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61.慌てる者

次の日、食事室で朝食を終えてお茶を飲んでいたら、

国王の使いが慌てた様子で来た。


「あの、帝国の王族の方々の姿が見えないのですが……」


「ああ、あの者たちは昨日のうちに帝国に送った」


「ええ!?」


「事情が知りたければ説明すると国王に伝えろ」


「は、はい!」


こんなにすぐにあの二人の不在に気がつくなんて、

監視させていたのだろうか。

それとも、それだけ日常的に顔を合わせていたのか。


使いの者に伝言をしてから、それほど時間を置かずに国王が訪ねてきた。


「皇太子殿下!ユーリイス様とクララ様が帰ったというのはどういうことですか!?」


「帰ったのではない、送ったのだ」


「……?どう違うのですか?」


マティアス様の返答が予想とは違ったからか、国王はぽかんとした顔になる。


「あの者たちは帝国の王族を名乗っていたが、俺は知らない顔だ」


「は?」


「父上の兄だと名乗ったが、俺には判別つかない」


「いえ、間違いなくユーリイス様でした!

 以前に会ったことがあるので間違いありません!」


「だが、父上の兄はとっくの昔に亡くなっているはずだ」


「え……そういえば……。ですが、あれはユーリイス様です!」


帝国の夜会で会ったことがある国王はユーリイスが王兄だと確信している。

だが、それを認めることはできない。


「俺もその話は本人から聞いた。国王とは会ったことがあると。

 だが、先代国王が王兄は死んだと言っている。

 どちらが正しいかと言えば、先代国王に決まっている」


「それは……そうかもしれませんが。

 では、ユーリイス様はどうなるのです!?」


「だから帝国に送ったんだ。俺では判断できん。

 本来なら、王族の名を騙った時点で処刑するべきだが、万が一ということもある。

 どう対応するかは父上が決めることだろう」


「処刑だなどと……皇帝陛下の兄ですよ!?

 それにユーリイス様とクララ様には本当にお世話になって。

 もし、帝国でお世話できないというのなら、我が国で預かりましょう!」


「それは無理な話だな。

 王族だと認められたのなら他国に置くわけにはいかない。

 王族として認められないのなら、処刑されるに決まっている」


「そんな……処刑だなんて」


国王は心配そうに顔をゆがめたけれど、

小さな声で「殺すなんてもったいない」とつぶやいたのが聞こえた。


「俺としては偽物だったと思うが」


「え?それはないでしょう。秘術を見せてくれましたよ?」


「魔獣と戦ったのか?」


「いえ、見事な治癒術でした。あれは秘術でしょう?」


「秘術に治癒術はない。やはり秘術が使えないのなら王族ではないな」


「治癒術は秘術ではない……では、王族ではなかった?

 顔が似ているだけの偽物だったと?」


「帝国の教会に治癒術を使えるものは何人もいる。

 この国には教会がないからめずらしく感じたのだろう」


「……そうですか、失礼しました」


騙されたと感じたのか、国王は悔しそうな顔で退室していった。


少しして、廊下を気にするように振り返りながらアラン様とお兄様が部屋に入ってくる。


「今のは国王ですね。なにやら物騒なことを言っていましたよ」


「物騒?」


「王族でないのなら金をかけるのではなかった。

 さっさと奴隷にでもしてしまえば奪われなかったものを、と。

 我々が近くにいるのに気がつかずに怒っていました」


「ああ、あの国王が言いそうなことだな。

 ユーリイスとクララを逃がしたのが惜しいのだろう。

 俺が王族だと認めていたのなら、この後も長期滞在を望んできただろうし」


「もう平民は奴隷として売ったでしょうに、そこまで必要なのでしょうか?」


「そうだな……もしかして国王の治療もしていたのかもしれない。

 もう高齢だし、体調を崩すこともあるだろう」


「だから、こんなに早くに不在なのに気づいたのでしょうか」


ただの客人なら、こんなに早く気づくことはありえない。

貴族なら昼前まで寝ていてもおかしくないのだから。


「毎朝、治癒をかけさせていたのかもしれないな」


「それは大丈夫なのですか?」


「国王ならそこそこ魔力があるだろうし、

 重い病気や怪我でなければすぐに影響が出ることはないはずだ。

 一年半以上、毎日かけていたというのなら……わからないが」


「そうですか」


マティアス様が自分の身体に治癒術をかけたり、王族同士でかけたり、

妃にかけるくらいなら問題はないらしい。

帝国の王族も妃になる王女や高位貴族令嬢も魔力が豊富だから。


平民や下位貴族にかけない限り、急激な変化はないと聞いて少しほっとした。

マティアス様は何度も自分自身にかけているはずだから。


「あの二人はどこまで騎士が同行するのですか?」


「違う国に入るまで見届けたら帝国の王宮に戻るように言ってある。

 そのころには俺たちもこの王宮を出ているだろうから」


「違う国……どこに行くのでしょうね」


「奴隷にはなりたくないだろうからイースレア王国は避けるだろう。

 穏やかなものが多いサウザリス国あたりかな」


あの二人の馬車には数名の騎士をつけていた。

帝国経由で他国に逃げるまでは監視するようにと命じて。


宝石を多く産出するイースレア国は豊かな国だけど、移民を嫌う傾向がある。

移民だとそもそも受け入れてもらえないか、捕まって奴隷にされてしまう。


サウザリス国は属国の中でも一番南に位置しているので気温が高く、

農業や畜産が盛んな国で人柄も穏やかな人が多いと言われている。

移民を受け入れてくれる国でもあり、他の国から移住する人も多いそうだ。


あの二人がどこに移住したのかわかるのは、

私たちが帝国に帰った後になる。


「式典と夜会は明日だ。明後日には帰るように準備しておこう」


「はい」



夜会の次の日に帰るのは大変なことだが、

この王宮に長居する気は誰もなく、静かにうなずいた。




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