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異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
1 たびだち
24/266

1-24 はじめてのたいけん(おもにちょうり)

 皆のところに戻ろうと思ったけど、魔物だから魔石は回収しないといけない。

 手にした刃折り(ソードブレイカー)で手早く頭部を切り開くと、脳の下辺りに小さな石があるのがわかる。


 これが『魔石』である。


 魔石は動物や植物には存在しない。魔石を内包した動くものすべてを『魔物』と称している。

 この世界にはアンデッド、つまり死から反転した存在もいるが、この魔石を回収しない魔物はかなりの確率でアンデッド化するそうだ。

 逆に回収したものと動物とかの死骸がアンデッド化する確率は五厘、つまり五パーセント位のものらしい。


 詳しく実験した人もいた。

 アンデッド博士の異名を持つグレゴリオ=アンデルセンというインペツゥース皇国の魔術師だったかな?


 召喚術の中でも禁忌に近い死霊系の術の専門家で、彼の領地で行方不明が出たら間違いなく彼の仕業と噂されるほどだ。

 眉唾だけどね。


 三匹の一角狼の頭部を切り裂き、魔石を取り出すと保管(ストレージ)から出した使ってない革袋に入れる。

 手に付いた血は後で拭おう。向こうにも死骸はあるから。さらにお肉もバラさないとね。


 戻るとフランが乗客や御者さんにもてはやされていた。

 うん、良いことだ。

 私が目立たないために役に立ってるよ、フラン。

 実際インパクトはフランの方が強かったからね。


 さてと、ではこっちもサクサク処理していこう。


 フランによって頭部がなくなったのは魔石が分からなかった。が、こういう場合はアンデッドにはならないはず。私が捕獲して始末した物もだいたい頭部を撃ち抜いているので同様だ。

 あとは(岩石筍(アースパイク))で空中に浮いたまま絶命してるのと、口のなかに(小火弾(ファイアーボルト))を撃たれて上半身焦げてるの。

 フランの仕留めた内の二匹は胴から半分になってるから臓物がぶちまけられてて精神衛生上も臭気的にもよろしくないので、魔石を取ったら焼いてしまおう。

 当然、食べるためではない。それはちゃんと切り分けた物を使うつもり。素材の量は多いんだから、使いやすいの以外は始末しといた方がいいと思う。


 頭を飛ばしたのと、捕縛して撃ち抜いたのを捌こうと思ったのだが、数が多いから手間がかかりそう。

 誰か手伝えないかと聞くと夫婦の奥さんの方が出来るらしい。


「小さいのに手慣れてるのね、最近は自分で捌けない子も多いのよ」


 そう言ってくる彼女はどうやら料理屋の女将さんらしい。ということは旦那さんのお店なのかと思ったら、旦那さんはサンクデクラウスの青果ギルドの事務員だそうだ。


 一角狼は魔物とはいえほぼ狼や犬のような姿形であり、中に毒とかを持つわけでもない。適切な処置をすれば内臓だって食べられる。

 旦那さんと御者さんに木に吊り下げてもらい、太い血管を切って血抜きをする。先ほど始末をした場所で作業をしているのだが、無惨に穴だらけで倒されている一角狼を見て二人は驚いている。

 そういや、言わなかったもんね。


 女将さんはかなりの腕で私よりも断然上手かった。これはちゃんと見て真似ておこう。本物の料理人の腕前を見る絶好の機会だ。


 ちなみにこの方はルイゼさん、旦那さんはゼイクトさんという名前だった。

 最初に合ったときに聞いたはずだが、あのときはちょっと疲れてて忘れてしまっていた。


 ご老人はハイヤールさん、今は隠居した金物屋の元店主で、店はウェズデクラウスにあるそうだ。

 孫娘のイリーナさんはこちらもウェズデクラウスにある武器屋の『ヤゼンガルド』の娘なんだそうだ。

 お孫さんは冒険者ギルドの会員らしいが、今回なにもしてなかったな。いや、別に他意はないけど。無理に戦いに出ても困ることもあるし。

 そのあたりの事を捌いた肉を別々に油紙で包んでいきながら聞いてみた。


「わたし、キョウガイシの神官位を得られたばかりで。まだ冒険者としての活動はしてないの」


 キョウガイシの神官ですか。


 たしかキョウガイシ神の司る属性は土、知性、攪拌を重んじる比較的平和な神だったと思う。

 この間の密偵の人が成り済ましていたジョウコウカンは、水、協調、融和を重んじる神だった。


「なるほど、キョウガイシの神官様はあまり冒険者にはならないよね」


 神官や僧侶などの聖職者は、意外と冒険者になる人が多い。これは彼らが与えられる神術が魔術と同じように超常の力を持つからだ。

 そんな中でもやはり傾向というものがあり、他の神の僕たちよりキョウガイシの神官は積極的に冒険者になることが少ない。

 これは、彼らの特質の知性が関係している。やはり本を読み耽る人間が多いらしく、学校とかの教師や役人などの事務職に携わる傾向が強いらしい。


 つまり、イリーナは変わり者ということになる。見たところ装備もほとんど着けてないし、どんな適性なのかもさっぱりわからない。


「フラン様とはどこでお知り合いになったの? あんなに強いかたは見たことないわ!」


 イリーナの興味はフランに向かってはいるが、こっちは作業中なんだから近くでぺらぺら喋らないでほしいなあ。


「フランは、父の紹介で付いた護衛だ。私もあまり知らないよ」

「あら、ずいぶん親しげに見えたから長いのかと思ったのに」


 これ以上詮索してほしくない雰囲気を出したつもりだが、彼女には通用しないらしい。


「そういえば、ジュンって男の子の癖にかわいい声だすのね?」


 ……おい、この子ホントに知性を司る神官なのか? となりのルイゼさんもちょっと呆れていたが、大人だから突っ込んではこない。


「フランさんもそうだけど、あなたも凄いわよね。あれだけ魔術を使えるなんて。私の同期には一日に三回使えればよかったほどよ?」


 うん、私の方へ話が向くのはご遠慮したいな。


「悪いけど、水を持ってきて。手桶で二杯ぐらい」


 イリーナにそういってから、私は保管(ストレージ)から束ねた手拭いと、塩の壺を取り出す。これはあの乾物屋で売っていた物だ。

 塩は専売だが、小売はしている。わざわざ役所や領主宅まで塩を買いに来るわけでもない。


 捌いた肉を洗い、布で水気を取ってから塩をふる。やや多目の塩をふりかけておいて、さっき油紙に包んだのに塩をふるのを忘れてたのを思い出したので同じようにする。二度手間だが、やっとかないと痛む可能性があるから。

 そろそろ秋も深まってきたこの季節では、そうそうは痛まないと思うが念のためだ。

 塩をふってしばらくすると、また水分が血と一緒に出てくるからそれをもう一つの手桶で洗い、別の布で拭き取る。

 ここで出来るのはこの辺までだろう。ここは肉屋じゃないから専門的な加工は無理だ。


「フラン、そっちはどう?」

「そろそろ煮たってきてます」


 簡易的な竈が作られていて鉄鍋がかけられている。鍋は別にもう一つあり、そっちは湯を沸かした状態で外してある。

 肉の処理をする前にやっておいた狼の臓物(もつ)を茹でていく。 これはよく洗ったあとに塩と重曹を混ぜ混んで、もう一度洗い流してある。

 ドワーフおじさんとこにあった米酒、欲しかったなあ。

 よく煮込んだら、その鍋の湯は三分の一だけ残して捨てる。

 外してあった鍋を戻して乾物屋で売っていた乾燥野菜の葱やら大根やらを入れていく。ほんとは浸けおきで戻した方がいいんだけど、今は無理だからそのままイン。

 生姜と大蒜(にんにく)を皮をむいてから刻んだりつぶしたりしてから煮込んでいく。


 ある程度火が通ったら先ほどのもつを入れて塩を様子を見ながら入れていく。


 ここでルイゼさんの秘蔵の調味料、味噌が入る。この米を使った発酵食品は、とても体が暖まるので、冬にかけて需要が高くなる。


 なぜこれを持っていたのかと聞いたら、ウェズデクラウスに行く理由らしい。そこに住む友人も食堂をやっていて、彼らに味噌の味を伝授するためにわざわざ出向いたらしいのだ。

 今回持っていく量は壺一杯分だから、ここで使う分があってもまあ大丈夫だろうと言ってくれた。これは楽しみだ。


 向こうではイリーナはフランに声をかけているが、真剣な眼差しで火を守っているため相手にされてない。でも、めげずに傍で一緒に見ているのはやめない。

 意外にめげない頑張り屋さんだ。少し感心。


 さて、夜食を食べよう。



 秋の夜長のモツ煮込み。美味しそうですが、野営で手間のかかる料理をするのはめったにありません。

 まあ、そのうちこれが彼女の普通になりそうですが。

 この世界は勇者が何度も召喚されていて、その都度地球の文化が流入して浸透しています。

 醤油や味噌なども、そうして普通に使われています。大豆はよく取れるらしい。

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