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23.ディアナ様とのお茶会

その日はカルラを中心に朝から磨かれ、お茶会用の新品のドレスに着替える。

東の宮に来てから身体も髪も肌もしっかり手入れしてもらえるからか、

こんな私でも少しは綺麗に見えるようになった気がする。


「それじゃあ、行って来るわね」


「お気をつけて」


「ええ」


他の侍女がいるからか、カルラはよけいなことを言わなかったけれど、

目ではディアナ様に負けちゃダメとうるさく訴えていた。


一か月ぶりに訪れる本宮はやはり大きくて、圧倒されそうになる。

お茶会の場に指定されたのはその中では小さな温室で、

ディアナ様は侍女もつけずに待っていた。


「お待たせしました、ディアナ様」


「いえ、こちらまでお呼びして申し訳ありません。さぁ、どうぞ」


いくら皇太子の婚約者になって身分は上になったからとはいえ、

王族であるディアナ様にえらそうな態度をとるのはできそうにない。


かといってディアナ様に従うわけにもいかないと思っていたけれど、

ディアナ様の方が下手にでてくれたおかげでほっとする。


用意された席に座ったが、なぜかディアナ様は立ったまま。


「少し、お待ちくださいね」


「……え?」


どうしたのかと思っていたら、ディアナ様が流れるような所作でお茶を淹れ始めた。


まさかディアナ様自らがお茶を淹れるとは思わず、驚きの声が漏れてしまう。


「驚かせてしまいましたか?実は侍女をそばに置いていないので、

 たいていのことは自分でしているのです」


「侍女を置いていない?」


「はい。ポスニルアを出る時に連れて来なかったので」


「そんな、どうして」


その質問には答えず、微笑んでお茶を用意してくれる。

目の前に置かれたお茶からはとてもいい匂いがして、

ディアナ様がきちんとした手順で淹れたものなのがわかった。


「お茶は毒見していただいてかまいません」


「それは……」


「リンネア様、失礼いたします」


大丈夫だという前にマリアに止められる。


ディアナ様はマリアが毒見するのを当然のように受け入れ、

何事もなかったように話を始めた。


「わざわざこちらまで来ていただいてありがとうございます。

 どうしてもリンネア様に謝りたくって」


「それは、噂のことでしょうか?」


「はい。婚約者がリンネア様に決まったことで、

 私が婚約者候補だという噂は消えると思っていました。

 ですが、先日二の宮の妃様から声をかけられ、側妃の噂を聞いたのです」


「二の宮の?」


「はい。フレゴリ公爵夫人も一緒でした。

 側妃にはフレゴリ公爵令嬢が選ばれるので私は早く国に帰るようにと、

 そう言われて初めて側妃の噂を知ったのです」


「まぁ、サンドラ様のお母様がそんなことを」


まさか客人でもあるポスニルアの王族にそんなことを言うなんて。

そう思ったけれど、帝国人は他国を見下すのを思い出した。


皇帝の弟様の妃と公爵夫人では、属国の王女を下に見ているのかもしれない。


目の前にいるディアナ様は指先まで美しい所作でお茶を飲んでいる。

帝国の弟様の妃であってもけっして見下していい方ではない。


容姿も美しい方だけれど、佇まいが普通の貴族令嬢とは違う。

アンジェラ様にはなかった気品に、見習わなくてはと思う。


「私は皇太子殿下の正妃や側妃になりたくてここにいるわけではありません。

 ですが、ここにいることでご迷惑をかけていることはわかっています。

 せめて事情を説明して謝罪をと思い……」


「国に帰れないと話していましたよね?」


「はい……実はポスニルア国は叔父である公爵が実効支配しています」


「公爵が?どういうことですか?」


「石炭が採掘される場所を占領してしまっているのです。

 寒いポスニルアでは平民たちは石炭がなくては死んでしまいます。

 石炭を売ってもらうためにお父様は叔父様の言いなりになっているのです」


たしかポスニルアは冬の時期が長く、特産は小麦とじゃがいも、強い酒だったはず。

比較的貧しい国だが、美しい人が多く、皇帝の正妃になることも多い。


そのおかげで税を免除されることが多いので、なんとか保っていると言われている国。

石炭がなければ他の物での対応ができるほど裕福な国ではない。


「王家の力で採掘場を取り戻せないのですか?」


「叔父様はたくさんの私兵を雇っていて、王家の軍では倒せそうにありません。

 王家は戦争で勝てるだけの財力がないのです」


「それは……困りましたね」


「そして、叔父様は私に嫁いでくるようにと言い出しました。

 そうすれば無条件で石炭を平民たちに売ってもよいと」


「叔父は結婚していないのですか?」


「いいえ、すでに結婚して二人の息子もいます。

 それなのに、今の妻は離縁すると言っていて。

 ……おそらく私に子を産ませて、その子を次の国王にしたいのでしょう。

 叔父様自身は継承権が認められなかったので、こんなことを……」


「国王って、アーロン様がいるのに」


「きっと私に子ができれば、お兄様は殺されるでしょう。

 王家はすでに見張られていて、身動きが取れなくなっているのです」


「それでどうしようもなくなって、正妃様に助けを求めに?」


「はい……ですが、皇帝陛下に断られました。

 属国に兵を送ることは禁じられているからと」


それはそうだ。

もうすでに属国になっているとはいえ、帝国法は属国の独立を認めている。

各国の内政には関わらないのが原則だ。


税を納めていない場合は例外だが、おそらくそこはきちんと納めているのだろう。

その叔父という公爵は帝国が仲裁にはいらないと理解しているのかもしれない。


「それで帰れないのですね」


「今、帰ってしまえば、私は嫁ぐことになってしまうでしょう。

 政略結婚を拒みたいわけではないのですが、それではお父様とお兄様の命が危ないので、

 私はポスニルアに帰るわけにはいかないのです」


「ですが、このままアーロン様も帝国に居続けるわけにはいかないですよね」



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