焼き尽くす息
朝が来た。
体がだるい。はぁ、行きたくない。今日は残業のある日だ。休みたい…。せめて、後五分……。
俺は、目覚まし時計が鳴る1分前に目が覚めるという特異体質がある。
これは、目覚ましが鳴ってビックリするというビックリを回避できる素晴らしい能力である。
取りあえず、枕元にある1分後に鳴るであろう目覚まし時計の解除ボタンを押す。
解除ボタンを、ボタンを、あれ?
目覚ましがない、目を開けてみると、そこは俺の部屋ではなかった。
「知らない天井だ。」
ちょっと言ってみたかった台詞を言ってみる。
隣を見ると、毛布を蹴飛ばし、お腹を出して、ベッドからずり落ちそうになっている少女がいた。
「知らない美少女だ。」
いや待て待て。
落ち着け。もちつけ。
お餅が食べたい。
お餅はおしることお雑煮どっち派?
もちろん、どっちも派だ。
よしよし、落ち着いてきた。いつもの俺だ。
「そっか、夢じゃなかったんだなぁ……。」
思えば昨日という一日はとんでもない一日だった気がする。
朝起きて、夕方5時まで働いて、コンビニで飯を買って、気付いたら砂漠の真ん中にいて、竜になって、空飛んで、バンダナ男に助けられ、じじいと会って、じじいが美少女になって、酒を飲んで、寝た。
そりゃあだるいだろうよ。
それでも、何とか体を起こして、ルナに布団をかけ直してあげた。
それにしても、気持ちよさそうに寝ている。
とんでもなく無防備だが、これで本当に頼りになるんだろうか。
ほっぺたをプニプニしてみた。
にゅふふ~と嬉しそうな顔で寝ておる。
全く起きる気配がなかった。
とてもじゃないが、あの圧倒的な存在感を漂わせていた老人と同一人物とは思えない。
ジジイだったってとこだけ実は夢でしたみたいなことなら最高なんだけどなぁ…。
「はぁ…」とため息を漏らし、再び自分のベッドに座った。
さて、ルナが起きるまで暇だな。
そう思った俺は、昨日取得したスキルを試しに使ってみることにした。
まだ、使っていなかったスキルが気になったのだ。
『焼き尽くす息』だ。
スキルの説明書きには、なんかまあまあ恐ろしいことが書いてあった気がするから、軽くにしておこう。
誕生日にロウソクの刺さったケーキ。それを吹き消すぐらいの気持ちで行こう。
そういえば誕生日にロウソク刺さったケーキなんて、もう5年位食べてないな。
はぁ。
まぁいいや、やってみよう。
精神を集中する。
胸の奥がチリチリしてきた。おっできそうできそう。あっそれっ!あっそれっ!誕生日おめでと~!ふぅーー。
「ごぁあぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
口から凄いのが出た。
軽い気持ちだった。
もう少し時と場所を考えるべきだった。
寝起きで頭がぼーっとしていたのだ。
部屋の壁に直径3メートル位の大穴が開いた。
焼けたとか、燃えたとかではない。消えたというのが正しいだろう。
…ビックリした。
ちょっと漏らしたかもしれない。
火遊びして、おねしょとか……。もう31歳なのに……。ぐすん。
慌てて、上着のポケットに入ってるステータスカードを見てみる。
こう書いてあった。
【『焼き尽くす息』 火の息の最上位。何もかも焼き尽くす。跡形も残らない。】
馬鹿ッ!俺のバカ!どう考えてもやばいやつじゃん!
俺は、このスキルを封印すると誓った。
ルナは、というと、俺が火を噴いた瞬間に、即座に飛び起き俺から離れていた。
物凄い反応速度だった。
そして、眠そうな顔をして、俺を見て、そして壁に近づき、また俺を見た。
「ごめんなさい!!昨日覚えたスキル本当に使えるか試してみたくて・・・。」
「軽い気持ちで、いや、実際軽くほんとにちょっと、息を吹きかけただけなんです!」
「軽く……。」
ルナは、目を見開き言った。
「ふぅー、驚いたな。こいつを見ろ、焼け跡がない。」
「お前の軽く吹きかけた息とやらは、レッドドラゴンの『業火の息』以上だ!」
そうなんだ…、確かに火の息の最上位って、書いている。
「驚かせて、ごめんなさい……。」
そういうと、ルナは、笑いながら、「寝てるときは勘弁してくれ。」といった。
ルナ、優しいな。
俺のせいで死にかけたっていうのに…。
これからは本当に気を付けないといけないな。
「ていうか、ミズキ、お前今のそんなに簡単にできることなのか?何かのマジックアイテムを使った…感じでもなさそうだな。それとも竜人化に関係…。」
ルナは、色々呟いた後、最後に俺に「お前は一体何者だ?」と笑いながら言ってきた。
俺は、自己紹介?も兼ねて名刺 (ステータスカード)を一枚ルナに上げると、それを見た後に「めちゃくちゃなやつだな!お前!」と言われた。
宿屋の主人には、ルナに言われた通り金貨3枚を差し出した。
お金があってよかった……。
そして、俺たちは、一階で朝食を取り、昨日話した通り、まず商館へ向かった。