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53.皇太子がすべきこと

「だが……食料を渡さない限り納得しないだろう」


「納得などさせる必要がないと言っているのです。

 ユグドレアの民を救うのはユグドレアの王族の仕事です。

 帝国が救いたいのなら、今すぐに属国ではなく帝国の一部にしてください!」


「それは無理だろう」


「なら、中途半端なことはしないでください。

 食料を渡したりするからユグドレアの王族が自分たちの責任を放棄するのです。

 餓死したとしても帝国の責任ではありません。

 それが嫌なら、ユグドレアの王族に命じてください。

 それが主国としての責任です」


「……そうだな」


マティアス様が同意したことで少しは怒りが収まったのか、

お兄様は小さくため息をついた。


「マティアス様が悩んでいるのは、

 ユグドレアの民を傷つけずに追い返したいからでしょうか?」


「ああ、そうだ……騎士に無理やり追い返させるのは簡単なことだが、

 そうすればどうしても怪我人が出てしまう」


「では、そう命じてください。

 怪我を負わせることなく追い返せと。

 そのあとで対策を練るのは私たち臣下の仕事です」


「……できるのか?」


「やってみせましょう」


「……わかった。ダニエルに任せる」


何かもうすでに策を考えてあるのか、お兄様は自信ありげに微笑んだ。


それとは対照的に、隣に座るアラン様はしょんぼりしているように見えた。


「マティアス様、申し訳ありません。

 本来ならこうしてダニエルのように意見するのが側近の仕事なのに、

 マティアス様がユグドレアの民を気にかけるのを優しさだと思い……。

 何も意見することなく見ているだけでした」


「アランが気にすることではない」


「いえ、側近として失格です。

 冷たそうに思われることが多いマティアス様が、

 本当はお優しい方だとわかってもらいたくて、黙っていたのです。

 皇太子の仕事に優しさが必要ではないとわかっていたのに」


「アラン……」


なぜアラン様が何も言わなかったのかがわかった。

マティアス様は必要以上に帝国貴族に関わらないためか、

冷酷な人だと思われていた。


だけど、本当はとても人を大事にする優しい人だと私たちは知っている。

本当のマティアス様を知ってもらいたくて、止められなかったんだ。


それは私もかもしれない。

さきほど、それは間違っているのではないかと思ったのに、

マティアス様に意見することができなかった。


皇太子の婚約者としては失格だ。


「ダニエル、すまなかった。

 マティアス様に意見するのには覚悟がいっただろう。

 私も今後はきちんと言うようにしよう」


「ええ、それがいいと思います。

 私はまだ新参者でマティアス様の昔からの友人ではありません。

 だからこそ、意見できることもあると思うのです。

 アランはアランだからこそ言えることも多いでしょう」


「そうか……そうだな。

 マティアス様、今後はこのようなことはないように気をつけます」


「あ、ああ。二人ともありがとう」


「はい」

「では、自分たちの馬車に戻ります」


話が終わったからか、二人は馬車から降りて行った。


ドアが閉まり、二人の姿が見えなくなってから、マティアス様が大きくため息をつく。


「マティアス様?大丈夫でしょうか?」


「ああ……情けないな。ユグドレアの民を救ったつもりでいただけだった。

 皇太子としてすべきことがあるのに、何も見えていなかったんだな」


頭をぐしゃぐしゃっとかきむしり、うつむいてしまったマティアス様に、

そっと近づいて肩にふれる。


「……お兄様の意見は間違っていなかったと思いますが、

 それでも見えていないこともあるかもしれません。

 エルドレドでは困窮している家は教会に助けを求めることができます。

 幼い子や病人がいる家には優先して食料を届けることになっています」


「それは良いことだな」


「はい。ですので、お兄様はユグドレアもそうだと思っているでしょう。

 民に食料を渡さなくても、幼い子や病人は保護されているだろうと。

 ですが、私にはそう思えません。

 民が困窮するほど税を取り立てる王家がそんなことをするでしょうか」


「……ユグドレアでは難しいだろう。そもそもこの国に教会はない」


「やはり……では、前回マティアス様が配ったという食料のおかげで、

 生き延びられた者たちもいることでしょう。

 すべてが間違っていたわけではないと思います」


「リンネア……慰めてくれているのか」


驚いたように顔をあげたマティアス様と目があう。

嘘をついてまで慰めているわけではない。


マティアス様がしたことは皇太子としては不適切だったかもしれない。

それでも、もうしてしまったことは変わらない。


「前回は緊急時の対応だったということでいいのではないでしょうか。

 今後は違う方法でユグドレアを救うことになるでしょうけれど、

 そこまで落ち込むことではないと思います」


「……ありがとう」


マティアス様がしたことで大量の命が失われたというのならともかく、

おそらく問題なのはユグドレアの王家が帝国をなめているということだけ。


それは今後の対応でどうにでもなることだ。


「もう一度抱き上げてもいいか?」


「はい」


移動中のようにまた抱き上げられ、そのままぎゅっと抱きしめられる。

野営の準備ができたと騎士が呼びにくるまで、私たちは黙って抱きしめあっていた。




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