おにんぎょうのぼうけんしゃ
今回はイリーナ視点です。
「えっ?いいの?」
ノーリゥアちゃんが声を少しだけ大きくして聞いてくる。よほど意外だったのかな?
「いいのいいの。ジュンもフランも泊まってるし。ここの宿って高いでしょ?」
私の家に泊まらないか? というお誘いだ。
ノーリゥアちゃんがどれくらいお金を持っているのかという心配を私たちがするのは筋違いだろうけど、これから旅をする以上はある程度親睦を深めておいた方が良いと考えたのだ。
「予定では何日後に出るつもりだったの?」
私が聞くと、遅くとも次の次の安息日までには出るつもりだったらしい。つまり、八日後だ。あまり急いではいないと言ってたけど、これはエルフ特有の緩い時間感覚のせいかもしれないね。
ノーリゥアちゃんがカウンターで清算した額面は金貨35枚。滞在期間は116日。なから四ヶ月近くかな。楽器演奏や歌での減額が一日銀貨15枚分らしいから、これを引いて一日30枚。
ええと、普通の宿屋がだいたい銀貨20~25枚くらいだから、これでも倍近くの価格だ。
これにご飯とかは別なわけで、良くもまあ暮らしていけるモノかと思ったら、ちょくちょく素材採集や討伐なんかをやってたみたい。
この街には迷宮は無いけど、魔物は普通に彷徨いてたりする。近隣の村からゴブリン退治とかは幾らでも来る。これはどこでもある仕事とも言える。
ゴブリンや魔物は何処にでも出てくるし、それを狩るのが冒険者達の仕事になるわけだ。
ノーリゥアちゃんは前金で金貨10枚を渡していたらしい。それでも普通はおいそれと出せないと思ったけど、(収納)からあっさり金貨25枚を出していた。
「ちょ……いったいいくら持ってるんですか?」
「聞きたい?」
「お、教えてくれるんですか? 普通はそういうのは黙っておくものじゃ……」
言うが早いか、ノーリゥアちゃんは素早く耳元まで近づいてぽそっとだけ言った。
「うええぇ……」
詳しくは言わないけど、気が遠くなる金額だ。
「私達くらいになると一回に受ける金額が高いからね。当然難度も高いものばかりだし」
高レベル冒険者って凄いんだ。そりゃあ難易度によって報酬も良くなるんだけどね。
「それにエルザムがザイムとして活動してた頃はやっぱりこれくらいは持ってたと思うけど」
さらっと。とてつもない事を彼女は宣った。
『アイゼンブレーム』のザイムが男爵様? ええ、初耳なんだけど。
「ザ、ザイム様ってあの『銀髪灼眼の魔剣士』ですよね? 実力は『豪苛剣乱』のティアード様より強いって云われてる……」
オルガさんがそう言ってたんだけど、そう言えばあの人『アイゼンブレーム』のリーダーじゃん。何で教えてくれなかったのよぅ!
歯噛みする私をノーリゥアちゃんが諭すように言う。
「私は隠す必要が無いから言っちゃうけど、人間には色々あるんでしょ? だから、誰も教えなかったんだと思うけど」
────なるほど。
確かにそうだ。男爵と言わずにもっと高い地位になることもできたはず。
なのに、ここに留まったのは……?
「ちなみに、ティアードの本当の名前はテアドニアスよ。この国の人間なら知ってるはずよね♪」
────ええええ? ほ、ほんとうですかー!!
「どうかしたの?」
お土産物コーナーと書かれたエリアで物色中のジュンとフランがこちらの、というか私の挙動に不審を感じたのか寄ってきた。ノーリゥアちゃんがぽそりと一言。
「言うか言わないかは、自分で決めてね?」
ええー、そんなぁ。
わ、わたしって隠し事、苦手なんだけどー。
目がぐるぐるしてる私にジュンが何か見せてきた。
ん、なんだ?
ちょっと目がすわってる感じのお兄さんみたいな人形だ。
フェルトで作ってあるけど、良くできてる。
「これね、父様の冒険者の頃の人形なの♪」
「…は?」
よくみるとタグが付いていて、『アイゼンブレームのザイム』と書いてあった。私の聞いたイメージによく似ているとおもうけど……今はこっちが先だね。
「ジュン、あなたザイムの正体を知ってたの?」
「うん。吹聴するのはやめろって言われてるけどね。父様が王様に呼ばれることが多いのも、その時の話とかお聞かせしたり、剣の手解きなんかもしてるらしいんだ。えへへ、すごいでしょ?」
お、おう……
微妙に全部ばれてないみたいだから、王様に関しては黙っておこうかな? あ、ノーリゥアちゃん、にやにやして一人だけ楽しんでる!
「ハイヤール殿の人形もありました。ノワール名義ですが」
フランの見せてくれた人形はまだ若い頃のお祖父ちゃんらしい、黒髪の青年だ。
……うん。雰囲気出てるね。
よく似てるなぁ。
「ちなみに、それのデザインをしたのも私よ」
「「「えっ!?」」」
「サトルのアイディアだったらしくて、こういう小物って子供や女の子には目がないでしょ? で、有名な冒険者シリーズで出したんだけど、誰も若い頃の姿を知らないからね。私は会った人間達はだいたい覚えてるし」
なるほど。確かにそうだね。
似顔絵描くにも元を知らないと無理だもんね。
いつの間にか、そっちに行って皆で『冒険者シリーズ』のフェルト人形を眺めていた。
本当に有名な人達ばかり。
『黄金の森』からは全員とエカティリーナお祖母ちゃん。『鋼鉄の花』からは、ザイムとティアード、『精緻なる装具士、ラスコー』、『闇鍛冶士、ダージニリス』、『水鏡の神殿騎士、ジャラルハイト』などそうそうたるメンバーだ。
あ、『鋼の団長、オルガ』ってもあったけど……正直にいうと可愛すぎ。こんなに可愛くはないよ?
『勇者シリーズ』もあるって、あれ? ノーリゥアちゃんてサトル以外の勇者と面識あったの?
「そっちは殆んどレートレイア姉様の監修よ」
ふわあ、『神秘の炎、レートレイア』様がねえ。
『サトル』『トオル』『ユウト』『アキナ』…あれ? わたしが疑問に思ったことをジュンがすでにノーリゥアちゃんに聞いていた。
「勇者って、女の子もいたんですか?」
すると、ノーリゥアちゃんもよくは知らないけどと言ってからこう続けた。
「『魔王を倒せる存在』であるなら、性別は問わないらしいわ」
ふうん。
聞くべきことじゃなかったかも。ジュンが少し考え込んでる。また余計なことを考えてなければいいけど。
「私が一つずつ買ってあげるわよ、よろこべ子供たち!」
お、ノーリゥアちゃん良いタイミング。この流れに乗るしかない!
「私は、お祖父ちゃんにしよ!」
「え、あ、じゃあ私はザイムで」
「それでは私はノーリゥア様を戴きましょう」
おっと、フランが気を使ってノーリゥアちゃんの人形を選んだぞ。さすが気配りの出来るメイドさんは違うねぇ……ノーリゥアちゃんも満更じゃないのか、ちょっと照れてるが。
結果オーライ!
お会計を済ませて、皆で家路につく。
鞄に付けたフェルト人形がゆらゆらと揺れる。人形たちが、何か話し合ってるみたいに見えて少し笑ってしまった。
「どうかしたの?」
またしてもジュンが声をかけてくる。
小さいのにみんなの事をよく見てる、可愛い妹みたいな存在。
だから私は頭を振って、ジュンに抱きつく。
「え、え? 何?」
意味が分からなそうに狼狽えるジュン。
大丈夫だよ、考えなくても。
意味なんて無いんだから。
「何でもないよー♪」
「え~、意味分かんない」
「人の往来で、はしたないですよ?」
「固いこと言わないのフラン」
笑いあう私達。
そう。
意味のあることばかりが、世の中ではないのだよ?




