01:キュンキュンくる
眩暈がするくらい雄大な大自然。
いや眩暈は単純に寝不足かもしれん。
やたらとんがった高い山は、日本人にとって馴染みがない。
距離的に頂上が霞んで見えねえってどういうこと。
澄みきった川は「イケス?」と思うくらい魚がうじゃうじゃ泳いでる。
言うほど澄みきってないか。
なんにしろ、
「あるのな、異世界」
ま、まさか異世界に転移した!? なんて言わない。
ち、力が漲る…これがチート!? とかもない。
俺はフレキシブルだからありのままを受け入れる。
ぶっちゃけ、分からないことをアレコレ考えるのがめんどい。
めんどいんだけど…
「なぜ俺一人? あいつらどこ?」
友達以上、彼女未満の心愛とメシ食ってたら、いきなり「ヒマだしなんちゃって合コンしよ!」と言い出した。
心愛が高校ん時のイケメン友達と連絡をとり、イケメンは女友達を連れて居酒屋へやってきた。
ところがどっこいしょ。
その女は花音で、俺の元カノというオチ。
思わずイケメンを殴り倒してやろうかと思った。
なにせ心愛が彼女未満で止まってるのは、俺ん家にきた時に俺と花音が映ったポラロイド写真を発掘したから。
チューしてたらそりゃキレるって話だわ。
酒も話も進まない微妙すぎる空気に耐えられなかったのか、イケメンことユウト君は自分語りを始めた。
誰でも知ってる一流大学の理工学部生。
誰でも知ってる一流企業の創業者一族。
誰でも知ってる都心のタワマンで独り暮らし。
誰でも知ってる跳ね馬エンブレムの車に乗ってる。
などなど。
シンプルにウッゼって感じだったが、あれは花音へのアピールだな。
スポーツジムで知り合ったらしいが、社交ムーブで俺まで不幸にしやがった。
なにせ、花音が「やり直したい」と俺に連絡してきた直後だったから。
そんなこんなで盛り上がらないまま居酒屋を出て、ユウトが『知る人ぞ知る一流のバーに案内しますよ』と言い出して六本木方面へ。
バーがあるらしい裏路地に入ったところで、俺たちは青い光に飲み込まれた。
「異世界で逸れんのは正直キツイんだが……まぁ会えるだろ」
おもっきり遠くに飛ばされた可能性もあるが、そん時はそん時だ。
ちょっとバラけたくらいなら、今日明日で会えるはず。
それはなぜか。
「大きくも小さくもない街が見えているからさ。キラン!」(ユウトの真似)
さて、とりまネット小説のセオリー踏んでいこうか。
冒険者ギルドに登録して、薬草採取に行ったら貴族の令嬢が襲われてる的な。
言っててウケる。
「次の者! ん? 妙な恰好をしてるな?」
ほらね、言葉わかるし余裕余裕♪
「ジャパンっていう遠い国から来たもんでね。知ってる?」
「知らんな」
「だよな。東の果ての島国だし。でさ、入るのに金払えよ的な?」
「払いたなら受け取るが?」
「故郷の金しか持ってないから困ってるだけ」
「そういうことか。名簿に名を書くだけでいいぞ」
「良心的じゃん。いい人がいるいい国のいい街に来れてラッキーだわ」
「はっ、口の上手いヤツだ。まぁ精々楽しんでくれ」
「そうするよ」
それこそ貴族あたりと絡まなきゃ余裕な予感。文字も読めちゃうし。
えーと、イオリ・クロスと。外国人っぽく漢字も書いとこ。
黒須伊織。これでOK。
この街の規模が世の中的にどんなもんかはノーアイデアなものの、遠目に見た規模にしては人がめっちゃ多い。
ぶつからずに歩くのは無理だなコレ。
「おっとぉ」
早速ぶつかるのはお約束。
「悪ぃな兄さん」
「構わねえよ。あぁちょっといいか?」
「なんだ?」
「冒険者ギルドってどこ?」
「冒険者? 戦士ギルドのことか?」
冒険者はいないと。冒険したけりゃ勝手にしろってことか。
「それ、戦士ギルド」
「この大通りをまっすぐ行って、交差してる大通りを右だ」
「目印ある?」
「盾と剣の看板が吊るしてある」
「さんきゅー」
「いいってことよ」
やって来ました戦士ギルド。木造二階建てはイメージと違うがそこそこ広い。
酒場も併設してないけど、窓口嬢が美形ぞろいなのはテンプレ最高。
ヤバい迷う。どの子にしよう。エルフはいないっ!?
「ケ、ケモミミ白猫ちゃん! お、落ち着くんだ俺、ひっひっふぅ~。よし」
我に返って見回すと、いかにも戦士って装備のヤツはいない。
革鎧が何人かいるだけで、他は普段着にナイフか短い剣を持ってるだけ。
俺より若そうな奴も多いし、女剣士とかも見当たらない。
時間帯の問題って気がしなくもない。
そんな中、行列が一番長い窓口へ。
といっても五人だけだが、他の連中も目当ては俺と同じだろう。
純白の艶髪にぴこぴこ猫耳でカワイイ系。
弾けてボタンがぶっ飛ぶんじゃないかって勢いの巨乳。
地球ならロリ巨乳にゃんにゃんピックの金メダリストだ。
いやマジで可愛い。めっちゃ推せる。
「次の人どうぞ~」
「(語尾は普通か)やあ、毎日大変だね」
「はい?」
「いやほら、キミの窓口って並ぶ人多いでしょ」
「…やっぱりそう思う?」
無自覚ぅ~かよ! これも並ばれる理由の一つだな。
「思うね。可愛いすぎるのも善し悪しだな。で、新規登録したいんだけど」
「う、うん、えと、読み書きできる?」
「出来るね。それに書けばいい?」
「うん」
「書いたらまたキミの窓口に並んでいいかな?」
「ぇ…うん、いいよ」
「仕事増やしてごめんな。ありがと」
「そんなこと初めて言われたよ…」
やっば! あんだけ慣れてないとこっちがキュンキュンくる!
チラリと振り返ってみると、目が合った。
照れてる。可愛い。デレてる俺は五秒以内に首を吊るべきか。
でもなあ、白猫ちゃんが純粋すぎてちょっと罪悪感だ。
名前を聞いて、少し仲良くなるだけでヨシってことにしよう。
さてさて申し込み用紙はっと…
名はイオリ、家名はクロス、年齢は二十一歳、種族? 人間だよな。出身地はジャパン。得物は…なし。戦闘技術は合気柔術。特技…ブレイキン? パルクール? 分かってもらえる気がしねえがどっちも。
書き終えて顔を上げると、並んでるヤツ増えてるしー。
可愛い子の名前を聞くため行列に並ぶ俺、嫌いじゃない。
「次の人…ぁ」
「ただいま」
「お、お帰り? ふふっ、変なの」
「俺の気持ち的には変じゃないけどね。はい、お願い」
「う、うん、確認するね。えっ? 家名…お、お貴族様ですか?」
「違う違う。俺の故郷で家名は当たり前なの。さっきこの街に来たばっかでさ」
「そうなんだ。ジャパンって聞いたことない。遠い?」
「もう帰れないくらい遠いね」
「そんなに…寂しい?」
「今は平気。キミと出逢えたし。でも寂しくなる日がくるのかもな」
「…えと、申し込み書は大丈夫だよ。模擬戦を手配するから宿を教えて?」
「宿か……オススメある?」
「えっ? 精霊祭のついでに来たんじゃないの?」
「なにそれ」
文字どおり精霊に感謝しつつ、三日三晩ぶっとおしで飲み食い大騒ぎする祭りだと。
この辺ではここアデーレという街の精霊祭が最も盛大で、街中が人であふれてるのはそのせいらしい。
要するに…
「今からじゃ宿空いてないと思うよ?」
「おぅふ、いきなり野宿かよ。泣いていい?」
いやマジで泣ける。昼間でこの気温なら夜は冷える。
飲み食いがタダなら徹飲みこいて暖かい昼間に寝るってのもありだが、タダ酒なわけねえよなあ。
「えと、うちに、来る?」
「えっ? キミの家って意味?」
「うん。私の故郷も遠いし、イオリがいいなら、いいよ?」
白い天使だ……俺は魔男ならぬ間男かと。
「キミと出逢えて俺は本当にラッキーだ。泊めてくださいお願いします」
「うん、私はリリアーナ。もうすぐ終わるから待っててね」
すぐ後ろに並んでたヤツに鬼メンチを切られながら窓口を後にした。




