だいいっかいこうさつかいぎ
新年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします‹(_ _)›
「さて、では第一回。ジュンの権能の考察会議を開催します」
「はぁ?」
ぱちぱちぱち…まばらな拍手がイリーナの部屋に響く。メンバーは、わたし、イリーナ、フラン、ノーリゥアちゃんの四人。この部屋に四人入ると、二人はベッドに座るしかない。イリーナは当然としても体の小さい私をさておいてベッドに立って高々と宣言するエルフ様はどういうことなの?
仕方ないので、座布団に正座で座る私とフランだが、フランがちょっと近いなあ。いや、寒いのかもしれないからいいけどね。火鉢の火は少し落としてある。直火だから、換気を考えないといけないし。それにイリーナとノーリゥアちゃんの持っていた羊毛の毛布があるので全然寒くないんだ。そんなわけで私としてはフランが暑いのだが…なんかがっちり捕獲されてて逃げ出せないよ?
「まず、あなたの【保管】だっけ?『勇者』が基本的に持つ恩恵、【在庫目録】とは違うのね?」
ノーリゥアちゃんが言うが、私はその【在庫目録】と言うものが何なのかを知らない。
「それは、どんな能力があるの?それを知らないと違うとは言えないよ」
当然そう来ると思ってたノーリゥアちゃんはその説明を始めた。
「まず、インベントリ自体は(収納)のように異なる次元に物を保管する力よ。出し入れの際に魔力や神力の消費は無い。あなたの【保管】の方はどうなの?」
「こっちも消費は無いよ?」
「容量は?」
「限界は、分からない。試したら師匠の部屋の中の荷物が殆んど入っちゃって…それ以上は試してない」
この言葉にノーリゥアちゃんがちょっと固まる。少なくとも『サトル』さん以上の量は入るみたいだ。
インベントリのメニュー画面が見たいと言ってきたけど、どうすれば見れるのか分からない。この半透明な映像は文字が殆んど書いてない。数字とよく分からない三角形の記号位しかない。
「その三角形の記号を押してみて」
ノーリゥアちゃんの言う通りに押してみる。すると上に何か飛び出て文字が書いてある。『拡張メニュー』『リスト一覧表示』『容量表示』そしていちばん上に『個体メニューへ』と書いてあるけど、これは表示が明らかに薄い。
何か出たと伝えると、ノーリゥアちゃんは『拡張メニューを押して』と言ったのでやってみるとまた文字が出てきた。
『取捨設定』『置換設定』『保管メニュー可視設定』『内時間設定』四つの文字が出てきた。意味は分かるが何が起きるのかは分からない。でもここではこれだと『保管メニュー可視設定』を押してみる。
すると『オン/オフ』という時がでてきた。今はオフの所に丸い記号が付いているので、反対のオンの方にしてみる。
「わ、何か出てきました」
「私の(収納)に似てるけど」
「ノーリゥアちゃんにもこう言うのが見えてたんだ」
「中に入れてる物が分からなかったら意味ないでしょ?」
色々言ってる面々だ。私としても他の人に中身を見せる機会が欲しかったから大助かりだけどね。
「ひょっとして(収納)にも可視化出来るの?」
ノーリゥアちゃんに聞いてみると普通に出来るわよ、との返答。
「ただ、誰も他の人に中身は教えないわ。本来はこの行為自体もあなたは拒否して良かったんだからね?」
それもそうか。けど、チュートリアルも出来てないから、そうも言えないよね。使い方はちゃんと覚えておかないと。
「じゃあ私の(収納)と比較しながらいきましょう」
そう言うと呪文を唱えて収納の画面を出す。
「こう言う魔術や神術で扱う半透明に投影される画面を管理画面と呼ぶんだけど、これを操作することで様々な事が出来たりするの」
「先生」
「はい、ジュン」
「私は師匠のフレスコ=ウェイルンからこのコンソールについての説明を受けていませんが、これは師匠の怠慢だったのでしょうか?」
意外と大事な事なのに、何の説明もされてないんだけど。すると彼女はこう言った。
「一般的に収納の術以外はコンソールでの設定は必要ないから省略したとを思いますよ?あと(構文)の変更とかが可能ならここから(術式構文入力)へ遷移して入力できます。ただ、権限から言えば少なくともその魔術や神術の習熟度が中級より上にないと出来ません」
まるで講師のように言う通りにノーリゥアちゃん。けど、一つ疑問。私は魔術の詠唱の際に(構文)を直接弄って変更できたけど、普通は出来ないのかな?
「詠唱をしつつの構文の変更は当然可能よ。拡大やら持続時間の変更やらがこれに当たるわ。ただ、これ以上の改編をする場合は、管理画面を出して弄った方が確実ね」
理由はと聞くと長い説明でフランやイリーナが寝てしまう事態になったが、要約すると。『詠唱の呪文と内包される魔術語に意味の齟齬が出てきて効果を出さない、ないし暴発する可能性が出る』と言うことらしい。つまり管理画面でやっていることは魔術語の置換を行って整合性を保ちつつ変更をするというものなのだ。私がやっていたのは、詠唱の最中に魔術語自体を組み換えていたので似てるけど違う、呪文自体の創造をしていた事になる。
道理で妙に高い回復力とか攻撃力を持っていたと思ったら、そういうことだったのだ。常に最適な形での魔術語を編成して呪文として唱えていたのだから、尋常じゃない効果を出しても不思議はないだろう。
やはり【翻訳】もとんでもない権能な訳だ。いずれこの事も話さなければいけないだろうが、いまは【保管】に集中しよう。このままだとフランはともかくイリーナがベッドでお休みしそうだ。
「ノーリゥアさま、お茶が入りましたが一息されませんか?」
扉越しにソリシアさんの声がする。ノーリゥアちゃんは持ってきてちょうだいと言うと、部屋の隅に置いてある小さなテーブルを持ってくる。
(収納)の管理画面から小さな箱の選んで下に手を置くと、光の中からその箱が落ちてきて彼女の手に収まった。
「こんな感じで出すの。ちなみにこれは『網型焼き菓子』、甘いお菓子で結構日持ちがするのよ?」
うん、知ってる。これに手をつけないでチコさんに返しに行きたい位だけど、さすがにそれは無理な話だ。
「(収納)の中だと多少は長持ちするんだけど、それでも痛むものは痛むわ。だからこういうお菓子の類いや漬物の甕とか容れておくと遭難した時とかに重宝するわ」
なるほど、確かにそうだね…あ。一つ思い出したけど。まだ痛んでないかなぁ?
「ちょっと確認したいんで私も出しますね」
何日か前に倒して加工しておいた一角狼のお肉なんだけど。どうだろうな。入れたときは一包ずつ入れていったから数が幾つあるか分からないね。とりあえず、更新日時が一番古いものが最初に入れたお肉だから…これだ。枠の選択して私の手のひらを上に向けた右手に合わせる。枠の色が変わるからそこに出すと、私の右手に肉の包みが表れる。
「本当にいきなり出てくるのね…」
ノーリゥアちゃんが驚いてるが、こっちはお肉が気になる。包みを開けてみると、普通に艶々したお肉で血の色も残っている。というか、熟成すらしてない。切り分けた時のままと言っても変わらないくらい新鮮な肉のままだ。
「あんた。これ、何日前に狩ったもの?」
ノーリゥアちゃんが怪訝に聞いてくる。そうだろうね。私も疑問だ。
「えっと…四日くらいかな?」
たしかそれくらいだと思うけど、色々ありすぎてよく覚えてはいない。ここで、ソリシアさんがお盆に湯飲みを並べて入ってきた。
「あら、美味しそうね。鹿か狼かしら?」
そう言いながらお茶を置いていく。私はその包みを手渡してお夕飯にでも使ってくださいと言った。量にしたら高々一キロ程度だから足りないだろうと思い、もう二~三個出して渡した。ソリシアさんは大喜びで階下に降りていった。今日のお夕飯は何だろうな、と考えていたらノーリゥアちゃんから冷たい声がかかった。
「あれ、まだあるの?」
「え、ええまあ。たしか」
管理画面から『リスト一覧表示』を選んで見ると。『一角狼の肉の包み』という物がズラリと並ぶ。うへえ、数えてなかったけど百以上ある。食べられる所はかなり大胆に切り出して後は焼いちゃったから少ないと思ってたけど、大人以上の大きさの一角狼三頭分だから、それはそうかもね。
「と、とりあえず。今の容量はどうなってる?」
ノーリゥアちゃんが聞いてくるからリスト一覧表示の下にある『容量表示』を選ぶ。画面が切り替わる。その画面は細い縦線が一本あるだけで、後は下の数字だけだ。割合を表す記号で書かれているがこれはパーセント、つまり厘単位で書かれている物らしい。そこには『1%未満』と書いてあった。
「なから百キロ近くの物が既に入っているにも関わらず容量が1%未満…」
うん。ノーリゥアちゃんの絶望に満ちた顔の意味は分かる。つまり最低百×百キロは入るというのが確定した訳だ。つまり十トン。これは牛なら十四~十五頭ということになる。勿論生物ですから入りませんけどね。
「『サトル』の【在庫目録】だって大概だったけど、それでも百キロにはいかなかったのよ。それをあんたときたら…」
あ、すいません。本当に申し訳ないと思うけど、私が何かした訳じゃないんだよね。
「後ね、気になる項目があったのだけど、『内時間設定』ってさ。どうなってるの?」
ノーリゥアちゃんが麦茶を飲みつつ聞いてくる。拡張から内時間設定を開くと、まず『ルート』『個別ディレクトリ』と二つの文字がある。今は『ルート』の方に丸いマークが付いている。
その下に『0~二百%』となっている棒が書いてあり、一番左のゼロの所に三角形の印が付いている。一番右が百で、その三角形の印は棒の上のみを移動できる仕組みだ。
「これは…?」
ノーリゥアちゃんがよく分かってないみたいだが、私は分かってしまった。ゼロは経過しない。百%で時間経過は外と同じになる。たぶん、そういう意味だ。ちょっとしてからノーリゥアちゃんが分かったみたい。フランは最初から考えてないけど、イリーナはまだ頭を捻ってる。大丈夫か、知性の神官。
「つくづく、規格外ねあなた。内部時間ゼロって【在庫目録】と同じよ?しかも、変動出来るなんて」
中の時間が止まるだけでも凄いのだが、さらに加速させる事まで可能らしい。二百%とはつまり外界の二倍の速度で、その中は時間が経過するということだ。この中でどういう状態で保存されてるかは知らないが、肉の熟成、食品の発酵等も可能になるという事かな。最初の『ルート』というのはつまり、全体という意味だろう。下の『個別ディレクトリ』を選んで、加速させたい物が入っている所だけを選んでやるわけだ。
良くできてるなぁ。至れり尽くせりだよ。
イリーナはかんがえるのをやめてノーリゥアちゃんが出したお菓子を頬張っていた。フランも一緒だ。なんだろうこの可愛い生き物たちは。
「あなたも食べなさいよ。無くなっちゃうわよ?」
ほぼげんなりとした感じだが、それでも年長者らしく気遣ってくれているノーリゥアちゃん。
意外と麦茶に合うね、このお菓子。あのとき食べたのとは違うような気がするのは、一緒に食べるひとが違うからかな?




