ぎるどしぶちょうとのかいわ
今のところ、同席するイリーナには私の正体はバレてないはず。ギルド長のオルガさんは、『あいつの娘か?』と聞いてきただけだから、誰の娘とかは言ってない。
つまり、彼はそのまま押し通すのか? と聞いているのだろう。
だとしたら、押し通す。
そのために来たのだから。
師匠が言ったのだから、便宜は計ってくれると信じたい。ただ、偽装を認めるとかバレたら問題になるかもしれないしなぁ。
「虚偽を書いたことは認めます。申し訳ありませんでした。それを曲げて、登録していただけませんか?」
なるべく、誠意を見せるように。私ができる事など彼に対してはほとんどない。家の力がなければ、私なんてただの小娘だ。
だからといって、何でもするなどとは絶対言わない。
そこまでは落ちるつもりはない。
「ああっと、忘れてた。そっちの二人は登録はすんだのか?」
話を逸らしてきた。さらに二人を引き離すつもりか。むしろイリーナがいない方が私にはやり易い。
「イリーナ、フランの登録がまだだから付き合ってあげて」
「え……いいけど。いいの?」
「お願い、フランだけだとちょっと難しいかもしれないし」
「お嬢様、私は……」
フランに目配せをして、大丈夫だと告げる。こくりと頷いて、イリーナと一緒に出ていく。
「さてと、じゃあ本題に入るが……」
オルガ氏がさっきの書類を見ながらこちらに言ってくる。
「まず最初に俺に話を通せとフレスコは言ってなかったか?」
最初にとは言ってなかった気がするけど、迂闊だったのは認める。
「……すいませんでした」
「いや、別に謝れって言ってんじゃねえよ。そう言わなかったならアイツが悪いだけだ。そう言ってたらお前の落ち度だろうがな」
む、意外に理屈っぽい人だ。
「まあ、その辺もどうでもいい。お前の親父にも頼まれたし、登録も改竄してやる」
話が早いと思ったら父様が連絡したのか……えっ?
「と、父様と連絡取れたんですか?」
「奴からかけてきたからな」
あっさり言いおった。確かに符丁も知らないし、今は覚えたけどあれ以前には使えなかったし。
「ん? なんだ。今さらあいつに文句でも言うつもりか? なら、教えてやるが」
……むう。
やな言い方するな。確かに今さら話してもな。なんか気まずいし……。でも、声は聞きたいな。
「まあたぶん、奴は出ないけどな。フレスコの奴も拒否られたらしいし」
ニヤリと笑ってまたしてもやな事をいう。怒らせたいのかな? ならのってやらない!
「父様の符丁は教えてください。今は連絡する気はありませんが、方法はあった方がいいので」
努めて平静に言う。オルガ氏は口頭で父様の符丁を教えてくれた。二度は言うつもりないんだろう。
「それで、とりあえず聞きたい事がある」
なんだろう。私が旅に出る理由とか聞きたいのか? そんなわけ無いか。この人はおそらく線を引ける人間だ。自分の損得を考えて理性的に判断できる。人の情動とかには興味はないだろう。
「お前は勇者か?」
「違います」
「「………」」
なぜ、黙る。
睨むわけでもなく、自然体のままで互いの視線がしばらくぶつかり合う。
あれ、見つめ合ってるのかな? これは……
「いや、なんで照れてやがる。子供を口説くつもりはねえよ」
とか言いつつ、少し顔が赤い。お互い、ちょっと気まずい感じになってしまった。オルガ氏がごほんと、咳払いをして話を戻す。
「いや、おかしいだろ。勇者じゃなきゃこんなアビリティになるわけない」
そう言えば、ステータスだけ見てたけど、アビリティ欄は見てなかった。ピラッと紙をひっくり返してこちらに見せてくる。
器用度:16
敏捷度:18
知性:21
筋力:5
生命力:9
精神力:18
信仰心:18
幸運度:12
体力:14
魔力:65
神力:45
命中補正:+3
打撃補正:±0
回避補正:+4
防御補正:±0
魔術補正:+13
神術補正:+10
「うわっ……私の筋力低すぎ……」
「驚くところはそこじゃねぇよ!」
何故かキレられた。どういうことなの?
「あの、ひょっとしてこの信仰心ってのですか? 私、神様なんて信じてないんですけど…」
「そこもおかしいんだけど! けどもっとおかしいのがあるだろ?」
んー。どこだ……?
「まさか、魔力ですか?」
「そうだよ、それだよ!」
なんか、最初のイメージからどんどんキャラが崩れてるな、この人。更年期かな?
「普通の魔術師は魔力はだいたい12~17位まで、高くても21くらいだ。歴代の魔術師の中でも最高値だったのは、ロートシルトの25だ」
え、そうなの? じゃあこの数字って……
「故障とか?」
「んなわけあるか!」
う、うう、怒鳴らなくてもいいじゃん、ぐすっ。
「泣くなよ! 俺が泣かせてるみたいじゃないか!」
私だって泣きたくなんかないやい!
でも、なんだか無性に涙が溢れてきて。
……あ、だめだ。
「うぐっ…ひっ…あ、ああぁわ~ぁぁ」
うう、止められない。
なみだも、嗚咽も、鳴き声も。
ひとしきり泣き止むまで、オルガ氏は待っていてくれた。すごくばつの悪そうな顔だ。
「……悪かった。お前のせいじゃないんだよな」
……すん。
鼻を少し啜ると、ちょっとは喋れるようになってきた。
「……わたしは、召喚なん、てされてない。……えるざむ父様と、てれーぜ母様の、むすめだ、もん」
うわ、子供みたいなしゃべり方になってる。
けど、これは言わないといけない。
私はきちんと生まれてきた人間だ。
勇者なんかじゃない。
「……そうだな」
ポンポン。
わたしの頭を軽く、そっと叩くオルガさん。ぶっきらぼうな慰めかただ。子供をあやしたことは、無さそうだな。
でも、不思議と心地よかった。もっと小さい頃。自分の事もよくわからなかった頃に、父様が頭を撫でてくれた事を思い出した。
しばらくして、フランとイリーナが戻ってきた。二人ともオルガさんが私をいじめたと怒ったが、大人な彼は相手にもせずこう言ってきた。
「詫びにメシご馳走してやるよ。『宵闇のサルビア』って宿を知ってるか?」
……聞いたことあるよ、そこの事は。




