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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第2章:新生活編

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34/61

33:ジャン事案



 アデーレで最高峰の鐘塔と同等に高い建物は、銀の車輪という名の高級宿。


 言うても八階建てなのだが天井は高く、一般的な集合住宅だと五階建てが精々なので、ワンフロアぶち抜きのペントハウスからはアデーレを見渡せる。


「ここずっと気になってたけど高級感すごーい♪」

「見て見てココアちゃん! ラウンジがあるよ!」

「ほんとだ。ケーキあるかな?」

「あるから行ってきていいぞ。全部ルーカスのオゴリだ」

「ま!?」

「ま」(サムアップ)

「カノン行くぞー!」

「おー!」

「黒須さん、これ何事ですか?」

「後で話すからお前も行ってこい」

「はあ、ではお言葉に甘えて」


 ルーカス曰く、宿の従業員も信用できない。

ってことなので、事情を話すのはペントハウスに入ってからだ。


 目立って上等の心意気で防寒着を脱ぎ、オレンジ・ホワイト・ネイビーのスリートーンパーカーとアッシュブルーのカーゴパンツを晒しフロントへ。

この恰好は金持ちに見えるらしい。まぁこっちの服装からして分からんこともない。


「銀の車輪へようこそお越しくださいました」

「総支配人にこの書状を今すぐ読むよう伝えてほしいんだけど」

「畏まりました」


 総支配人はルーカスの親戚だ。

代官から何から、アデーレの要職に就いてる奴はシルバラッドとその傍流ばかりらしい。

戦士と魔術師ギルド以外のギルド支部長も縁戚というから、犯罪組織にルーカスたちの面が割れてるという話の信憑性は高い。


 五分ほど待ったところで、目鼻立ちがルーカスに似ている総支配人が奥から出てきた。

 従弟だから似てても不思議じゃない。


「ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ」

「どうも」


 フロント脇の通路奥にある応接室へ案内され、ペントハウスの鍵を渡された。


「食事は五時、十三時、二十時に、茶と菓子は九時と十六時に提供します。料理や飲み物など含め、要望があれば何でも」


 ユウトも二十歳になり最近は酒量が増えたので、白と赤のレギュラーボトルを夜に一本ずつ。

 果実水と水を小樽で冷蔵魔導器ごと搬入してほしい。

 料理は俺が三人前盛り、ココアが二人前盛り、ユウトとカノンは一人前半盛り。

 リリは朝夕の二食で並盛り。

 肉の脂身は要らない。

 洗って水切りした生葉野菜も食いたい。


「承知しました。問題ありません」

「あと、バーラウンジのカードを二枚ほしいっす」

「すぐにお持ちします」


 戻って来た総支配人から代金後払いカードを受け取り、十八時ちょい過ぎにリリが来ることを伝えて、中庭に面したバーラウンジへ向かった。


 デコレーションケーキはないが、フルーツタルトやパウンドケーキに添える生クリームはある。

 ラム、ジン、ウィスキー、アクアヴィット、バーボンといった蒸留酒も豊富にある。

 バーラウンジはがっつりリサーチ済みだ。


「ねえイオくん――」

「今はケーキの時間。センパイはちゃんと話してくれる」

「あ、うん、そうだよね」

「ココア」

「ん?」

「お前ほんとイイ女」

「もっと褒めろやー♪」

「毎日惚れてる。ココアとリリがいなくなったら生きる意味もなくなる」

「くふふ♪ タルト美味しいからあーんして♥」

「あーむ。(む、カスタードのクオリティが高え)」


 あと二時間もすれば同じような物が運ばれてくるので、ほどほどにしてバーラウンジを出た。

 奥まった場所には、クラシック映画で観たレトロなエレベーターがある。

 鐵の格子扉を自分で開け閉めし、ダイヤルを回して行先階を選ぶ。


 目立たない場所にあるこれ、八階ペントハウス専用だったりする。


チーン!


 到着音がまたレトロで良いね。


「広っ!?」

「すごい!」

「透明なガラス窓は久しぶりですね」

「ここは領主専用らしいからな。七階を貸し切った設定だからよろ」

「「「あ~~~」」」


 広いリビング。高そうな蒸留酒が並ぶバーカウンター付きダイニングルーム。

 マスターベッドルームと四つのツインベッドルーム。

 展望風呂と普通の風呂。

 偉そうな執務室と、デスクが五つある広い執務室。そんな間取り。


 家具も上等な物ばかりで、偉そうな執務室の一画には王家と辺境伯家の紋章旗が飾ってある。

 まぁイチイチ贅沢なペントハウスだ。


「そろそろ趣旨説明を始めるぞー」

「はーい」


 イイ女ココアは当然の如く俺の膝に座るが、ユウトとカノンは「なぜこの部屋?」と疑問顔でツインベッドルームの一つに入って来た。


「あれが双子の叔父ことジャンが働いてる工場だ」

「あー、そゆこと」

「あの子たちのことは二十日頃じゃないの?」

「さっき商工業者ギルドへ行ったのはもしかして?」

「いい勘してんなユウト。鉱石購入旅行は延期だ」

「あぁやっぱり……なぜ双子案件を前倒しに?」

「実は双子案件じゃない」


 金属横流し疑惑の話を三人とも知らないので、記憶の引き出しを開けまくって説明していく。


 ジャンの嫌疑がほぼ確定したのは、諜報部隊の半壊撤退事案がきっかけ。

 中々に賢い領主は、真っ先に内通者の存在を疑った。

 そこで闇系統魔術に長けた迷宮探索者に大金を払い、領主邸内の全員に【告白】術式をかけた。


 結果、縁故採用で十年来の若手執事が内通者だと判明し、襲撃部隊が犯罪組織の構成員だったことや、精錬した鉄をジャンが横流ししていることも判明した。


 若手執事は金で買収されたらしく、俺とユウトもやられた【誓約の楔】という奴隷紋っぽい術式をかけられ、二重スパイとして今も執事をやっている。


「でだ、くっそ重い鉄のインゴッドをどうやって運んでると思う?」

「マジックバッグ」

「くっ!」

「あ、サクッと当ててごめんねセンパイ」


 魔法少女ヲタにソッコーで当てられちょっと悲しいが、上手いことやれば空間拡張術式をコピーできる。

 おまけに一人二百万シリンの報奨金つき。


「二百万…」


 貧乏ユウトがぼそっと呟いた。

 自力で服を買えるから頑張れや。


「空間拡張なんてあるんだね」

「あった、の方が正しい。何百年も前に使える奴がいなくなったんだと。今じゃどの系統だったかも謎らしくてな」


 空間拡張バッグは、ルベリオン帝国が一つか二つ持っていると噂されている。

 旧ルベリオン王国が大陸西岸一帯を統一したのは三百年近く前で、帝国戦史を研究している学術者が噂の出元だ。


 初期の電光石火も斯くやの戦役を考察していくと、兵站の物量と速さがあり得ないそうだ。

 ウェルニア聖皇国も持っているとの噂があり、世界最大最古の宗教国家がルベリオンに肩入れし、大陸西方平定を実現したとか何とか。


 ともあれ、ジャンと犯罪組織を一網打尽にすれば、双子案件も片付くので一石二鳥という話だ。


「なぜ両者の接触が判明したんです?」

「子供が何人かジャンの工場に入って行ったんだと」

「それはまた、時代劇のような手口ですね」


 俺らからすればそう思えるが、こっちの子供にしてみれば百ユルグでも大金だ。

 ルーカスが「よく考えたもんだ」みたいなことを言ってたから、こっちでは斬新な手口なんだろう。


「ねえセンパイ、そうゆうのって夜やるんじゃない?」

「俺も思ったけど、夜はないってさ」


 工業街の工場は日没前に操業を停止し、労働者は家に帰る。

 何しろ魔灯と呼ばれる照明設備は高価な魔導器しかなく、魔導器は魔力源の魔石を交換するか、冗談みたいに高価な魔晶と呼ばれる魔力源に、魔術師を雇って魔力充填をしなければならない。

 そんなことをすれば逆に赤字を垂れ流す。


 要するに、日没後の工業街はゴーストタウン状態で、更に工業街の周辺には工房街が軒を並べている。

 工房は親方と家族、弟子、独身職人の住居が二階や地下や庭にあるため、夜の工業街に出入りしていると人目についてしまうわけだ。


 それもあって、ルーカスは空間拡張バッグを使っていると確信した。

 ジャンが働く工場は監視されており、出荷で工場から出てくる馬車にも不審な点はない。


「状況は解かりましたが、実効的な作戦は決まっているんですか?」

「あの工場の右端、屋根が一段低いだろ?」

「低いですね」

「精錬したインゴットの倉庫になってる。扉は特注の鍵付きだ」


 十中八九、犯罪組織の構成員はジャンの手引きで倉庫に入って鉄塊をバッグに入れている。

 俺たちは交代で倉庫の扉を見張り、ジャンと不審者が現れ扉に近づいたら動画を撮る。

 それを物証としてジャンの容疑を立証する。


 動画撮影を始めると同時に俺は二階へ走る。

 二階にはアデーレ警備隊二十名が待機している。

 というか、装備を詰めた鞄を持つ一張羅姿の警備兵たちが、団体客として一番安い二階の部屋にチェックインしている最中だ。


「意外に周到ですね」

「プランナーが俺だったりする」


 三人が納得したころで順番を決め、今日はないだろうが見張りを始めた。



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