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意外とイケてる錬金パーティー  作者: TAIRA
第1章:出逢い編

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14/61

【閑話】リリの昼休み



 寒くなるほど仕事が減っていく戦士ギルドのお昼時。


「リリアーナ」

「あ、シア。なんだか久しぶり?」

「ふふ、そうね。お昼は済ませたのかしら」

「まだ」

「一緒に如何?」

「行く!」


 同僚アナスタシアの誘いに、リリはズバッと手を挙げて一も二もなく同行を宣言した。


 アナスタシア・シルバラッド――アデーレ代官ラシンド・シルバラッド男爵の次女にして、美食姫の異名で知られるご令嬢。


 木っ端貴族の側室や、いつ死んでもおかしくない大物貴族の妾になるくらいなら、平民として好きに生きてやるわと、戦士ギルド支部長の秘書職に就いた。


 次女とはいえども、そこは男爵代官のご令嬢で、英雄ルーカスの姪というステータスがある。

 アナスタシアの食事に同行すると、美味しい料理をタダで食べられる確率がものすごく高いのである。



リンリン♪


「混んでいるわね」

「ここが空いてる日ってないと思う」

「そう?」

「初めてなの?」

「独りで入るような店構えではないもの」

「そうだね(私はお値段的に入れないよ?)」


 アデーレ観光案内所や高級ホテル銀の車輪が、観光客にお勧めする程のレストラン。

 店名はイヴサントス。

 アデーレ生まれの王宮料理人サントスが、王宮給仕侍女イヴと結婚し、半年ほど前に帰郷して開いた美食の館。


「ようこそお越しくださいましたお客様。不躾ながら、アナスタシア・シルバラッド様とお見受けいたします」

「よくご存じですこと」

「畏れ入ります。よろしければ、奥の個室は如何でございましょう」

「よろしいの?」

「もちろんでございます。ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」


 レストランが彼女を贔屓する理由は他にもある。


 美食姫アナスタシアが「料理はもちろんサービスも良い」と口にすれば、シルバラッド男爵家の陪臣家や代官府の高級官吏、ギルド幹部職員といった、筋と払いの良い連中が固定客として付くからである。


「お昼のコースでよろしくて?」

「うん♪」

「私は軽めの赤をグラスで。彼女には果実水をお願いするわ」

「畏まりました」


 イヴサントスのランチコースは、アミューズ・オードブル・スープ・選べるメイン料理・選べるデザートの五品。


 お値段は二万ユルグ。

 ドリンクを頼めば二万四千ユルグはいく。

 シリンなら八千ほど。


 ディナーならばアミューズ・オードブル・スープ・魚料理・ソルベ・肉料理・チーズ・選べるデザートの八品になる。


 リリは「私幸せです!」といった表情で、アナスタシアのテーブルマナーを真似るようにアミューズを食べていく。


「どれも美味しい♪」

「冬のアデーレは食材が乏しくなるけれど、南方から入れているみたいね」


 食事はオードブル、スープ、選べるメインへと進み、リリはジビエを、アナスタシアは南海直送の白身魚を選び、白ワインをグラスで頼んだ。


「愛しの彼とはどうなのかしら」

「どんどん好きになる。イオリも愛してくれるから幸せ♥」

「もう一人いるのよね?」

「ココアとも姉妹みたいに仲良しだよ」

「珍しいことね」

「珍しいかな?」


 カトラリーを置いてナプキンで唇を拭ったアナスタシアは、小さく頷きながら口を開く。


「貴女の彼、叔父上のお話しを伝え聞くだけでも素敵だもの」

「えへへ♪」

「夜も逞しくて巧いとエシルから聞いたわ」

「もぉ、エシルすぐ喋っちゃうんだからぁ」

「ココアさんと奪い合いにならないの?」

「なったことないよ。ココアが処女だからかも」

「え…?」


 アナスタシアにとって、リリの言葉は知識の外であった。

 貴族同士であれば、婚姻までに触れるのはエスコートされる時くらい。

 それも手袋越しであり、例えダンスでも素肌が触れ合うことはない。


 しかし、平民にそのような格例はない。

 互いの心が求め合うままに結ばれる。

 アナスタシアに貴族籍を捨てる決心をさせた、大きな理由の一つでもある。


 焦がれるような恋をしてみたい。

 情欲のままに抱かれてみたい。

 一つのベッドで寝起きする日々を送りたい。


「イオリはすごーくエッチだけど、私たちのためにならないことは絶対しないの」

「…そう。会ってみたいわ」


 リリは思わず、アナスタシアの胸に視線を落とした。

 そして『うん、大丈夫そう』と、すごく失礼なことを心中で呟く。

 イオリが知ればツッコミ必至である。

 リリやココアが言う程おっぱい星人ではない、と本人は錯覚している。


(でも顔とお尻は好きそうなんだよね……カワイイ系のプリケツ)


 リリはリリでもう手遅れのようである。


「何を考えてるのかしら?」

「ん? なにも考えてないよ? シアは好きな人いないの?」


 アナスタシアは手に取ったグラスを見つめてから、こくりと喉を鳴らした。


「話したことはないけれど、胸の高鳴りを抑えられない人ならいるわ」

「わ♪ どんな人どんな人?」

「凛々しくて、背が高くて、逞しい人。でも笑うと可愛らしいの」

「イオリもそんな感じだよ! どこで会ったの?」

「会ってはいないわ。屋敷の前を駆ける姿を何度か見かけただけ」


 少し遠い目をするアナスタシアの表情を見たリリが、『もう落ちてるし!』と、ココアのような言葉を内心で叫んだ。ジャパンウイルスの増繁殖が著しい。


「それって、もう恋だと思うよ?」

「そうなのかしら…」

「私も一目惚れだったもん。会ったその日に抱かれたし」

「無理矢理、ではないのよね」

「違うよ。私から家に招いたの」

「意外に大胆ね」

「うん、言った後で恥ずかしくなった」(笑)


 イオリに見つめられると、今でもドキドキする。

 抱かれた夜のことを、何度も夢に見る。

 果てた後ではにかむ笑顔が、とても可愛くて愛おしい。


「私も、声をかけてみようかしら」

「それがいいよ!」

「でも最近は見かけないのよね…」


 リリの脳裏を何かがよぎった。何がよぎったのかは判然としない。


 アナスタシアが屋敷で見かけたということは、出勤する前か帰宅後。

 秘書は給金が高い分、支部長が帰るか帰っていいと言われるまで帰れない。

 ならば見かけていたのは朝だろう。

 彼女は身支度に時間がかかるだろうから、早朝と呼べる時間帯。


(あっ……はは……まさかだよね……)


 今度は鮮明によぎった。愛しくてたまらない人の顔が。


「そ、その人ってさ、どんな容姿?」

「最初に目を惹かれたのは、不思議で美しい髪色。切れ長な目、変に高くない整った鼻、薄い唇。屋敷の門番に向けた笑顔が、とても可愛らしかった」


 両手で顔を覆ったリリが天井を仰いだ。

 心中で『イオリィィィィィィィィィィぬあっ!』と絶叫しながら。


「どうしたの? 大丈夫?」

「なんでもないよっ! 超なんでもないからっ!」

「そう、ならいいけれど」


コンコンコン


「失礼いたします。デザートをお持ちしました」

「美しいわね。料理も素晴らしいものだったわ」

「ありがとうございます。こちらは料理長からでございます」


 二つ折りにされた上質な紙を開くと、「初来店のお礼に代金は不要です。またのお越しをお待ちしております」と書かれてあった。

 アナスタシアは給仕に目礼を返して微笑み、優しい甘さのデザートを堪能してイブサントスを後にした。


 その夜――


「ただいま」

「お疲れさん。晩メシ出来てるぞ」

「あのねイオリ」

「ん?」

「朝の鍛錬で外に出るの禁止」

「え?」

「っていうか外に出るの禁止!」

「いやいやいや、無茶言うなよ。いったいどうしたんだ」

「リリどうしたの?」

「朝走ってるイオリを見て好きになった人がいる…たぶん他にもいる…」

「センパイ、とりま正座しよっか」

「なぜ!?」


 この日の理不尽な説教を境に、イオリは走れる庭付き一戸建てが欲しくなった。



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