2-5 ぼうけんしゃぎるどとうろく
冒険者ギルド。
ギルドと名は付くが、実際は魔術師ギルドや神殿とかと同じように国家には帰属しない団体である。
初めは各々の国家が運営していたのだ。その頃はまだ魔物を討伐したり隊商の護衛をしたりという仕事が多かったが、迷宮という存在が出てきたせいで冒険者の価値は一変した。
迷宮は魔物や宝物を産出する資源であり、それを効率よく採取する専門家が冒険者になった。狭く入り組んだ迷宮に大兵力を送っても、効果はあまり期待できない。むしろ被害は拡大した。魔物の特性を理解しない者達は効果的な戦いかたを出来なかった。
また、迷宮には迷宮核があるのだが、これを破壊すると迷宮自体も枯れてしまう事が分かると、さらに軍勢を投入する意味が薄れた。
結果、迷宮は育てるものというのが常識となり、国家はそれを吸い上げる事で利益を出すようになる。
この状態が暫く続いたのだが、ここに『魔王』という存在が出てくるようになる。
『魔王』は、迷宮に現れるだけでなく神出鬼没だ。この『魔王』の持つ戦力はどれも大変な被害をもたらす物で、大兵力をいくらつぎ込んでも倒せるものではなかった。
苦慮した人間は神に頼った。そしてそれは『勇者召還』という奇跡を人間にもたらす
『勇者』は、異世界から呼ばれる人間であり、その力は『魔王』に匹敵する事もあるとも言われている。だが、いかに『勇者』が強くてもさすがに異形の化け物達である『魔王』には一人では勝てない。その『勇者』自体の戦闘力は一定ではないし、特性もまちまちだ。戦う力は強くても回復も出来なければ、手数も足りないなんて事はよくある話だ。
そして、そういった『勇者』の補佐をするために抜擢されたのが冒険者達だ。彼らの中には『勇者』が持たない特性を持ち、助けになる力を有する者も多い。一人一人は弱くとも、『勇者』の力を十全と発揮させるには無くてはならない存在だった。
『魔王』を討伐した『勇者』やその従者として働いた冒険者達は、英雄と祭り上げられる。数度ならば問題なかったかもしれないが、果てしない回数が行われていくとそうも言っていられない。
国は『魔王』によって疲弊し、『勇者』や冒険者を労うためにも出費を強要される。ひどい目に遭うのは一番下の民である。
国に対する不平、不満も強くなった時に、いっそ冒険者や魔術師、神官たちを国から外した方が各国から上がったのだ。
『勇者』を召還するのは神殿だし、それをサポートするのは冒険者や魔術師なのだからというのが理由だ。
この三つの組織の国による税は、魔石や宝物などの物品の売買に関してだけになった。迷宮で採取された物は一度全て冒険者ギルドや魔術師ギルドが買い取る形になる。そこで売買される物に税を課す。いわゆる物品税という形だ。
結果として、冒険者ギルド、魔術師ギルド、神殿各所は肥えていくのだが、ほぼ定期的に出てくる『魔王』が出した被害などの出費は彼らが負担することで合意を得られた。
実は国家間での格差の是正という意味合いもあったりする。たとえば、『魔王』の頻発地帯のベルゲルメールやダインベールは、他の地域に比べて出費がとても多かった。だからこの二国は密接な関係にある。
先の二国は国力も大きいから、互いに支えあうとインペツゥース皇国やかつてのグルルカン首長国などは穏やかではいられなくなる。
『魔王』という存在が邪魔ではあるが、国家間の戦争が全く無くなる訳ではない。共通の敵がいる間は共闘出来ても、それが永劫続くとは誰も言えない。そのときに他の国と国力の差が大きくなりすぎるのはやはり警戒するものだ。
また、被害が出なければいいというものでもない。なければそれを妬まれるし、援助という形で金は出さねばならない。無理やり出させられるというストレスは国の上層部にも庶民にも等しくふりかかる。
国家と切り離すことで得られるものが多いなら、面倒な管理もしなくていい。それなりの権益が上がる方だけの方が、国としてはやり易いと気づいたのだ。
そんな理由から冒険者ギルドや魔術師ギルド、神殿に勤める神官や僧侶達は国家からの強権を発動されることはあまりない。
登録した冒険者の管理も各々のギルドや神殿が行うし、国家間での移動もあまり制限はされない。先ほどからあまりないという言葉が連発されるが、当然例外もあったりする。
冒険者だからといって、犯罪とかを犯せば当然罰を受ける。殺人や傷害、抜け荷や横領などをすれば、国を越えても捕まる可能性はある。
特に冒険者ギルド、魔術師ギルド、神殿に属する者に対してのそういった行為は、彼らの仲間に対しての犯罪行為なため追及は激しいそうだ。
その場合、その行為の行われた国の法に基づき処罰される。当事者の所属する国はこの際は関係ないが、これも例外があり貴族はその国に送還されてそこで処罰される。
他国の貴族をどうかすると、国家間の火種になるからだ。
私も気を付けないと。まあ、好き好んで犯罪をするつもりはないが、慎重にならないといけない。
冒険者に登録するためにはまず、受け付けに申請書類を出すところから始まる。
まあ、偽名だけど、ここでユーニスと書いてしまうと後々問題になるかもしれない。実はこの辺の知識はあまり蒐集してないので、よく分からない。
たしか理術中級の(鑑定)とかだと偽名とかは簡単に見破られてしまうのだが、そこまでやるかどうか定かではなかったのだ。どのみち私ができる対処法はないので、バレたら師匠の言ったようにギルド長を頼ろう。
すでに申請済みのイリーナに教わり、書類を埋めるのに没頭する。フランの方も確認しつつ書き込んでいく。
ちなみに、私はだいたいの文字が読めるのはご存じだろうが、フランはダインベール公用語しか、読み書きは出来ない。
これはメイドとしては優秀であり、それはこの世界の識字率の低さに起因している。
ギルドの事務職についている人間たちが高給取りなのもこのためだ。町の商店で奉公人が帳簿を付ける事はあっても、文字自体は読めなかったりする。
きちんとした教育を受けられるのは、ごく限られた人間たちだけ。不公平はこんなにも満ちている。
話がそれた。
私は魔術師としての申告でいいだろう。年齢は十二。さばを呼んだ理由はただの見栄だ。師匠はフレスコ=ウェイルン。出身はサンクデクラウスでいいか。ここは偽る必要はない。後見人、か。これも師匠でいいや。私は子供だから必要な箇所だが、フランには必要ない。
フランは本名フランドールだから、そう書いて、年齢は十八。クラスはどうする? 拙いが、戦士にしておくべきか。師匠は、うーん父様を書くのはやだな。仕方ない、師匠は無し。出身は同じようにサンクデクラウスにする。
ダインベール公用語しか読み書きは出来ないんだから、他の国ではおかしいよね?
さっき言ったように、後見人の項目は成人している彼女には必要ない。
「あれ? ジュンって十歳じゃなかったっけ?」
イリーナの問いに小声で答える。
「小さすぎると断られるかもしれないからね」
すると、彼女はあまりいい顔はしなかった。
「たしか測定板で年齢とか分かっちゃうよ? 虚偽の申告はよした方がいいと思うけどな」
え、そんなもの使うの?
えっと、測定板って、いうとあれか。鑑定魔術の入った魔術装具じゃなかったかな?
……やっべー。どうする?
とりあえず、ギルド長を先に呼ぶ?
「出来ましたら、どうぞこちらへ」
う、にこやかに笑う受付のおねえさんが書類を求めてくる。
うん、まあいいや。
問題が起これば、そのときにギルド長を呼んで貰えばいいか。
修正をしないでそのまま提出。誤字脱字が無いか確認するとお姉さんはそのまま隣に移動してきた。
窓口から出て隣の部屋へ誘導される。そこにはテーブルの上に置かれた大きな石盤があった。材質は花崗岩のようだが、周囲に魔術文字が羅列して書いてある。読んでみると、これが『測定板』らしい。
呪文の文言が全て記載されてはいないので、表面上を読んだだけで呪文は使えない。魔術装具はだいたいそういう造りなのでそれは構わないんだが……
まずいかなぁ……
両手を板の上に乗せると魔術装具が起動する。何か色々出ているが、普通の人は読めないだろう。魔術文字にさらに古代文字まで入ってる。文字の羅列が速くかつ量が多いのでよく理解できないが、たぶん何らかの集積データを参照してるように見えた。どこに繋がってる?
ともかくそれの文字の羅列は一瞬で終わり、私のデータがそこに記載されている。これも魔術文字だから、普通の人は読めない。
魔術の心得があってようやく判読出来るのだがこの早さでは読めないだろう。
でも、私は翻訳があるから簡単に読めてしまう。
名前:ユーニス・ジュリアーヌ・フォン=アークラウス
年齢:10
クラス:男爵位令嬢、魔術師
師匠:フレスコ=ウェイルン導師
後見人:エルザム・フルス・フォン=アークラウス男爵
出身:サンクデクラウス
……丸分かりじゃないですかー!!
出てきた文字を印字した紙が測定板の横から出てくる。こっちはダインベール公用語で書いてある。
お姉さんが書類を取って眺める。動きが止まり、冷や汗をたらたら流してる私を見て、書類を見て、また私を見る。二度見したよ、この人。まあそりゃそうか。
「あはは………」
「しょ、少々お待ちいただけますか?」
うん、そうだよね。そうなるよねー。
「あの、出来ましたらギルド長のオルガさんを呼んで欲しいのですが」
「あ、はい。少しこちらの部屋でお待ち戴けますか?」
あー、応接室なんかに案内されちゃったよぅ。気を使わせるつもりなんて全くなかったんだけどなぁ。
ガチャ
いきなりドアが開けられた。
五十歳前後の男性が入ってくる。頭を掻きながら私たち三人が座っているソファーの前にやってくる。
私が立つとフランもイリーナも慌てて立ち上がる。
「えっと、お前があいつの娘か?」
私に向かってそう言ってくる彼は貫禄のある人だ。
雰囲気は師匠よりも父様の方に近い。
「はい。名はジュンと言います」
しっかりと見据えて、そう答えた。




