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60.言い訳

「そんなの知らなかったんだからしょうがないじゃない!」


「知らなかったか……そうかもしれないがな」


「でしょう!?」


「勘違いするな。俺はその意見を認めたわけじゃない。

 それに、奴隷を購入した側はどうだろうな」


「は?奴隷って何よ?」


「お前たちは俺が帝国に帰ってすぐにここに来たのだろう?」


「そうよ」


「あの平民が死んでもなんとも思わないような国王が、

 どうして平民を手当てして治そうとしていたか、わからないか?」


怪我をした平民たちがなぜ王宮内にいたのか、

この二人はわかって治療したのだろうか?


「まさか、生き残った平民を奴隷として売ったというのか?」


「そうだ」


「は?そんなひどいことが許されるの!?」


「許す?怪我をした平民たちは王宮を襲っていた。

 生き残ったとしても、処刑されて当然の罪だ。

 ユグドレアの国王は処刑せずに奴隷として売っただけのこと」


「それは……」


処刑されるのと奴隷として売られるの、どちらがひどいだろうか。

だが、王宮を襲った平民だって、騎士を殺しているかもしれない。

その分の罪は償わなくてはいけないはずだ。


「奴隷を売った先はイースレア王国だろう。

 あそこは鉱山で働かせるために奴隷を認めている。

 若い平民が奴隷として数百単位で売られたはずだ。

 それが不審な死が続くようなら苦情も来るだろう」


「不審な死って……本当に死ぬの?」


「軽い怪我ならともかく、内臓を損傷しているような怪我だった場合、

 何十年分も寿命を消費してしまっただろう。

 さっきまで元気で動いていたのに、突然動かなくなって死んでいくんだ。

 それが続けば誰だっておかしいと思う。

 そうなった時にあの時の治癒術が原因だとユグドレアの国王も気がつく」


「でも……悪気があったわけじゃ」


「その言い訳で誰もが納得すればいいがな。

 帝国も俺も責任は取らない。

 お前たちが王族だと保証することもしない」


「じゃあ、どうしろっていうのよ!

 私たちもあきらめて奴隷になれっていうの!?」


まだ若いクララが奴隷になった場合、どう扱われるかは目に見えている。

さすがにそうなればいいとは思えず、そっと目を伏せた。


「……馬車一台と一か月分の食料と金を渡す。

 ユグドレアを出て、帝国以外の国に行って静かに暮らすんだ。

 それを約束できるのなら、ここから逃がしてやる」


「……お父様、どうする?」


「どうしても王族には戻してくれないのか?」


「何度も言わせるな。魔獣の大発生で死んだ人間がどれだけいると思っている。

 そして、治癒術のせいでこれから死ぬ人間がどれだけいるかもわからない。

 お前たちは王族としてそれの責任を取れるというのか?」


「……無理だ」


「なら、王族ではない者として生きるしかないだろう」


「…………わかった」


マティアス様はアラン様とお兄様を呼んで、

二人を乗せる馬車と荷物を用意させた。


準備ができ、二人が部屋から出ていくとき、

なぜかクララににらみつけられた。


……いったいなぜ。


マティアス様も気がついたようで、私をさっと背に隠した。


「早く行け。もし、今後帝国内で顔を見せるようならただでは済まさない。

 王族の名を騙ることも許さない。よく覚えておくように」


「あ、ああ……」


返事をしたのは父親のほうだけだった。

クララはじっとにらみつけるようにこちらを見ただけだった。


王族になれると思っていたのに追い出されるように逃げることになって、

行き場のない怒りを抱えているのかもしれないけれど、

私をにらんだとしてもどうしようもないのに。


ドアが閉まりマティアス様と私だけになると、どっと疲れが出てきた。

今日、ユグドレアに着いたばかりなのに、こんなことが起きるとは。


「これで問題は片付いたのでしょうか?」


「いや、わからないな。さっきも言ったとおり、奴隷の問題がある。

 帝国の王族が治療したせいだと言われた時の対応を考えておかなくてはな」


「そうですね……」


それから戻ってきたアラン様とお兄様と相談し、

今後治癒術についてユグドレアの国王から問い合わせがあった場合、

怪我がひどい場合、表面は治したように見えても、

深い傷が治りきらないこともある、と説明することになった。


これで納得してもらえるかはわからないけれど、

そう説明するのが一番いいのではないかと思う。


王兄ユーリイスが生きていたというのはどうなのかと聞かれたら、

本当に死んでいなかったのか確認をしようと帝国に送り届けたが、

途中で逃げられてしまって確認できなかった、ということになった。


あの二人が王族の血をひくものなのかどうか、

確認できなかった以上、本物かどうかはわからない。


少なくとも、帝国の王族にあのような者たちはいない、

そう言い張ることになる。


苦しい言い訳かもしれないけれど、

財政が厳しいユグドレアが帝国にそれ以上強く出ることはないはずだ。


今後の対策が決まったことでアラン様とお兄様は自分たちの部屋に戻り、

マティアス様と私はようやく休むことにした。


「今日は散々な日だったな……疲れただろう」


「正直に言うと、そうですね。疲れました」


「とにかく早く眠ろう」


マティアス様に手を引かれて寝室まで行き、そこでハッと気づく。


ベッドが一つしかない。


それもそうだ。この部屋はマティアス様が一人で使う予定だった。

二人で寝ても大丈夫なほどの大きさではあるけれど、

同じベッドで一緒に寝ることになるなんて……。


「……嫌かもしれないが、疲れているだろうから早く休んでほしい。

 何もしないから、隣にいてもいいだろうか?」


「……はい」


今さら他の部屋に行く気力もないし、この王宮が安全には思えない。

マティアス様の隣で眠るのが一番安全なはず。


両側からもそもそと毛布の中にもぐり、横になる。

すぐ近くにマティアス様がいるのがわかるけれど、

疲れすぎて目を閉じたらもう開けられそうになかった。


「おやすみ、リンネア」


「……はい、まてぃうすさまぁ……」


半分眠った状態で返事をしたけれど、きちんと返事ができていたのかはわからない。







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