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異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
2 となりまち
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かりのじゅんびとはやしのなかで

 石の従者(ストーンサーバント)の模擬戦を終えた後、少し早いがお昼になった。


 今朝買ってきたパンを使ったサンドイッチを食べる。

 具材は鶏の肉の照り焼き風と、葉物野菜にチーズ。

 もう一つは鶏の卵のスライスと赤実(トマト)のスライスに牛の燻製肉のスライス。

 こっちはスライスされたものばかりだが、両方とも美味しい。


 イリーナも中々やるね。

 グッと親指を立てると彼女も嬉しそうに喜んでくれた。


 ちなみにこういった食べ方はかなり前からあるのだけど、何代か前の勇者が『サンドイッチ』と呼び始めてからこの名で定着してしまったようだ。


 それまでは地方によって様々な名前があったのだが、これ以降『~地方のサンドイッチ』とか呼ばれるようになったとか。


「食べ終わったら、次は狩りに行きましょう。経験無いのはいる?」


 ノーリゥアちゃんの言葉に私とフランは手を挙げる。

 イリーナは有るみたい、というか[野伏(レンジャー)]持ちだから、あるに決まってるか。

 私も父様の狩りに同行はして事はあるけど、自分で何かをしたことは無かった。


「飛び道具は持ってる?」


 ノーリゥアちゃんが聞いてくるが、私は小型の弩があるけどフランには無い。

 たぶん、そういう物は一度も使った事が無いと思う。


「フランは石を使ってみましょうか。手頃な石を拾って、あの目標に投げてみて」


 いつの間に置いたのか、十メートルくらい向こうに木の板があった。

 真ん中に丸が書いてあって、高さは子供の背丈くらいにある。


 フランは石を拾って握りを確かめると、振りかぶって投げる。

 石は真っ直ぐに飛んでいき、的の横を通りすぎてその倍くらいの所で下に落ちた。


「威力は十分そうね。ちゃんと当てられるように練習してみて」

「はい」


 試しに投げさせてもらったけど、私の投げた石は半分くらいで下に落ちたよ。


「イリーナは小弓(ショートボウ)ね。きちんと合わせてある?」

「はい、父さんにも見てもらいましたから大丈夫だと思いますけど」


 そういって弓の弦を張っている。

 父様は適当に張っていたようだけど、イリーナは慎重にしている。

 たぶん、父様は慣れてたから自然にしていたのだろう。

 かくいう私だって、弩の弦を張るのにはやはり慎重にならざるを得ない。


「弓や弩に傷がないか確認。弦も弱ってないか確認。いきなり壊れたりしても知らないからね」


 ノーリゥアちゃんはそう言いつつも私とイリーナの作業をちゃんと見ている。


「ジュン、それだと硬すぎるわ。気持ち弛めて、そう。緩すぎても飛ばないけど、硬すぎたら弦も弓も壊れやすくなる。適度な張りを覚えなさい」


「は、はい」


 先程のノリと違い、丁寧な指導教官のようだ。

 たぶんこっちが本当の姿なんだろうね。

 調整が出来たら弩の矢(クォラル)をセットする。

 ……のだが、この弦を引き絞るのが一苦労だったりする。

 私用に調整された物だから間違いはない筈なのに、ちっとも引けない。


「弩を引くのは立ててやるの、こう」


 ノーリゥアちゃんが私の弩を手に取り、先端を下に向ける。

 先にある鉄の輪に足を掛けて、弦を両手で持ち上げる。すると簡単に引き絞る事ができた。


「腕の力だけでやれる奴はあんまりいないわ。まあ、フラン位の力があれば出来るだろうけど」


 なるほど。

 背中の力で引っ張るのか、この輪っかは台座じゃないんだ。


 ドワーフおじさん、教えてよぅ。

 戻してやってみたら、簡単に引けた。

 ふむ、なんか、誇らしいぞ。


「引けたら矢をセットして撃ってみなさい。照準と、軌道の誤差を肌に教え込みなさい」


 イリーナはすでに何回か矢を放っている。

 まだ的の真ん中には当たってないけど、一発目は側を外れ二発目で右下に当たり、三発目で左上に当てている。中々に上手いなあ。

 けど、ノーリゥアちゃん的にはなんか納得いってなさそう。


「イリーナ、ジュンの弩を使ってみなさい」


 えっ? 私まだ一回も撃ってないのに。

 イリーナも怪訝そうに見ているが、ノーリゥアちゃんは早くと急かす。


「悪いけど、借りるね?」

「利子は付かないから安心してよ」

「あははっ、ちょっと持っててね」


 イリーナの小弓(ショートボウ)を渡される代わりに私の(クロスボウ)がイリーナの手に渡る。


 試しに引いてみるが……うん、半分くらいで止まっちゃう。

 これじゃ私には無理だね。


 イリーナは私の(クロスボウ)を簡単に引き絞り、さっと構える。

 彼女の力なら余裕で使えるはず。

 私は[筋力:5]だけど、イリーナはたぶん[筋力:10]くらいだと思う。


 スパンと、音がして矢が真ん中より僅かにずれて突き刺さっている。


「やっぱり、斥候(スカウト)主体の方が合うみたいね。あの弓は野伏(レンジャー)用に合わせたんでしょ?」


 ノーリゥアちゃんの指摘通りらしくイリーナは頷いてる。



 斥候(スカウト)とは。

 という定義で言うと、偵察や情報収集のために素早く隠密裏に動く事を求められる。

 故に大きな音を出す鎧は付けられないし、素早く動くために筋力いっぱいの武器や防具も付けられない。

 その代わりに様々な特殊な動作や手法などを駆使して冒険に役立つクラスとして重宝されるのだ。


 鍵を開けたり、罠を外すなど。

 盗賊のような一面もあるけどそれを技術として高めている職人達なのである。


 ノーリゥアちゃんはイリーナに敢えて私の(クロスボウ)を使わせたのは、その斥候としての戦い方で扱えという事だった。

 私は彼女のクラス編成がどうなってるのか知らないけど、たぶん[斥候(スカウト):2][野伏(レンジャー):1]という感じなんだろう。


「しばらくはジュンの(クロスボウ)を貸して貰いなさい。今はそっちの方が合うわ」


「え、と……いいの?」


 と言われても。

 私よりも射撃が上手そうなのは間違えなさそうだし。

 私としては若干いただけないけど。


「いいよ。大事にしてね、ドワーフおじさんのだから」

「え、ドワーフおじさん?」


 おっと知らないのかな? サンクデクラウスに居たなら知って……る訳無いか。

 裏通りの店だし。


「ダリニオスって人でドワーフそっくりなの。人間なのに」

「ええ、そんな人がいるの?」


 イリーナは信じてなさそうだ。

 けど、ノーリゥアちゃんは別の意味で食い付いた。


「へえ、そっち(サンクデクラウス)に居たのか。あいつも大概ザイムが好きねぇ」


 ザイムと言ったかな?

 それは父様の冒険者時代の名前だ。

 と言うことは……


「ドワーフおじさん、父様と何か関係があるのですか?」


 そう言うとノーリゥアちゃんは指を振ってチッチッと答える。


鋼鉄の花(アイゼンブレーム)には一人ドワーフがいました。名前は?」


 当然、知っている。


 闇鍛冶士の二つ名を持つ鉄壁のドワーフ。


「「ダージリニス。氏族名を明かさないから闇鍛冶士って呼ばれてた」」


「そう、ドワーフ達にとっては彼はモグリの鍛冶師だったからそう呼ばれてたの。主にグルリム爺にね」


 グルリム爺……黄金の森(ゴルトヴァルド)のグルリムヘイルの事だろう。

 今はインペツゥース皇国の辺りにある氏族、ヘトゥンベイドの出身の『神金の護り手』の二つ名を持つ高名な鍛冶師だ。


「でも、それは仕方ないわよね。だってダージリニスはドワーフじゃないんだから」

「「えっ!」」


 そうか、そういう事だったのかー。


「ドワーフおじさんがダージリニスだったのか……なるほどね」


 そんな近くにかつての英雄が居たなんて。

 いや只者ではないとは思ってたけど。

 そりゃあ、鍛冶の仕事しないわけだ。

 バレちゃうもの。


「ドワーフじゃないのに並みのドワーフ以上に腕が立つんだもの。そりゃ嫌味の一つも言われるわよね。グルリム爺なんかはホントに惜しいって嘆いてたものよ?」


 やっぱりドワーフ以上の腕前だったんだね。


「ヤゼンの調整も中々だけど、あいつの(クロスボウ)とは比べるべくもないわ。これはかなり上質な武器なんだから」


 私の弩を指差して言うノーリゥアちゃん。


 そうか、ドワーフおじさんはそこまで私の為にしてくれていたんだなぁ。


 そんなわけで。

 私は狩りの際には役立たずになりました。

 いや、手投げの短剣はあるけど、それよりも呪文を唱えるべきだろうし。


 あ、フランだけど。

 少し投げてたらだんだん上手くなってきて、板に当たったら粉砕してた。


 当たれば相当な威力になりそうだけど、動く目標に当てられるかというと話しは別。

 つまり、狩りはイリーナ頼みということになってます。




 近くの林に分け入り、イリーナが足跡とか動物の痕跡とかを調べる。

 しばらく探していたみたいだけど、ちょっと顔色が変わった。

 ノーリゥアちゃんに近寄って話をしてる。


「人形の足跡。小さいのが四人くらい?」

「てことはあれか」

「たぶん……哨戒だとすると規模は二十から二十五くらいかな」


 この会話でだいたいの事柄予測できましたよ。

 新人冒険者の登竜門と言うべき敵ですかね?


「ゴブリン……ですか?」


 フランが聞いてくるが、たぶん間違いない。


 さっきの空き地と関係あるとは思えないけど、住み着きやすい所は何度でも住み着くものらしい。


「正式な依頼は受けてないから、討伐せずに帰る手もありよ?」


 それはそうだ。

 冒険者は依頼をこなしていくものだから。

 でも、それは討伐しない理由にもならない。

 一匹当たり銅貨五十~七十位の稼ぎにはなるし、近隣の村の脅威を排除するという事にも繋がる。


 それにゴブリンは女の子の敵だ。

 これだけでも無視はできない。


「ノーリゥアちゃん。なんとかなると思う?」


 先輩に意見を聞く。


「えっ? 私一人なら楽勝だけど」


 ……私たちは足手纏いとでも言いたそうだけど。


「いや。間違いなく足手纏いよ? 私は温度差視覚(インフラビジョン)もあるから遅れは取らないし、多数に囲まれても対処出来るからね。ゴブリンとまともに戦ったことの無いのが巣穴に突撃とか、全滅ルートよ?」


 うぐぐ。

 言いたい放題だなぁ。

 けど言いたい事も分かる。

 確かに正義感だけで動くのは不味いよね。


「どうする?」


 とりあえずイリーナに聞く。

 フランに聞いても参考にはならないから。


「哨戒に出てる数から言うと巣穴にはだいたい五から六倍はいると思った方がいいよ。だから、私達だけで対処するのは無理だと思う。ノーリゥアちゃんなら一人でいけるけど、私達がいたら足手まといになる。下手をしたらそのせいでノーリゥアちゃんもやられる可能性も出てくるよ?」


 私達の誰かが捕まって人質にされた場合、それを無視して戦えるかどうかは分からない。


「やるならさっさと行くべきよ? やらないならこれもさっさと逃げるべき。ここでのんびり相談が一番悪手よ」


 この意見も正しい。

 哨戒がここに来てるという事は、この辺は勢力下と考えてもいい。

 伏兵とか包囲とかされる可能性も無いわけではない。まあ、ノーリゥアちゃんが危険を感じてない所を見るとまだその事態ではなさそうだけど。


「遅かったわね」


 ノーリゥアちゃんがあっという間に小弓(ショートボウ)を引き絞ると茂みに向かって放つ。

 グギャッという悲鳴がそこから聞こえた。

 ガサガサガサと茂みから走ってくる物音がする。

 イリーナが(クロスボウ)を構え、フランも石を握る。私は短杖(ワンド)を取り出し、(敵意感知(センスエネミー))を唱える。


 敵の数は四体。

 動かない一体は反応が消えそうだ。ノーリゥアちゃんの弓でやられたのだろう。

 距離は十メートルもない。


「ど、ど、どうしよう!」

「とりあえず投げます!」

「ノーリゥアちゃん!」


 私達の混乱ぶりを意に介さず、ノーリゥアちゃんは冷静に左手を前に出した。



「(眠りの霧(スリープミスト))」



 気が付くと、私達は地面に倒れていた。


 ゴブリンに捕まったのかと思ったがそうではない。


「私だけなら大丈夫って言った意味分かる?」


 そう言うノーリゥアちゃん。


 ……私達もまとめて眠らせたのか。


「ほら、起きて。増援があるかもしれない」

「いくら無力化出来るからって、私達まで入れないで下さいよぅ」


 イリーナが言うのも分かるよ。

 これは場合によっては悪手だからね。

 たぶんノーリゥアちゃんはあのゴブリンだけだと分かっててやったんだと思うけど。


「[無詠唱(クイックキャスト)]で(眠りの霧(スリープミスト))ですか……なるほど完全な不意討ちでない限り、ゴブリンなんかには遅れは取りませんね」


 無詠唱(クイックキャスト)とは文字通り詠唱を必要とせずに魔術を行使する技術(スキル)だ。

 思った瞬間に発動するため、隙は殆んどない。

 この技術を持つ事で、魔術師はとてつもない脅威となる。

 ただでさえ大きな威力を持つ魔術が、ハンデ無しで使えるのだ。


「まあね。とりあえずあんた達はあいつらの(とど)めを刺しなさい」


 ……む。

 確かにやらないといけないんだが……フランやイリーナと顔を見合わせる。

 イリーナはあまり気にしてなさそうだけど、フランは明らかに怖じ気づいていた。

 襲ってきたのだから倒すのは仕方ないし、ゴブリンなんだから生かしておいたら被害が出る。


 理屈は分かるんだけど……なんだか寝てる人形(ひとがた)の魔物に止めを刺すのは抵抗がある。


「もし、出来ないなら旅は諦めなさい」


 ノーリゥアちゃんは甘えを許さないようにぴしゃりと言った。



「下手に情けをかけてるといつかあんた達はひどい目に逢うわ。ゴブリンに凌辱されて孕んだり、嬲り殺しされたり。冒険はお遊びでやるものじゃないの。相手を殺さないで自分が生き残れると思わない事ね」



 ──そうだよね。


 確かに私もそう覚悟して旅に出たはずだ。


 和やかなピクニックみたいな事をしてたから気づかなかったけど。


 私達は既に危険に晒されてたのだ。

 それを排除出来なくて、この先旅が続けられるとは思えない。


 私は刃折り(ソードブレイカー)を握りしめると、眠りこけるゴブリンの喉元に突き刺す。

 グゲッと呻き、必死に悶えようとする所を刃を倒して傷を大きくする。

 薄汚れた青っぽい血液が回りに広がる。


 私の行動を見て、イリーナも広刃の剣(ブロードソード)を突き刺し、フランも戦槌(メイス)で頭を打ちつける。

 ノーリゥアちゃんは残った一匹に至近距離から小弓(ショートボウ)を撃ち込んでいた。


「とりあえず耳を切って。討伐証明だからね」


 なんとなく陰鬱な作業だけど、これも必要な事だ。

 討伐した魔物や生物の証明が無いと冒険者ギルドは報酬を出さないからだ。

 四匹と最初の一匹の合わせて五匹分の耳を回収する。


「さあ、帰るわよ。巣穴の連中が来る前にとっとと退散。ギルドに報告しに戻るわよ」


 ノーリゥアちゃんの指示に従い、帰路に着く私達。


 初めて人形の敵を殺すという作業は、とても慣れないような気がする。

 ……必要な事だけど。

 殺らねば殺られるのだろうけど。

 それでも慣れたくない。

 でも、いつかは慣れてしまうんだろうけど。


 みんなが幸せに生きる世界なんてあるわけがないと知っているはずなのに。


 そんな世界があってほしいと望まずにはいられない。



 わたしは。


 旅に出る決意が少し、揺らいだような気がしてしまった。



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