64.リンネア主催のお茶会
「エリーゼ様はマッケート様が王族になればいいと思わないのですか?」
「え?マッケート様が王族に?」
「マッケート様は王弟殿下のご子息ですし、王族でもおかしくないと思うのですが。
リンネア様のご出身のエルドレドでは王族の子は王族だと聞きました」
「……ええ、エルドレドでは王族に残った王弟の子ならそのまま王族扱いになるわ。
王弟で王族に残るということ自体がめずらしいことではあるけれど」
帝国では皇帝の子として生まれた者は全員王族のまま。
だが、次の皇帝にならなかった皇子の子は王族にはならない。
エルドレドを始めとする属国にはない制度だ。
どうしてマッケート様を王族にしてはいけないのだろう。
エリーゼ様はどう答えるのかと思ったが、
面白そうに笑っていた。
「そうね。思ったことはないわ。
むしろ王族だったとしたら求婚を断っていたかもしれない」
「ええ?どうしてですか?」
「だって、王族の妃って大変じゃない。
リンネア様のように妃になるために何年も教育を受けなくてはならないのよ。
残念だけど、私には耐えられないと思うわ。勉強が嫌いなの」
ふんわりと笑うエリーゼ様のまっすぐな答えに聞いた令嬢もうなずくしかない。
その代わり、興味が妃になるための教育に移ったようだ。
「やっぱり妃になるための教育って大変なのですか?」
「たしかに大変ではあったけれど、耐えられないほどではなかったわ」
「リンネア様だから耐えられたのだと思いますわ」
黙って話を聞いていたディアナ様が口を開いた。
「属国の王女教育よりも皇太子妃教育のほうが大変なのですもの。
しかも優秀な成績で終えたとマリアから聞きましたわ。
さすがですわね、リンネア様」
「ありがとうございます」
王女であるディアナ様が褒めてくれたからか、
周りの令嬢たちからも称賛の声が聞こえる。
皇太子妃教育がどんなものだったのか聞かれるままに説明していると、
終わりの時間になっていた。
来てくれたお礼を言い、令嬢たちに用意したお土産を渡す。
商会にはまだ置いていない、花が練りこまれた石鹸だ。
使わなくても、近くに置いておくだけでいい香りがする。
ディアナ様、アデリナ様、エリーゼ様に手伝ってもらったおかけで、
お茶会は大成功することができた。
令嬢たちが帰った後、報告のために執務室へ向かう。
執務室にはマティアス様と側近のみなさんが全員そろっていた。
「お茶会は終わった?」
「はい」
「うまくいったようだな。うれしそうな顔をしている」
「ええ、皆さんと仲良くなれたと思います」
皇太子妃になる前にもっと令嬢たちと交流しなければいけないけれど、
最初のお茶会としては上出来だったと思う。
「ちょうどいい、リンネアにも関わることを話し合っていたんだ」
「私にも?」
「エルドレドから結婚式の招待状が届いたんだ」
「結婚式?ナタニエル様とサンドラ様のでしょうか?」
「そうだ。日時は四週間後」
「四週間後?ずいぶん急な話なのですね?」
「身ごもったというわけではないと思うが、一刻も早く結婚したいのだろうな。
この結婚がうまくいかなければ王太子でいられなくなるだろうから、
サンドラの気が変わらないうちに結婚しておこうというところか……」
「サンドラ様が求婚を受けたということですか?」
サンドラ様はずっとマティアス様と結婚したがっていた。
私と婚約した後も側妃になろうと企んでいたのに、
ナタニエル様の求婚を受ける気になるとは思えなかった。
サンドラ様がエルドレドに行ってからまだ四か月。
「サンドラにつけた監視からも報告が来ていた。
王太子が毎日のようにサンドラに花を送り、
一緒に買い物に出かけてドレスや装飾品を贈っていたと。
まるで恋人のように仲がいいとの評判だと」
「うまくいっているのなら良かったです」
私の代わりにエルドレドに送ったような気が少しだけしていて、
サンドラ様に申し訳なく思っていた。
うまくいっているのであれば良かったと心からほっとする。
「それで、誰が出席するか相談していたんだ」
「通常は、属国の王太子が結婚するとなったらどなたが出席するのですか?」
「ここしばらく王太子の結婚式がなかったけれど、
叔父上か俺になるだろうな。
招待状の宛名は俺とリンネアになっていた」
「では、マティアス様と私が出席することになるのですね」
確認のために言ったのに、全員に不思議そうな顔をされる。
「どうかしました?」
「いや、リンネアが出席するのは嫌なんじゃないかと思っていたんだ」
「私がですか?」
「ああ。元婚約者の結婚式になるわけだから」
「ああ……そうですね。それは考えていませんでした。
どちらかと言えば、サンドラ様のほうに気まずいと思っていたくらいで」
「それは……俺もそうか」
マティアス様はサンドラ様と婚約していたわけではないけれど、
幼いころから執着されていたのだから思うところはあるはず。
「気にするとしたら向こうのほうだと思いますが、
二人を招待したというのならあまり気にしないほうがいいのかもしれませんよ。
むしろ、そういう過去があるからこそ招待したのかもしれませんし」
「それはありそうですね。
リンネアを招待することで両国にはわだかまりがないと、
他国に見せようとしているのかもしれません」
アラン様の考えにお兄様も賛同した。
「それはありえるな。エルドレドが心配しているのは、
リンネアの機嫌を損ねることだろうから。
仲がいいことを他国に見せようとしているのかもしれん」
「お二人が問題ないと思うのなら、出席してもいいのではないですか?」
「それもそうだな……出席するか、リンネア」
「はい」
こうしてマティアス様と私は結婚式に出席するために、
三週間後にエルドレドに向かうことになった。




