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「まあ試験近いもんね。高校って進み早いし」
「ね、英語ヤバすぎるんだ。桐島君、よかったら教えてくれない?」
私はちょっとばかし良い雰囲気になったのをいいことに、強引にいってみた。
「え、うん。いいよ」
「ほんと?ありがと。じゃあ、今日の放課後とかは?」
今日は月曜日。週に一度、部活が休みの日だ。こういうチャンスは活かさないとダメだと、この前陽子に借りた少女マンガに書いてあった。
私は三国志とか格闘ゲームが好きで、恋愛成分たっぷりで読んでるこっちが恥ずかしくなる甘々な少女マンガなんぞに興味はなかったが、最近は勉強のつもりで読むようになった。残念ながら髭の長いおっさんたちの戦や義の話は、恋する乙女の指南書にはならないのだ。
私のバイブル、もとい少女マンガはこう言っていた。「今は三顧の礼なんて甘っちょろいことを言っている場合ではない。一度で決めるのよ」と。
桐島君は悩んでいるらしく、「今日は、ちょっと。うーん」とつぶやいた。私と違って意味のない言葉を発しない桐島君にしては珍しい、独り言だった。
何か言いにくい用事でもあるのだろうかと勘繰っていると、桐島君は考えがまとまったらしく続きを話した。
「友達と試験勉強する約束してたんだけど、もし阿部さんが嫌じゃなかったら一緒にどう?その友達も英語が苦手なんだよね」
「ほんと?じゃあその友達が嫌じゃなかったら、是非ご一緒させていただきたいっす」
「うん、聞いてみるね。ダメとは言わないと思うけど」
私はお願いしますと手を合わせながらも、心の中では握りこぶしをつくりガッツポーズをしていた。