1-29 ばくはつともえるてんかい(おもにろーぶ)
大きな火炎弾が曲射軌道で飛んでいく。
本来はまっすぐ勢いよく飛ぶのだが、わざと遅くしてみた。出来れば逃げてほしいからだ。
思惑通り、危険を察知した前の三人は慌てて倒木から離れる。ただ、ひとりが慌てたせいか途中で転んだ。爆発の余波を受ける範囲だが、仕方ないと思うので特に何かはしない。
火炎弾が着弾する。
閃光が走る。
周囲の空気を一瞬引き込んで一気に爆発した。
熱風が私達の乗り合い馬車にまで届き、馬たちがあわてふためくのをロッツェン氏が懸命になだめる。
震動でビリビリと馬車が揺れ、それが収まる頃には爆心地の辺りから黒い煙が上がっているのが見えた。
爆心地から半径七メートル辺りまでが炎に焼かれ黒く煤を上げているが、直撃範囲の倒木は跡形もない。
全部周囲に散らばったか燃え尽きたかしたようだ。今なら突破していけそうだが、あの焼け野原を馬が進めるかなと疑問に思った。
そして野盗どもはというと、硬直していた。まるで、目の前に巨大な肉食獣が睨み付けているみたいに、ピクリとも動けなかった。
あの惨状を見たら分からなくもない。
少なくとも、あのまま倒木から離れてなければ、そこに居たものは体がバラバラになっていても不思議ではないのだから。
けど、あまり時間はない。
今は驚いているが、彼らの損害は一人を除きほとんど出てない。
あ、一人は当然、あの倒れたのだが、倒れ込んだ場所がよかったのか背中を軽く焼くだけで済んでいて、手足も千切れてない。
あれなら命に別状はないだろう。
「ロッツェンさん、馬車を出せますか? 倒木は無いみたいだから、行けると思いますが」
私の言葉に硬直から解ける御者は、前の状況を見てこう言ってきた。
「け、煙さえなければ馬は怯えないと思いますが?」
煙、煙か。ならあれかな?
(気流)を唱えて爆心地の煙を吹き飛ばす。細かい木片はあるが、ほぼ炭化してるから問題はなさそうだ。
しかし、ここで厄介事が起きた。馬車の車輪を植物の蔦が絡んで繋ぎ止めていた。
そういえば右手の一人が怪しいって思ってたけど、向こうにも居たのか、魔術師。
「早く近寄れ! 射撃は届かないから、接近戦で他の奴等を捕まえろ!」
木の影から半身だけ見せて指示をするあの魔術師。たぶん実質的なリーダーはあいつだ。
「みんな、表には出ないで!」
私はそう言うと、呪文を唱える。
向こうも何か唱え始めていたらしく、私の声が聞こえなくなる。
マズイ!
(沈黙結界)だと?
中々にセオリーを知ってるじゃないかと関心してはいられない。
こっちの詠唱が出来なくなってしまった!
このままでは魔術が使えないから、数で勝る奴等にはかなわない。
後方から来てた奴らは一番早く近付いている。すでに十メートル以内。前の二人は十四メートル位で弓兵達は位置は動いてないがたぶん木から降りてる最中。
一人で対処するには、かなりヤバイ状況だ。
仕方ない。
アレを使う。
(沈黙結界)は、対象にかけるとその人物に付きまとうが、その位置に対してかけるとその空間で留まり続ける。
私が沈黙結界に最初気づかなかったのは、私にかけられた術じゃなかったからだ。
術というのは、魔術だろうと神術だろうとかけられた者は分かるのだ。
自分に害を為すモノを感じ取ると言えばいいかな? 抵抗されては術自体が消される事を嫌ったのだろう。奴は私のいる御者席を的にして(沈黙結界)をかけた。
つまり。
そこから離れれば、沈黙の結界からは逃れられる!
【超加速】!
世界が止まる。
沈黙結界はそんなに範囲は広くない。だいたい半径三メートルそこそこのはず。
ただ、私の方は距離の制限がある。この間は百メートル移動したら、完全に服が燃えてしまった。そうなったら、今度こそお手上げだ。
まず、【保管】に短杖をしまう。
で、この状態で馬車から降りて魔術師側に接近。移動距離は若干余裕をもって六メートルほど。
これくらいなら、ローブが焼ける程度で済んでくれると思いたい。実験出来てないからぶっつけ本番でやるしかないけど、最悪の事も考えて【保管】の枠は短杖ではなく、替えのローブにしておく。
全裸でなければ、素早く短杖に変えて魔術師に対して呪文、もし全裸になっちゃったらローブを出してくるまろう。
せめて、見られなければなんとかなるはず。
ああ、でもそれは弱気かなあ? さっさと短杖出して殲滅しといた方がいいかもしれないし。
いいや、短杖にしよう!
どうせ私の裸なんて誰も喜びゃしないんだろうしね!!(ちょっとヤケ)
【急減速】
世界が動き出す。
敵の魔術師は、いきなり消えた私に驚き、どこにいるか確認する。私はその時すでに保管から短杖を出して詠唱を始めている。
「バカな、いつの間に?」
私の纏うローブの裾が燃えて煤に変わるが、服はそのままだ。安心して詠唱を終えると、光輝く十三個の球が私の周囲に浮かび上がる。
「ひっ!?」
とっさに魔盾Ⅰを唱えるつもりか?
そうはさせない。
私は他の野盗には一発ずつだが、残り全てを魔術師に向ける。これなら魔盾Ⅰで防がれても何発かは抜けるだろう。
「(理術弾)!」
「じゃあ、こんなもんで良いかの?」
ハイヤール老が縄の具合を見ている。
縛られた野盗達はゴロゴロ転がされていた。
結局、魔術師は私の理術弾を一発は魔盾Ⅰで避けたものの二発が直撃してかなりの重症を負って倒れた。
他の盗賊達は仲良く一発ずつの理術弾によって打ち落とされ、気絶してしまった。
なんともはや、呆気ない結末である。
も少し耐えてよ、大人なんだから。
……無理か。
直径三センチ位の穴が開いたら、大人でも痛いよね、そりゃ。
で、この野盗共をどうしたものかと相談したら、御者のロッツェン氏は三つの方法を教えてくれた。
縛り上げて置いておくか。
殺すか。
連れていって領軍に突き出すか。
一番楽で簡単なのは殺す、らしい。盗賊や野盗は放っておいても害にしかならないから。
次は領軍に突き出す、だけど。
これは一番手間だ。
討伐金がもらえるので金を稼ぐにはいいかもしれないけど、私は領軍に近づきたくないんだよ、今は。
結果として、縛り上げて放り出すを選んだ私たち。
ハイヤール老の手解きで、ほどきづらい縄の結び方を伝授してもらい彼らを拘束していく。
あとは野性動物が始末するか、衰弱死するか、いずれも勝手に行われる。
運が良ければ助かるかもしれないけど『この者達は野盗の類いです。捕らえたので放置しています』と書かれた札を見た人間はどう思うだろうか。
さて、時間をくってしまった。
野盗から奪った武器と食糧は馬車にのせてある。
これは私達の臨時収入にしてよいとの事だ。
しばらくするとまた、日が暮れる。
──今日中に着くと思ってたのになぁ。
超加速のデメリットとして、装備品は加速中の摩擦に耐えられなくて燃えてしまう、という事になっています。
厳密な物理法則には、当然当てはまりませんので、こういうものだとご理解下さい。そんな事を言い始めると、ユーニス自身が耐えられなくなりますので(笑)




