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異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
2 となりまち
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せつえいとしゅくしょうかい

今回は執政官のお宅のメイド、フェデル視点から始まります。途中で視点が変わります。誰だかはあとがきにて。

 執政官の屋敷というか居城にも、それなりの広さの大広間という物がある。元の伯爵邸程ではないか、それでも人が二~三十人集まっても手狭にならないくらい広い。

式典の時しか使わないのが普通でそれ以外は、まあ掃除のためにしか入らない。使われない部屋にも掃除には入る。常に清掃しておかないと、いざ使う時に間に合わなくなるから。あちらに居るときも、そうした場所の清掃はした事がある。広くて装飾品の多い部屋は神経を使うので一日仕事になることもざらだ。幸い、ここはあれほど広くはないし、今回は貴族の方は身内だけ、後は街の名士の方たちくらいらしいのでそこまで手間をかける必要はないそうだ。


主賓は、高名な冒険者とその仲間。先日から逗留していた女性二人もそうらしい。あと、その討伐に同行した騎士と従士長が二人だけ呼ばれている。


旦那様のご身内は、奥方様とトライデトアル士爵の当代さまと次期さまに奥方さま。街の名士の方々は、冒険者ギルドの支部長、キョウガイシ神殿の司祭様とジョウコウカン神殿の司祭様。二つの町会の会長二名に、公益所の所長、各ギルドからギルド長が来るはずだったけど、人数の関係で四名。そして、グアルコの村の村長。


催しとしては、グアルコ村の討伐祝勝と慰労を兼ねたものらしい。本来、慰労というなら残った村人全員を招待するべきだと思うけど。まあそれは口実だと思う。


執政官様は今回の事件の収拾の為に色々尽力しないといけないので、その為の協力体制を造り上げるために執り行われるパーティー。

おそらくそれが本当の目的。


私達はそれに何の関わりもない。ただ、言われた仕事を遺漏なくこなす。

食事係も増員されて、街で接客業をこなす若い娘は臨時でメイドとして働いている。まあ、配膳などが主目的だから、その程度でも十分出来るだろう。


執政官のダリエル様は、個人的に恩義のある方だし、古い知己でもある。堅苦しい貴族の在り方にやや辟易してるなど、私たちにはとてもやり易いお方だ。


今回のパーティーも立食形式だし、食事の量は多いものの価格はそこまで高いものを厳選などはしていない。これからの出費を考えれば当然だし、民間の方も来るのであれば過度な高級食材は憚られるのだろう。権威があれば見栄を張る所であるけど、ダリエル様はそういうのとは無縁の方だ。


会場の設営から私達、メイド衆は引き上げられた。男の近侍と臨時雇いで回すようで私達は列席される方の支度に回る。旦那様は平素と変わらぬ仕事着でご出席されるが、今回は奥方様と他に四名の女性がいる。主賓のノーリゥア様と逗留していたお二方、それにキョウガイシの神官位の少女だ。


妙齢に限らず、女性のパーティー出席者というのは総じて時間がかかるものだ。衣装は、各々持っているとの話なのでこちらで都合することは無いようだ。湯浴みも済ませたそうで、化粧のコンディションは上々。ここでは奥様以外の方を相手にすることは滅多にないので、久し振りに腕がなる。


私の担当はジュンという子供の冒険者。とは言え、子供と侮る事なかれ。すらりとした体つきと白い肌のお陰で、まるで動くお人形のようである。艶やかな髪は少し濃い茶色で、背中の中程まである。いつもは結ってお団子(シニヨン)で纏めていたのだが、これほどの髪は中々見ない。色が違うけど、男爵令嬢のユーニス様のように滑らかで柔らかい。顔立ちも整っていて髪と目の色を除けばユーニス様の面影もあるような気がする。もっとも、あの方はあまり感情を表に出すのが得意ではなかったようなので別人であるのは間違いない。ひょっとしたら、男爵様の庶子と言うこともありそうな気がするが、こんなことを言ったら首が飛びかねない。


「フェデルさんはこういうの得意なの?」


ジュンがそう聞いてきた。ルグランジェロ伯爵のお屋敷では奥方様達の化粧をしたこともあり、多少は自負もある。けど、それを彼女に教える義理はない。適当に答えることにする。


「私は苦手なんだよね」


こんなすべすべの肌なのだから、化粧なんて必要ないだろう。


「あなたの場合は、下手に化粧をすると良くなさそうですね」


私は下地を塗った後にほんの少しだけ紅をのせるだけにした。気が付いたが、眉は髪と同じなのに睫毛は違う色だ。白ではない、銀色に見える。もしかすると髪は染めているのかもしれない。口許は子供ゆえに赤は不味いだろうから桃色の艶を出す口紅をこちらは薄くひいてみる。


「如何でしょうか」


手鏡で出来映えを見せると、少し驚いたようだ。


「うわあ、すごい」


頬を紅潮させて喜んでいる姿は、とても子供らしい。


「ありがとうございます」


それにしてもおかしな子だ。見た目も身のこなしも貴族の令嬢のようなのに、とても気安く話し礼まで言う。


「では、お召し替えをしましょう。こちらのドレスで宜しいのですね?」

「はい。一応合わせて買ったので、きちんと入ると思います」


用意してきたものは最近の流行りのドレスで、極端に大きなパニエを使ったり、コルセットで腰を締め付けないゆったりとした形のドレスだ。素材は絹のようで色は少し黄の入る白。イメージとしてはオリーブの花のようだ。胸元と腰回りに大きなリボンを(あしら)い、スカートにはレースのフリルが並ぶように使われている。


「よくお似合いですよ」


私の心にもないお世辞に照れているように笑う。


「あんまり、スカートは履かないから恥ずかしいですね」


冒険者だとしたら、それは当たり前の話だ。あ、けどあのノーリゥアというエルフは短いスカートだった気がする。


「終わりました。白なので料理などお気をつけ下さい」

「どうもありがとう、フェデルさん」


化粧をして着付けを手伝っただけなのに、メイドに礼を言う少女。本当におかしな子供だ。





一時はどうなるかと思ったが、なんとか片がついて助かった。今回の事は不測の事態だった。グアルコの村を襲ったゴブリンは当初小規模と読まれていたが、小鬼魔術 師(ゴブリンシャーマン)を有する中規模の集団だった。それが別の所から来た上位個体の小鬼隊長(ゴブリンキャプテン)の集団に追い散らされ、半ば自棄になって村に攻めいったというのがノーリゥアの見解だ。


村人の損害は三十四人。家を焼かれ、農地を荒らされ、家畜を根こそぎ喰われた彼らの胸中は如何ばかりか。

しかしながら、ある程度の支援は既にほぼ決定している。そのためのパーティーであり、ノーリゥアにも出張(でば)って貰っているのだ。


そのノーリゥアは、やけに丈の長いドレスに身を包んでいる。エルフなんだから別に貴族みたいな格好なんてしなくてもいいのに。


まあ、今回の件は彼女が最初に居合わせた時に対処してれば起こらなかったかもしれない訳だから、サービスくらいはしようと考えたのかもしれない。それも、あいつのせいじゃなくて新人研修の最中なら仕方がない話だ。


ただその新人があの乱戦の中、ゴブリンを十八匹撃破してノーリゥアに魔石を渡すという仕事をやりおおせた。ライデルという護衛がいたとしても、[魔術師:1]の戦果とは思えない。石がファンブルで当たってなかったら、本当に一人で無双していた可能性すらある。


「まあ、そんな奴があんな小娘だなんて誰が信じるもんか」


形としては、ノーリゥアが目をかけている新人で、特別に招待したとしてある。グアルコの村長にも言い含めてはいる。あのジュンというか細い少女が、自分達の村を襲ったゴブリンの半分近くを一人で倒したという事実は公式には残らない。当然、本人の了承も得ているが、これは向こうも願ったりだったようだ。


「パーティーには出ないと言われたときはどうしようかと思いましたよ」


いつの間にか近くに来ていたダリエル執政官が言う。


「主役はノーリゥアだからな。綺麗どころとしてはあれだけでは寂しかろうて」

「華が欲しかったわけじゃないですよ。名を隠しているとは言え、臣民を助けた少女をお披露目したいじゃないですか」

「政治宣伝か?だいたい大袈裟なんだよ。たかが五十人程度の村の復興のために資金集めにパーティーなんて、らしくないぜ?」


こうした意味もない形式は執政官(ダリエル)の好まない方法だったと思うが。その答えは奴が自分から答えた。


「彼女が旅をしたら、おそらくこんな事が次々と起こるような気がします。その輝かしい一歩に立ち会ったという印象付けをしたかったのです」


ほう。ユーニスとして、ではなくジュンとしての活動の起点はこの街(ウェズデクラウス)だとしたいのか。名を馳せる英雄の故郷だと言われたら、確かに街の名は上がるだろう。そしてそのバックアップをした貴族の名も。


「そう上手くいくかね?」

「いかなくてもいいんです。自分の従姉妹の晴れ舞台を用意したってだけでも充分に意味はありますから」


違いない。身内なんだから、手柄を誉める場は作りたいよな。


「なんだかんだと楽しんでいるみたいで、僕としては嬉しいですよ。何年か前の彼女は、とても塞ぎ混んでましたから。元気になって良かった」


ジュンはイリーナにキョウガイシの司祭を紹介されている。朗らかに笑う笑顔が眩しい。その頃を知らない俺には信じられないが、フレスコの野郎が言ってた事を思い出す。


『まるで、動く人形だ。生きてるのかすらも分からない』


エルザムの奴は自身の能力は高かったが、人間の内面を育てる能力には欠けていたらしい。それを何とかしたあいつは本当の意味の『魔術師』なのかもな。


「壁の花が何やら話しておりますな」


片手にワイングラスを持って颯爽とご登場のライデルは、この場に一番似合う存在だ。背も高く、顔立ちは良くて、髪もバッサリ切ったせいで爽やかさが上昇。刺繍をふんだんに(あしら)ったコートやベストが小憎たらしい位に似合う美丈夫である。


「わざわざそうなりに来たのかい?」

「そうだぞ。主賓はきちんと挨拶して回れ」

「冒険者ギルドの支部長と執政官への挨拶なんですがね」

「さいですか」


ま、肩書きだけはあるからな。


「今回は頑張ったね、お疲れさま」

「捧げた剣としては、些か頼りなかったがな」


おっと、珍しい。いつも自信過剰なライデルが自嘲するとは。


「私は彼女を届けただけで、肝心な時に護れなかった。結局、窮地を助けたのはノーリゥアだ」


たかがゴブリンと侮っていたのは間違いないが、装備も無しに飛び出せばそりゃあ仕方ない。さて。慰めるのは御友人に任せて、俺は別の壁の花になるとするか。


グラス片手に会場を練り歩く。何度も経験したパーティーではあるが、貴族の人間がこれほど少ないことは稀だ。貴族連中の物は定例会のようなものから成人の祝い、社交界へのデヴューと言った節目の祝い、婚姻披露宴など様々だがいずれも予定を組んで正式な招待状を送ったり、ともかく時間がかかる。

だが、これは戦勝祝賀会だ。しかも相手は数は多いがゴブリンだ。敵国とかと戦争をした訳でもない。ささやかな規模で構わない。

それでもいいとダリエルは言った。

ならそれでいい。


「どうも、冒険者ギルド支部長殿」

「これはメルシェール殿、お久しぶりです」


声をかけてきた老人はこの街のキョウガイシ神殿の司祭を務めている。彼も俺と同じように元貴族で隠居の身だ。元はどこだったかは忘れたが士爵だったはず。


「そちらにもご迷惑がかかったようで」

「神に仕える身ならある程度は許容すべきでしょう。うちよりもザルフィス殿の所の方が引き受ける方が多いですし」


ザルフィスと言うのは、向こうであの子供と喋っている杖をついたご老人だ。青と黒の僧服を纏っているジョウコウカンの司祭である。


「まあ、村の仮設住宅とか出来るまでの辛抱です」

「これを期に入信してくれる者を期待してますよ」


ちゃっかりしてる。キョウガイシは司るものが知識とか固いのであまり一般受けは良くない。体験入学とでも受け取ってくれてるなら御の字だ。


「今日はイリーナ、僧服ですね」

「公式な場に合わせたつもりだと思ったのですが…ドレスが無いからという理由でしたよ」

「なんともはや。まあイリーナらしい」

司教(エカティリーナ)様に会わせる顔がありませんよ」


そうかな?あの人も若い頃は僧服はあまり着てなかった気がするけどな。


キョウガイシの僧服は茶色と白が基調で、大きなコートと長めのサーコートを纏う。キョウガイシの聖印を模したデザインの紋章が入っている。頭に被る帽子は少しだけ大きく膨らんだ形だ。だが、基本的にここまでがキョウガイシの正式な僧服であり、その中は適宜変えて構わないらしい。イリーナはたぶん短めのスカートか、短いキュロットを履いているようで、サーコートから見える素足がやたら新鮮に見える。あの年だから許されるが、もっと上になったら背徳感がすごくなると思う。


「おっと、いかんな」


孫のような歳の子供をそんな目で見てはいかん。それにじい様の孫だ。くわばらくわばら。


そうした視点で見るべきはもう一人の女性だろう。見目麗しい女性達の中で、おそらくノーリゥアやダリエルの奥方よりも目立っているのが、フランだ。


同世代の中では高い方の背に、真っ赤なドレスがやたらと映える。豊満とは言えないが、バランスの良い胸は瑞々しさを強調し、細い腰はコルセットを使っていないとは思えない。動く様もそれなりに優雅であり、ぱっと見では彼女こそ貴族令嬢のようにさえ見える。もっとも、ジュンの食べている横で甲斐甲斐しく世話をしている所を見ると違和感がある。ジュンの方も自分の好きに食べたいみたいでフランを疎ましく見ているのが切ない。


そんな風に観察をしてはみても、やはり迂闊な行動を慎むのが俺のモットーだ。せめて目の保養だけに留めておこう。すると、こちらに気が付いたフランがこちらに来る。微かに微笑んでいるので、こっちも応対しないとな。


「ど、どうだい?楽しんでるかい?」


まずい、どもった。ガキじゃあるまいし。


「はい、ジュン様共々楽しませていただいておりました、今までは」


…今までは?その疑問に答えるかのように彼女はゆっくり語りかけてきた。


「ジュン様の艶姿に見とれるのは仕方がありませんが、そうじろじろと見られるのは不快です。いい年した大人なんですから、自重して下さい」


にこやかな表情を全く変えずにそう言う彼女の首元のチョーカーが怪しく緑色に光っている。


「あ、お、おう。すま、なかった。悪かった」


咄嗟に謝る。我ながらいい判断だと思った。この席で流血事件とか起こさせる訳にはいかない。フランは失礼しますと、礼をしてジュンの元へ戻っていった。このわずかの間に、背中がじっとり汗をかいていた。


「最近の若い娘って怖えぇ…」


このあと、閉会するまで俺は生きた心地がしなかった。それと、見てたのは君の方だと言いたかった。俺に少女趣味(ロリコン)という疑惑を持たないでほしいと切に願ったが、言うのがすごく怖かった。

はい。毎度おなじみオルガさんでした。

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