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異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
1 たびだち
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1-20 こうえきじょはつのりあいばしゃ

 交易所とは、どの街でもかなり大きな施設になっている。その街に出入りする荷のほとんどが一度ここに集められ、各々の商店や店に買われていく。


 もちろん主な目的は徴税だ。持ち込みや持ち出しに税がかけられるのだが、小さな町や村だとどんぶり勘定のような所が多い。ところが大きな街の場合は話が変わってくる。人も多いし量も多いとなれば、そんな事で大損したり逆に取りっぱぐれたりもする。


 それゆえに出入りの商人たちは一度ここに立ち寄り、税を清算してからでないと出入り出来ないようになっている。徴税の鑑札や清算の鑑札がなく商人が街を出入りするのは、かなり重い罰がくだるのだ。


 交易所にはそれぞれの商会がギルド支部を置いている。野菜や果物なら青果ギルド、武器や防具などは武器ギルドが扱っているなどだ。


 麦や米、塩は領主が取引するのでここにはギルドがない。まあ、既得権益というものだ。これらを売買する権利は領主のみが得ているので、それを仲介するギルドは存在しない。


 ギルドの存在理由は、内外の商品の流通の管理と国や領地に対しての交易権にある。ギルドの存在する職種はそこに属さない限り、国や領地に対して権利を有していない販売になる。いわゆるモグリ、闇取引扱いだ。

 各々の商店はギルドに会費を支払い、ギルドは商品が円滑に回るように腐心する。ギルドは旅の商人から物を売り買いし、領地に税を落とす。


 ちなみに領民に課せられる税はだいたい賦役と貢納税、住民税となる。

 賦役は開拓事業や領軍への徴兵などがあたり、ようするに肉体労働で直接支払うというものだ。

 貢納税とは、収穫物を納めるもので農民などは取れた麦や米、雑穀や野菜など、林野で採れた果実や猪とか鹿とか野生動物などを納めることである。

 先にある麦や米、塩などは領主との取引で税となるが、その他も物品に関してはギルドが仲介して取引する方が一般的だ。


 ギルドの会費というのも実は税であり、その取引額によって増減する。街に住む人間の多くは何らかのギルドに所属するため、ギルドが徴税の一翼を担っている形になる。

 住民税とはようするに人頭税だ。

 成人から六十までの人間性一人頭でかかる定額税だが、これも払えなくなると奴隷に落ちてしまう。もっとも、悪質な犯罪奴隷とかよりも軽い懲役を受けるだけなので、この男爵領に限って言えばそれほどひどい目には合わないだろう。


 話がそれたので戻そう。

 交易所には多くの人が出入りする。早朝から昼にかけては、周辺の農家や牧場などが収穫物をそれぞれのギルドに納入し、その後は旅の商人達の取引がある。夕方近くまで人の出入りが絶えないのだ。


 そして交易所には一般人相手のギルドもあったりする。それが私の向かう場所、馬車ギルドだ。

 このギルドは移動力を売るギルドと言えばいいかな? 常時、何台かの馬車が御者とセットで周囲の街などを行き来していて、別の要件に対応出来るような馬車も用意している。御者もギルドの会員で、その馬車の持ち主だったり雇用されてたりする。


 馬車ギルドはその売り買いのほとんどは馬であり、馴致(じゅんち)のすんだ若駒を購入し年老いた老馬を売却する。馬車自体の販売もするが、それはほとんどない。なぜなら二頭立ての馬車でだいだいダイン金貨三百五十枚になる。

 これはこの街の町人の収入が年間で金貨五十から七十枚とすると、だいたい五~六年分になるので個人で買う人はいないだろう。


 交易所の片隅にある馬車ギルドに足を踏み入れると何台かの馬車が残っている。そういえばと、フランに聞いてみる。


「施術院に回してもらった馬車って、前金で渡してた?」

「いえ、身を証すものはなにもないのですが、その受け付けた方が私の事を覚えておりまして」


 なるほど、つまりはすっぽかしたか……申し訳ないがここは惚けよう。

 その辺の始末は父様に任せる。それくらいはいいだろう。


「じゃあ、フランは兜は取らないで、喋らないでね」


 そういうと私は受け付けに向かう。受け付けには事務をしている女性がいるか、私が向かうと書類から頭を挙げて挨拶をしてきた。


「いらっしゃいませ、ご用件は乗り合いですか?」

「はい、ウェズデクラウスまでの便はまだありますか?」


 よくわからないだろうけど、声を少し低くして喋っていたりする。そういえば次元系の魔術にそんなのがあった気がするが、いまはこのままでいこう。


「はい、午後の便がそろそろ出ると思います。料金は一人ベールマン銀貨五十枚になりますが……」


 と、後ろの鎧武者の方を見る。


「はい、彼も一緒です。向こうに知り合いがいるので、そちらに行くのに父がつけた護衛です」


 そう言いながら、革袋からダイン金貨を一枚だけ出す。


「往復は二日かかります、その際の食事や寝袋などはどうしますか? なければこちらで用意も出来ますが、その場合追加料金がかかりますが」


 ふむ、準備はしてあるけど、【保管(ストレージ)】から直接出すのはちょっと他人にはあまり見せたくないけど。


「では、食事だけお願いできますか? 寝袋はこちらで持っていますので」


 実のところ寝袋は買ってないが、こういうところの物は使い回してろくに洗ってない物も多い。まだそこまで寒くないから毛布だけでも大丈夫だと思う。

 ちなみに食糧に関しても、炊事するなら食べられる物は入っているが、干し肉とか黒パンとかのいわゆる保存食は買ってなかったりする。よく考えると準備が足りなかったなあ。


 別料金でベールマン銀貨八枚を払い、乗り合いの札を受けとる。食事つき乗り合いウェズデクラウス行きと書かれた札が二枚。一枚をフランに渡す。


「街道は危険は少ないと思いますが、道中のすべての危険に対処はほぼできません。御者は野党などに襲撃された場合にお客様を守ることはできません。また、野生動物の襲撃などにも対処出来ないのでその場合はご自身の身はご自身でお守り下さいますようお願いします」


 うん、免責事項の説明きたよ。移動するのも命がけな世界だし御者が世界を救える勇者みたいな人ならどんな外敵からも守ってくれるだろうけど、そんな事はありえないし、勇者だとしても全員は守れない。


「私もそれは知ってます。でも仕方ないので、その時は諦めて戦いますよ」


 その時はたぶん自分から赴く初めての戦闘になる。いずれそういう事には巻き込まれるだろうから、早かろうが遅かろうが関係ないよね。


「では、こちらにサインをお願いします」


 ウェズデクラウス行き食事付き二名と書かれた契約書に署名を求めてきた。

 んー、ここには私の名(ユーニス)は書けないな……そうだ。

 わたしは思いついた名前をそこに記す。


「はい、ジュンさまとお付きの方二名で承りました」


 うん、私の洗礼名をちょっともじったけど、意外に合ってる気がする。 これからは、ジュンと名乗っていこう。




 細かい設定というのはいくら書いても足りませんね。当たり前な話ですが。

 駅馬車のようなものが乗り合い馬車です。ただ、この世界は魔物も普通に居ますし、盗賊なんかも出たりします。弱い魔物なら人数さえいればなんとか出来ます。

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