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54.野営

お兄様に指摘されたことで落ち込んでいた様子のマティアス様だったが、

騎士が呼びに来た時にはもう気持ちを切り替えたようだった。


お兄様とアラン様の様子も変わったところはなく、

昨日までと同じように四人で食事をとる。


違うのはここが宿ではなく、野営用のテントだということ。


私はどこで休むのかと思ったら、

案内されたのはマティアス様と同じテントだった。


「え?マティアス様と同じなのですか?」


「ああ。申し訳ないが、野営中は危険だ。

 リンネアの護衛を女性だけに任せるわけにもいかない。

 俺と一緒のテントにいさせて、周りに護衛騎士を置くのが一番安全だから」


「そうですか……」


安全のためには仕方ないのだろうけれど、

まさか同じテントで眠ることになるなんて……。


どきどきしてしまって眠れないかもしれない。


「できるかぎり、簡易ベッドの位置は離してあるし、間に仕切りも立ててある。

 他にしてほしいことがあれば言ってほしい」


「それなら……大丈夫だと思います」


「そうか」


そこまで配慮してくれているのであれば、

これ以上何かさせるのはわがままになってしまう。


もともとこの旅は私が行く予定ではなかったのだし、

無理を言って連れてきてもらっているのだから。

緊張して眠れないかもしれないくらい我慢しよう。


テントの中に入ると、マティアス様が言ったとおり、

中央に仕切りがあり、その両側に簡易ベッドが置かれてあった。


離れているけれど、寝返りする音も聞こえてきそうな距離だ。


「今、カルラを呼ばせている」


「あ、ありがとうございます」


「明日の打ち合わせをしてくるから、ゆっくりしていてくれ」


「はい」


カルラがテントに入ってくると同時に騎士がたらいを運んできた。

中には湯が入っているようだ。


騎士が下がると、マティアス様も一緒にテントから出ていく。


「さ、リンネア様。湯で身体を拭きましょう」


「拭く?」


「野営中は湯あみができませんから。

 布を湯に浸して絞り、身体を拭いて清めるんです」


「そうなのね」


テントの中で服を脱ぐのは少し恥ずかしかったけれど、

カルラに身を清めてもらう。


「カルラはどうするの?」


「あとで自分のテントの中で清めます。

 クルスと同じテントなので、クルスに見張りをしてもらう予定です」


「そう。なら大丈夫ね。

 私のわがままでカルラにも迷惑かけてごめんなさい」


「いえ、こうして久しぶりにリンネア様を独占できてうれしいですよ。

 私は今後もどこにでもついていきますからね!」


「ふふ。ありがとう」


野営だからかいつもよりも厚手の夜着に着替えさせられる。

これなら肌が透けないし、露出もほとんどない。


「では、終わったことを報告しに行ってきますね。

 お休みなさいませ、リンネア様」


「ええ、おやすみ」


カルラがたらいを持って下がると、それほど待つことなくマティアス様が戻ってくる。

マティアス様は他のテントで身を清めたのか、夜着姿だった。


「今日は疲れただろう。灯りを消すからベッドに入って」


「はい」


私がベッドに入ったのを見たマティアス様が灯りを消す。

テントの外のかがり火が見えるのか、うっすらと明るい。


マティアス様がベッドに入るときにキシリと音がした。

それがすぐ近くに聞こえた気がして、マティアス様の存在を感じる。


どうしよう。

意識してしまって、眠れそうにない。


このまま朝になるのを待つしかないのかと思ったけれど、

少ししてマティアス様の寝息が聞こえ始めた。


もう眠ってしまったんだ。

マティアス様の寝息が聞こえるのが不思議で、でもうれしくて。

耳をすませていたら、いつの間にか私も眠ってしまっていた。




次の日、野営を片付けてまた馬車に乗る。


昨日お兄様が言っていた対策はどうなったんだろう。

マティアス様に抱き上げられたまま窓の外を見る。

今日はまだ一度も止められていないけれど……。


しばらくして、馬車の速度が少しだけ落ちた。

止められるのかと思ったけれど、止まることはなかった。


「マティアス様、今のは……」


「おそらく昨日のように民が食料を求めてきたんだろう」


「どのように対策したのですか?」


「窓の外を見ていて」


言われた通り窓の外を見ると、道のわきに騎馬隊の者が止まっていた。

その向こう側にユグドレアの民が何人かいるのが見えた。


「騎馬隊が少しだけ先行している。

 車列を止めるために待っている民がいたら、

 騎馬隊の者が民を制止して道の外側によけさせる。

 車列が通り過ぎたら、騎馬隊は馬に乗って先頭に戻る」


「なるほど……それなら車列に影響はありませんね」


「ああ。幸い騎馬隊の数は多い。

 よほど多い人数でなければ対応できるだろう」


「これなら怪我人も出ませんね」


「ああ」


ほっとしたように微笑むマティアス様を見て、私も安心する。


その後は対策がうまくいき、夕方になるまで一度も止められることはなかった。



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