十話、男避け
護衛任務。しかも向こうは面倒な権力者。
その状況で正道はある指示と三人に出していた。
————男避けのため、男を連れてこい。
「綴さん、お願いできますか……?」
「構いませんよ、役得ですね」
「愚弟、今度遠出すっから着いてこい。お姉ちゃんとデートな」
『は? それはどういういm』(通話を切る)
その結果、アラカと綴。ウェルと朝凪が参加することが決定し…………
「(やべえ私どうしよ)」
唯一、ボーイフレンドのいないアリヤは頭を抱えた結果となった。
「アリヤくん、男避けに使えそうな人材は思い当たらないかな」
「はい、それが全然」
「ならば、こちらで用意した奴がいるのでソイツを男避けに使いなさい。アリヤくんが構わなければ、だがね」
「……?」
正道はテーブルの上の受話器を取ると何処かへ電話をかけて……その数分後。
何処か自信なさげな二十代の男性が部屋にいた。
そしてその男性を、アラカとアリヤとウェルは既に知っていた。
「あれ、この男性って確か……」
「学校、占拠し、たテロリスト…の、リーダー、なの」
それは過去、アラカの動画が流出した際に起きた学校立て篭もり事件の主犯であった男だった。
アラカに諭され、警察に自首した男が今、目の前にいた。
※序章/二十一話 参照
「使えそうなので条件付きで引き抜いた」
ドラマなどでよくある特殊な能力を持つ犯罪者を、捜査に協力させる話。
それが今回、現実で適応された…つまりそういうことだった。
「日本では既に怪異と戦わせるために一部の犯罪者を生に……訓練を施し、前線で反省を促している。
扱いはそれと同様のものだがね」
「今確実に生贄って……」
「怪異相、手に魔力込め、た銃弾とか、10発当てても、生きてるし、ね。
まあ……その、理に叶ってる……?」
割とドン引きの理論だった。
「それだけ世界は追い詰められてるのだよ。
自衛隊を好きなだけ派遣できるという贅沢は余裕ができた時にまたするとしよう」
権利や主張、個性に能力、それらは〝世界がそれを受け止められる〟という前提条件の上に成り立っている。
ゆえに現状の世界では〝権利を少なくしてもいい人間〟という存在が極めて大きな価値を持っていたのだ。
「この男は自衛隊での評価では真面目で堅実な性格だとされていた。
目立った特技はないものの、基本を重要視する性質。
加えてアラカくんへ負い目を感じている。礼節もある。
————十分に使えると判断した」
正道はそれなりに目を付けていたのだろう。
元テロリストという汚点はあるものの正道はそれを加味した上でこの男を見定めた。
「なので引き抜いた。特殊な能力がある犯罪者が警察の仕事を協力させられているドラマと同じだよ。
利用しない手があるかね、こんな便利な手段を」
一通り説明を終えると男が一歩前へ進み、ペコリと一礼をした。
「…………はじめまして。名乗る価値もありませんが、恥を偲んで挨拶させていたきたく思います」
「ど、どうぞ」
硬く、何処か病んでいるものの声はしっかりと聞こえる。
基本を重要視するという在り方が滲み出ている配慮だった。
「暁…春馬、と、申します…不快感を与えぬように誠心誠意努力いたしますので、少しの間だけ我慢していただけると……幸いです…」
可能な限り、声色に疲れを滲ませないように告げる言葉は、何処か綴と似ている部分があった。
その上でアリヤに頭を下げる姿を見て、当の本人は。
「(あれ、この人なんか……少し、気になるな?)」
警戒しながらも、何処か惹かれていた。
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