第40話 ぐるぐると、巡る気持ち
日も傾き始め、私は海での遊びもそろそろ切り上げようかという頃、私を呼ぶ声がした。
「誰だろう、二人とも、ちょうど良いし私は先上がってるね?」
「あ、まって、なら私も出る」
「流石に1人だけは残りませんよ、私も出ますー!」
わざわざみんな上がらなくてもいいのに……。
泳いだり歩いたりしながら、砂浜の方へと近づくと、声の主の姿が分かった。
「——多賀先輩!」
私は浅瀬を歩いていたけど、少しでも早く近づこうと駆け出した。
「ああもう、そんなに嬉しそうな声出しちゃって」
「私の思いはやっぱり叶いませんかね」
「……私『達』の思いね」
後ろで2人がそんなことを言う。……少し悪い気がしてしまうのはなぜだろう。
「すまないね、遊んでいるところだったようだけど声を掛けてしまって」
いいんですよ!そんなこと気にしなくて!
「だ……、大丈夫です」
あれ、思った通りに話せてない。
もっと全然大丈夫!って感じで返したかったのに。
「いやまあ、用事はすぐ済むんだ。今日の夜、弟さんについて説明するといっていたが、直接佐々木さんから聞いたらしいね?」
「あ、はい」
「なので、説明はなくてもいいかな?」
え……。
「はい……」
「すまないね、ありがとう。それじゃああと二日だが、楽しんでね」
「あ……」
そう言うと多賀先輩は去き、私は消え入りそうな声を一瞬出すのが精一杯だった。
後ろから、遅れて近づく2人の足音がザバザバと聞こえてくる。
「理香何やってんの!」
私は振り向いて咲恵の方を見て。
「もっと引き留めたりしなかったの?……っていうか副会長何しに来たの?」
うん……、そうだよね。なんでもっと言いたこといったりできなかったんだろう。
「わからない……。先輩、なんだか急いでそうだったからかな……?とりあえず、説明はもういらないよねってことが言いたかったみたいだけど」
「理香先輩、それにいいって言っちゃったんですか?」
「う、うん……」
だって、先輩のお願いだし。
「説明してもらう機会でも、話が出来るのに……。言われたままにいいって答えちゃうなんて、惚れた弱みかな?」
「ちょっ……、咲恵!そんなんじゃ無いってば!」
……説得力ないよね。
うん、指摘されて私もそうなんだろうなって、思ったわよ。でも。
「自分で言う分にはいいけど、指摘されてそうだと気づくと、さすがに恥ずかしいわね」
「いまだにそんなことを言ってるんですか先輩。そんな調子だと私が理香先輩のことを本気で奪いに行きますよ」
綾ちゃん、好きだって言ったら全力で攻めてくるつもりなの?
そうだよね、私にもそれくらいの思い切りと積極性があればいいのよね。
あの時、あんなに思い切り理久に先輩の心を落とすと言った私の勢いはどこに行ってしまったんだろう。
もしかして、今はもうそんなに先輩のことが気になってないのかな?
「……ねえ、私って今も先輩が好きだと思う?」
「ねぇ、急に何言い出してるのか知らないけど、理香を好きな私達にそれを聞いて、肯定されると思う?」
……そりゃそうよね。
「でも、私は理香が好きなのとは別に、理香のことを応援したいから」
「ありがとう咲恵っ……!ということは……、私はまだ先輩が気になってる?私はさっきなんで積極的に先輩を引き留められなかった?」
咲恵の隣では『私は応援しませんけどね』と言っているかのように、顔を膨らませた綾ちゃんがいるけど、気づかなかったことにしよう。
「……う~ん。さっきのはどっちとも言えるよね……。もう興味ないのかもしれないし、気になりすぎて緊張していたのかもしれない。もしくは『副会長の望む通りに』って理香が思ったのかもしれない」
「私が思ったら、私はわかるよね」
「自分の気持ちが全部分かったら、誰も悩んだりなんてしないよ。特に恋はね」
恋……。そういえば、私は『気になる』とかそういう言い方してたけど、『好き』とか『恋してる』とかあまり自分から言ってなかったかもしれない。
理久に宣言したときには恋って明言したけど、勢いに任せてそう思っただけだったり?
「私、もしかして人として多賀先輩が気になってただけなのかな。だって、あの頃ってまだ多賀先輩にそういう気持ちを持つのに抵抗してたもの」
……それを受け入れていった結果、女の子になりきっていったのは間違いないけど。
じゃあ恋ってどんな気持ち?私が恋と思っていたのと同じ?
「そのあと理久には『大好き!胸がぎゅうってしてる、これが恋?』とか言ったけど、理久は私がそう思うならそうとしか言ってなかったし、勘違いの可能性も……」
2人は私の思いを黙って聞いてくれている。
でも、その表情は少し険しいように見える。私は2人に問いかけた。
「……なんだか辛そうだけど、どうしたの?」
問われた咲恵はふっと表情を緩めた。
「理香が、どれだけ副会長のことを想っているのかが辛いほど分かって、苦しいのよ」
「……そうですよ。さっき理香先輩に好きって言ったばかりの私達に、そんなに先輩の想いを語られて、私達どうしたらいいんですか」
咲恵は柔らかな表情で私に教えてくれたけど、綾ちゃんは少し涙ぐんでいる。
どういうこと?
「理香先輩、私の考えなんですけどね?」
「ええ」
「人って、他の誰か1人のために、そんなに考えを巡らせることなんて簡単には出来ないと思うんですよ」
今の私のことを言ってるのかな。
「……つまり、理香先輩の中でそれだけ副会長の存在が大きいって、好きってことじゃないですか!?」
言葉の最後の方は涙声になっていた。
「私もそう思うよ、理香。そんなに気になってるなら、後悔しないように、ちゃんと告白し直した方がいいと思うよ」
「そう……、なのかな?」
2人はハッキリといってくるけど、私自身が納得できていない。
「きっとそうですよ。違ってもいいじゃないですか、違うのに副会長がOKしたらきっと嫌な気持ちになって、その時わかりますから」
「いやいや、それって手遅れじゃ?理香、それなら私達で手を打っておこうよ」
「咲恵、さっきと言ってることが違うじゃない……」
後悔しないように告白しろと言ったり、咲恵にしろと言ったり。
「そりゃそうよ。だって私達は理香に恋してるんだもの!」
「……私も、藤島先輩も、理香先輩のことを考えると頭がぐるぐるしちゃうってことですよ」




