17*愛を伝えて
本日更新二回目です。
今回のお話が最終話になります。
「はじめまして。ニナの婚約者、ジュウと申します」
社交界で久しぶりの再会を果たした後。
その場はすぐにお開きになってしまったが後日、フローラはニナと婚約者に会うことになった。久しぶりに再会した友人はとても大人びていて、変わらず可愛らしさはあるものの、なんだか前より棘は増えたような気もする。最初に「あの時は本当に申し訳なかった」と謝罪から始まり、血まみれのフローラの姿が痛々しすぎて直視できなかったという話になった。今更ながら理解できるのでフローラはすぐに許した。
あの日以来ニナも屋敷から一歩も出られなかったようだ。大事な友人に傷を負わせてしまい、自分をひらすら憎み、苦しみながら生きてきた。そんな彼女を支えたのが彼だという。元々は屋敷の使用人だったようだが、献身的にニナを支えてきたようだ。
「ニナはずっと、あなたに謝りたいと言っていました」
素朴ながらも優しそうな好青年で、フローラは安心する。彼がいてくれたから、彼女は今まで元気に生きることができた。苦しいと思っていたのはフローラだけではなかった。ニナも一緒に苦しんでいたのだ。でもこれは、互いに伝えないないと分からないことで。和解できて、本当によかった。
「合わす顔がないとずっと落ち込んでいましたが、最近フローラさんのお話も聞いていて。隣にて相応しい人であろうと、美容や健康に気を遣うようになって」
「ちょっとジュウ……!」
恥ずかしいのか、ニナが肘でつつく。
フローラは自然に微笑んだ。
「ありがとう。ニナ」
「……こちらがありがとうよ。フローラ」
互いに何度も謝った。たくさん泣いた。そして今は、婚約した話で盛り上がる。ジュウもフローラが頑張っている話を聞いて決意してくれたのだという。
「僕が婚約すれば、ニナの勇気につながるかなと思って。タイミングも考えていたんです」
「……ジュウも、ありがとう」
「どういたしまして。君が笑顔になってくれて僕は嬉しいよ」
挨拶が終わるとジュウが席を外してくれる。
友人の時間を楽しんでね、と。
「で。あの男はどうなったの?」
ダニエルは、改めて罰を受けることになった。もう少しでフローラはさらに傷を負うことになったのだ。父が王族の力も借り、正式に処罰されることが決まった。それを聞いてニナは「清々したわ」と鼻で笑う。
「で。ルドルフとはどうなったのよ」
「…………どう、というのは」
「しらばっくれないで。あんな格好で抱き合うなんて」
「抱き合ってないわ……!」
「抱きしめたって聞いたわよ」
「だ、誰から」
「ルドルフから。吐かせた」
「ニナ……!」
顔から火が出そうだ。
あれは、気が動転して思わずああいう流れになっただけで。しどろもどろになりながら説明するが「まさか胸にある傷を見せようとするなんて……」と冷静に諭される。フローラは思わず顔を手で隠した。
「それだけ気を許せたのね」
「……そう、だと思うわ」
「え。好きなの?」
「え……。ええ……?」
よく分からない。よく分からないが。
これだけは言えるかもしれない。
「……私は、彼じゃないとだめかもしれないわ」
彼以外の男性と、あれ以上に心の奥を話せるだろうか。そして、受け止めてくれるだろうか。ルドルフだからだ。ルドルフでないと、無理な気がする。
「ふーん?」
ニナは意味深に相槌を打つ。
「な、なに?」
「別に。なんだか悔しくなっただけ」
「……。私にとってニナは、一番の友人よ」
「当然よね」
彼女は機嫌を直してくれた。
その後は思ったより慌ただしかった。
ルドルフは魔獣討伐の仕事に駆り出されるし、フローラは聖女の資格があるか、まず検査を行った。適正はあると出たことでその後はひたすら聖職の勉強を行い、力を上手く制御する方法を教わった。人前に出られるのか改めて問われたが、その時には迷いなく大丈夫であると伝えた。
ヨセフィーナが嫁いでから、正式に聖女として迎えられることが決まった。ちなみにこの国一の聖女である女性がジェームスの恋人であることは後に知る。女神と呼ばれるほどの人と縁を作っていたとは知らず、いとこながらに感心したものだ。
そして年月は経ち。
今日、ヨセフィーナは他国に嫁ぐ。
「お綺麗です。ヨセフィーナ様」
「最後までフローラに髪を綺麗にしてもらえて嬉しいな」
白いウエディングドレスを身に着けたヨセフィーナは本当に嬉しかった。今日で彼女の専属侍女は終わる。そして、明日から聖女としての仕事を本格的にスタートする予定だ。
ドレスに亀裂が走ったことを謝罪したが、彼女の専門針子のおかげで綺麗に直った。いつでもまた着てね、なんて言ってくれて、さすがはヨセフィーナだ。
「イクセル殿下と、お幸せに」
「ありがとう。彼はどうかな、フローラから見て」
「素敵な方だと思います」
これは本音だ。イクセルからヨセフィーナに内緒で贈り物をしたいと、彼の側近を通じて連絡をもらったことがある。そして彼女の好きな物をたくさん伝えた。後から聞いたが、イクセルは最初からヨセフィーナを気に入ったらしい。自分は無口だから、たくさん笑う彼女に惹かれたと。なかなかいい理由だと、フローラも認めたのだ。
「よかった。……フローラも、よかったよ。ニナと和解できて」
「はい。本当に」
今も定期的にお茶会を開いている。
昔より気兼ねない関係になってきた。
「フローラ。君も幸せになるんだよ」
「はい」
「……力強い返事で安心した。本当にありがとう」
「こちらこそ。……本当に、ありがとうございます」
「――で。ルドルフ。私に言いたいことがあるんだっけ?」
フローラが席を外している間に、ルドルフはヨセフィーナの前に来ていた。本来結婚式前に将来の夫となる人以外の男性が会うのはご法度だが、どうしても会いたいと願ったのだ。ヨセフィーナは分かっているのか、にやにやしている。
「……そんなににやにやされると言いづらいんですが」
「ジェームスに聞いたよ」
「あいつっ……!」
ちなみに報告に行くと爆笑された。「やっぱりじゃないか」と肩をばんばん叩いてきた。さすがに「うるせぇな」と言い返した。
「ちゃんと自分から言ったんだね」
「……後からバレる方が怖いと思ったので」
「なるほど。じゃあ聞かせてもらおうか」
ルドルフは一度深呼吸する。
そして言い切った。
「俺はフローラを、一生大切にしたいです」
「うん。具体的に言うと?」
「結婚したいと思っています」
「あれ。二人は恋人同士だったかな?」
「分かって言ってますよね?」
「はい続けて」
「っ。結婚を前提に、付き合いたいと」
「理由は? ぜひ聞きたいな」
ヨセフィーナが探るような目をする。
ずっと彼女を見てきた人だ。半端な理由じゃ許さないだろう。だからルドルフは言えるよう、何度も練習してきた。
「彼女は、周りが思っているより強い人間ではない。彼女が少しでも弱音を吐ける場所でありたいんです。それに、彼女が泣いているのを見て、俺が守りたいと思いました。俺だけが、守りたいって」
「なるほど。合格」
思わず安堵の息が出た。
「じゃあ友人誓約書出してくれる?」
「?」
言われるままに、ポケットから出して渡す。
するとヨセフィーナはそれを思い切り破った。
「!?」
「はい。これでいいね。フローラに伝えてあげて」
「……いいんですか?」
「元々彼女を守るための物だったからね。……でもこれからは、君が守るんでしょ?」
「はい」
「よし。じゃあ行ってこい」
「はい!」
ルドルフはその場から走り出す。
走りながら「ご結婚、本当におめでとうございます」と言えば「ありがとう。二人の幸せも、心から祈ってるよ」ヨセフィーナは手を振りながら伝えてくれた。
数年後。
フローラは聖女の一人として、聖歌隊に所属していた。歌で人を癒すことが得意であるので金糸雀の名は再度広まりつつある。魔獣から受けた傷も薄くさせるほどの聖力があるようで、ルドルフの傷も全部とは言わないが、少しずつ傷を減らすことができた。見目麗しいだけでなく笑顔がとても可愛らしいことから、男女共に人気が高いそうだ。
「ルドルフ? どうしたの?」
「……いや。またフローラがモテだしたなと」
「急に何の話? 関係ないわ。私はあなたと結婚しているもの」
魔獣討伐から帰宅してきたルドルフはぼろぼろだった。無理をするな体を大事にしろと伝えるものの、彼はどうしても狩りたい気持ちが抑えられないらしい。困った人だ。
手当てしようと近付くと彼から左手を取られる。
手の甲にキスされた。左薬指には指輪がある。
「そうだよな。フローラは俺の妻だ」
「先に手当てをさせて」
「終わったら愛を伝えても?」
「毎日伝えてくれているわ」
笑いながらそう言うが、ルドルフは顔を近付けてくる。
フローラはそれに応えた。
「フローラ。愛してる」
「……私もよ」
なかなか終わらない口付けに仕方ないと思いながらも応え続ける。結婚してからの方が互いの気持ちを素直に伝え合うようになった。愛しているなんて、結婚前はきっと恥ずかしくて言えなかったのに。今では毎日伝えても足りないくらいだ。
「そういえば今度じいさんがこっちに来るんだ」
「あら。結婚式ぶりね」
ルドルフの育ての親であるイーサンは、聞いていた通り少し偏屈な人だった。それでも、ルドルフに対して愛情があるのは一目瞭然で。フローラのことも娘同然で可愛がってくれている。
「メディティット殿から仲介に入るように頼まれてな」
「また喧嘩?」
「会えば喧嘩が絶えないらしい。ウルスラ婦人はそれも楽しんでいる様子だが」
「相変わらずなのね」
「一緒に来てもらえるか?」
「ええ、もちろん」
今や仕事も私生活も協力している。
ルドルフとフローラは互いに見つめ合った。ただ微笑んで愛を伝えられることが、本当に嬉しかった。
ここまで読んでくださりありがとうございました…!




