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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第4章:立身出世編

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86:詫び入れ行脚



 『卵がこんなに…』とか、『甘いパンがこんなに…』とか、ルグは今朝もエコノミックカルチャーショックが止まらない様子。まぁガン無視だ。


「食い逃げした食堂と、果物パクった露店を全部憶えてるか?」

「街へ行けば分かると思います」

「シアは憶えてるの」

「なら詫び入れと金払いに行くか」

「あたしも行きたい! てか飛びたい!」

「イオリ私もー!」

「無理」

「「えーーー!」」


 そもそも飛べないから空を走ってるわけで、小脇に抱えておかないと落ちて死ぬ。

 俺の腕は二本しかないのだよ。


 空を見上げても「大きな鳥かな?」と思われる高度を走るので、もし落ちたらリアル肉塊になる。もう大惨事だ。


「ルグとシアだけず~る~い~」

「イオリすぺしゃるもしてくれなかった~~~」


 楽しみにしてたのかよ。


「ココアは休息日に服を仕上げる言うてたろ。スゲー待ち遠しいんだが?」

「むぅ」

「私は何もない!」

「手伝えし!」

「あの、意味が分からないんですが」

「シャラップ。お手」

「俺犬ではないんですが…」


 虎はネコ科か。犬人はお手するってことか?

 いや初見で「お手」とか言ったらぶん殴られるな。


「とりまスニーカーぼろぼろだからブーツはマストで」

「ん。帰って来たらファッションショーね」

「りょ。ユウトカノンはなんかするのか?」

「暇なので工房の裏庭で管を造ろうかと」

「私は残りの配管図を仕上げるよ」

「任せっきりでごめんな」

「気にしないでください。浄化施設は黒須さんじゃないと造形できません」

「役割分担だから気にしないで」


 頷きを返して書斎へ行き、金庫からユルグ硬貨をありったけ革袋に詰める。

 何気にルグのツナギ「良いな」と思いつつ玄関を出て、西広場工場の裏手へ。


「シアは俺の腕に座って首に腕を回す。ルグは…腕に掴まってろ」


 左腕にひょいとシアを抱え、こっちを向いてるルグに『背を向けろ』と言って後ろから胸に腕を回しツナギを掴んだ。


「ブーストで空へ高くジャンプするから掴まってろ。落ちたら死ぬぞ」


 シアが「こいつナニ言ってんだ?」みたいな顔をしてる。

 掛け値なしにカワイイんだが、エルフは幼児体形だから楽しくはない。


 魔孔を閉じたまま苦行のダブルブースト八割で地面を…蹴る!


「ひゅわ!?」「う‟っ!?」


 靴底に足場を創ってもうひと蹴り!


「ぬおっ!?」

「ふわぁ~~~! すごーーーい! 高い高いーーー♪」


 シアが他界他界しないようしっかり抱え、新しい足場を創って高空に静止。

 ルグは高所恐怖症か? シアがはしゃぎ終わるまで待ってやろう。


「さて、王都側からやっつけるぞ。王都でも食い逃げしたか?」

「初めてはウルヴァン領都なの。北門の近くだったの」


 乗り合い馬車を降りた街だな、オッケー。


「シア」

「なに?」

「どんどん速くなるから、無理になったら俺の首をつねって」

「うん、わかったの」

「ルグ」

「は、はい」

「耐えろ」

「が、頑張ります」


 高度が高くなりすぎると冬目前でクソ寒いので、左右の靴底に足場を創りクラウチングスタートっぽく前傾する。


 重力魔法のすごいところは、好きな形に創った足場を意思で制御できる点だ。

 例えば、「引っ張れ」と念じれば逆さになっても落下しないし、「反発しろ」と念じればロケットスタートを切れる。僅かでも重力に関係していれば自在だ。


「行くぞ」


ドンッ!


「「っ!?」」


 一歩ごとに加速度が増していき、三歩目ともなれば、ブレインブーストなしだと景色を楽しめる速度じゃなくなる。ここからは「反発するな」と念じ、ブースト筋力だけで走っていく。言うても余裕で時速三〇〇キロメートルを超えている。

 進行方向に四角推の風防を創っても、音速を超えると色々不都合が出ると判ったので、時速三〇〇キロを維持する感覚を掴むまでは苦労した。


 ヴォーリッツ王国では、辺境伯を除いた上級貴族家ほど領地が王都に近い。

 上級貴族家の領地に入ると街道が石敷きに変わるため、王都圏に入ったと判る。

 ライカの王都圏独占販売契約も、条項には〝石敷きの街道〟という言葉を使っている。


(王都が見えた。ってことはアレだな)


 ブースト率を下げると共に速度が落ちていき、ウルヴァン領都の上空で静止。

 どこに降りようかとテクテク歩き、北門から一番近い公園の敷地壁と樹木の間を選んで落下。


「「ひっ!?」」


 真下を見ながら視点を定めた位置に足場を創り、踏む瞬間に「ゆっくり沈め」と念じる。踏んだ足場はトランポリンのように沈み込み、衝撃がなくなったところで消して次の足場を創る。


「よっと」

「落ちた時はびっくりしたけど楽しかったの!」

「これがあと八回も…」


 両膝を地について項垂れるルグの後頭部をスパンと叩き、シアの案内で着いた先は果物露店。厳ついオッサンが果物屋ってのはイメージじゃない。


「ちょっといいか?」

「らっしゃい」

「客じゃないんだけど、後ろの二人に見覚えない?」

「……いや、知らない顔だ」


 七月後半に果物を盗まれなかったかと問えば、『バナナひと枝を盗まれた』と。

 房じゃなく?と思いつつ露店を見やれば、いくつもの房バナナをつけた枝が吊るされている。


(へぇ~、バナナってこんな感じかあ。二人ならひと枝で三日はもつな)

「思い出した! お前! バナナ盗んだ獣人だな!」

「キレられても仕方ないが落ち着いてくれ。ルグ、シア」

「盗んでしまい申し訳ありませんでした!」

「ごめんなさいなの!」


 ルグとシアは両膝を地について胸の前で手を組み、店主を見上げた。


「犯罪奴隷に落ちてた二人を俺が買ったんだ。詫び入れと賠償金を払いに来た」

「ああ、そういうことか」


 ホランドン錬金工房潰しは、二〇〇名を超える軍が出張った二ノ竜事案だったため、噂はかなり拡散している。店主に掻い摘んでルグとシアが陥った境遇を話し聞かせると、顰め面ながら『そういうことなら仕方ない』と飲み込んでくれた。


「賠償金はキリよく二万ユルグを払う」

「…いいのか?」

「受け取ってくれ。二人が働いて俺に返済するだけだ」

「兄さん何者だ?」

「前後したが、俺はこういう者でね」


 シルバラッド錬金工房 主幹錬金術師肩書きの名刺を渡す。


「シルバラッドと言えば、国随一の錬金術師だよな?」

「ああ、年内に叙爵されてシュミッツ男爵代官に就任する」

「そ、そうか、分かった。二人の謝罪を受け入れる」

「感謝する」

「ありがとうございます!」

「ありがとうなの!」


 こうして九箇所の賠償先を巡り、夕陽に照らされるアデーレへ戻った。


「クロス様、ありがとうございました」

「クロス様、ありがとうなの」

「ったく、奴隷根性が抜けてねえな? イオリでいい」

「イオリさん、懸命に働いてお返しします」

「シアも頑張って働くの」

「そんなに重く考えることじゃねえんだがな」


 帳簿上は八月一日付で雇用したことにし、毎月末の給料三〇万から一人二〇万、二人分で四〇万ユルグを差っ引いて支給する。

 俺への負債総額三〇二万なんぞ、来年五月で完済だ。

 うちで暮らす間は生活費を払う必要もないので、月に十万は好きにすればいい。

 先々に兄妹で暮らすとしても、毎月六〇万あれば問題ないだろう。


「俺たちが初めて仕事に就いたのは、去年の九月一日だ」

「「えっ!?」」

「一年足らずだが、やれることは全部やってきたと自信を持って言える。ルグとシアもやれることを全部やれ。判らないことは知ってる奴に聞けばいい。出来ないことは出来る奴に習えばいい。大変だが簡単だ。気張って幸せになれ」

「はい!」「はいなの!」


 出来るようになったら、ユルグじゃなくシリンにしようと思いつつ家に入った。



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