100.石打ちの刑(ダニエル)
「もう!せっかく解放されたと思ったのに、なんなのよ!」
離宮から連れ出されたと思ったら馬車に放り込まれ、
次の朝には出発していた。
これであいつらから逃げられる。
最期を見届けられないのは残念だけど、あいつらが死んだ後、
私がどうなるのかわからなかった。
これで帝国に戻れる。
ウキウキした気持ちで馬車の窓から外を眺める。
帝国に着くまで、ほとんどの時間を馬車の中で過ごしたけれど、
離宮に連れて行かれた馬車と比べたら段違いだ。
多少身体は痛んだけれど、快適な旅だった。
なのに、帝国に着いたと思ったら、大きな建物に連れて行かれ、
そのまま牢の中に入れられた。
ひやりとした土の床に小さなベッドがあるだけ。
他には何もないところに入れられ、意味がわからない。
「私をどうする気なのよ!外に出して!」
「外に出せるわけないだろう。お前は何人も殺したんだ。
処罰が決まるまではここにいろ。いいな」
「は?こんなところ嫌よ!ちょっと!
皇太子を呼んでちょうだい! 」
「お前は何を言っているんだ。皇太子殿下を呼んでどうする気だ?」
「直接文句を言うのよ。ここから出しなさいって。
皇太子じゃなくて、その婚約者でもいいわ」
皇太子はユグドレアで話しただけだけど、
皇太子の婚約者は帝国でも会っている。
優しそうな、人に甘そうな顔をしていた。
老婆のようになってしまった私を見たら同情するに違いない。
残り少ない人生を穏やかに暮らさせてほしい。
そう願ったら、帝国の王宮でのんびり生活させてくれるんじゃないだろうか。
「何を言っているんだ。皇太子殿下も妃殿下も来るわけない。
いいから、黙っておとなしくしておけ」
「もう!そのくらいしてくれてもいいでしょう!
私を誰だと思っているのよ!」
叫んだけれど、その時にはもう近くに誰もいなくなっていた。
仕方ない。食事の時にでもまた言ってみよう。
こんなじめじめしたところに長時間いるのは嫌だ。
それから食事の度に来た男に訴えてみたが、
部屋の交換もしてもらえなかったし、皇太子も呼んでもらえなかった。
どうにかして呼べたら交渉することもできるのに。
何かいい手はないかと考えていたら、二日目の昼に外に出された。
ようやく自由になれる。
だけど、無一文で出されても何もできない。
住むところと食事は保障してもらわないと。
「ほら、早く乗れ」
「何よ。乗るわよ。うるさいわね」
乗せられたのは小さな馬車だった。
貨物用ではないけれど、客を乗せるような馬車でもない。
使用人が使うにしても粗末なものだ。
嫌だと言ったらまた牢に入れられるかもしれないと、おとなしく乗り込む。
馬車は帝国の下町の広場前に止まった。
「降りるんだ」
「ええ?こんなとこで?」
「いいから降りろ」
「わかったわよ。どこに連れて行く気なのよ。
ちゃんとした場所じゃないと嫌よ。綺麗な部屋にしてよね」
「……」
不愛想な騎士たちに追い立てられるように馬車から出されると、
目の前には大きな檻があった。
「なにこれ?」
なんで広場にこんな檻があるの?
人が横になったとしても余るくらい大きな檻。
「そこに入るんだ」
「え?」
騎士たちに両腕を取られ、檻の中に放り込まれる。
抵抗したけれど、勢いよく投げ出された。
「痛い!何をするのよ!」
騎士たちは私が怒っていても反応せず、何か大きな包みを運んでくる。
そして、その包みも檻の中に放り込んで、鍵をかけた。
「こんなところに入れてどうするのよ!早く出して!」
「クララ、お前の罪は石打ちの刑に決まった」
「は?……石打ち?」
「ここにはお前の被害にあった家族たちが来ている。
十分に悔い改めるように」
「え……どういうこと?」
「そこに、お前の父親もいる。二人とも石打ちの刑だ。
……死んだ後も親子で仲良くな」
父親……お父様!?
騎士が投げ込んできた包みに駆け寄る。
おそるおそる布を開いたら、そこにはお父様の遺体があった。
「お父様まで……どうしてっ」
もう亡くなっているのに、なんてひどいことをするの!?
抗議しようと思った私のこめかみに衝撃があった。
「っ!!痛いっ!」
たらりと血が流れて来る。
今のは何?確かめる前にまた新たな衝撃がくる。
「この化け物め!お前のせいで妻が死んだんだ!」
「やめて!ひどいことしないで!」
私にも石がぶつかってくるけれど、お父様にも石がぶつけられていた。
かばうようにすると、石が飛んでこなくなる。
ほっとしていると、周りの群衆から声が聞こえる。
「なぁ、治療していたのは若い娘だったよな。
あの老婆ではないんじゃないか?」
「そうよね。私も覚えているわ。父親と娘だったもの」
そうだ……今の私なら別人に思われるはずだ。
このまま他人のふりをしてしまおう。
「わ、私は」
「いや!お前たち誤魔化されるな!
そこに倒れている男は、あの時の父親で間違いない。
そいつをお父様と呼んでいた!外見が違っても、あの時の娘に違いない!」
「っ!!」
さっきお父様と呼んでいたのを聞かれたらしい。
まだ間に合うかとお父様から離れる。でも、もう遅かった。
「何十人という人間を不思議な術を使って殺すような女だ!
あの時娘のように見えていたのは幻術だったに違いない!」
「そうだそうだ!化け物を殺せ!」
間違いないとばかりにまた石が飛んでくる。
広場にこんなに石があるのと思ったら、騎士たちが石を積み上げている。
なんなの!?私が何をしたっていうの!?人殺しはそいつらじゃない!
何か言い返そうと、一番汚く私を罵っている中年の女を見る。
あれ……この女の顔はなんとなく見覚えがある。
「私の娘を返しやがれ!この化け物!!」
そうだ。治療したのは十歳の娘だった。
生まれつき歩けないという娘は、治療した後は立ち上がることができた。
これから歩く練習をすると言って、喜んで帰って行った。
そっか。あの娘も死んじゃったんだ。
というか、私が殺しちゃったんだ。
私が殺したんだと一度わかってしまったら、
ここに集まっている者たちの家族も私が殺したんだと理解できた。
皆、石を投げながら泣いている。
返せ、家族を返せと叫んでいる。
お父様が殺された時、とても理不尽だと思っていた。
どうしてお父様があんなひどい目にあわなきゃいけないのって。
きっと、この人たちもそう思っている。
どうして私に殺されなきゃいけなかったのって。
投げられた石の痛みが心まで傷つけていく。
痛い……でも、また死ねない。
痛い、痛い、痛い、痛い。どうしてあんなことしちゃったんだろう。
もう何かを考える余裕なんてどこにもなかった。




