惑ったままだ。
「あの、どういうことで……」
「地毒は魔力で汚染された食料を口にすることで悪化する。
オードラン公爵領は汚染されていないことを確認してある。
これ以上ひどくならないためにも汚染された食料を与えるな」
「ですが、オードラン公爵領から取り寄せるには丸一日かかります。
その間はどうすれば……」
「一日くらい食事抜きでも死なない。
だが、今ある食料を食べたら死ぬ可能性が高くなる。
どちらがいいか判断できるだろう」
「……はい」
「地毒で死ぬものが出ればお前も罪に問われるだろう。
覚悟して治療にあたるんだな」
「はぃぃ!」
ぎろりとにらまれた医師は、飛び上がってナタニエル様の部屋に飛び込む。
薬が効かないというのなら、治療のしようもないのに。
地毒が解消されるまで、どうするつもりなんだろう。
「リンネア、地毒を解消しに行ってくる。
ダニエルとケニーと一緒に待っていてくれ」
「嫌です」
「え?」
「私も一緒に行きます」
「は?」
私たちを王宮に置いて、一人で行こうとしていたマティアス様に、
手を伸ばして両頬に手を添える。
「一人で行こうとしないでください。
私はどんな時でも一緒に行くと決めたんです。
連れて行ってください」
「だが……」
「本当に危ない時は少し離れたところで待っていますから」
「でも……」
「お兄様もケニー様もマティアス様を守るために来ているんです。
私を守るために王宮に置いて行ってはダメです。
みんなで行きましょう?」
その言葉にお兄様とケニー様も同意してくれる。
「その通りですよ、マティアス様。
こんなところにリンネアを置いていくよりも、
全員で行ったほうが安心です」
「リンネア様を置いていったら、マティアス様は心配でたまらないでしょ?
あきらめて全員で行って、さっさと片付けてきましょうよ」
「お前たちまで……」
「マティアス様、何を言ってもついていきますからね?
置いていったら、一人で追いかけますよ?」
「……ああ、わかったよ。
連れて行くから、一人で追いかけるとかやめてくれ。
心配で置いていけないだろう」
「ふふ。置いていかなければいいんです」
にっこり笑うとマティアス様は両手をあげた。
「降参だ。……行こうか」
「はい!」




