~夕編~
学校が終わり、校舎は静けさを纏っていた。
数少ない友人のくるみと一緒に帰ることになっているが、彼女は近々行われる合唱祭の実行委員の為仕事をしている。それはすぐに終わるとのことで、教室の一番窓側の席で待つことにした。
教室にはオレンジの光と、様々なものの影が写る。
この時間帯にしかない幻想的な空間。光と闇が現れる。
光ーそれは、太陽が放つ、空をも染めるオレンジ。
闇ーそれは、光が行き届かないブラック。
まるでこの世界ー。
まるでここに住まう人々ー。
机に伏し、顔を外へ向ける。
空に浮かぶ色たち(けしき)は朝とは真逆で。
星が見える位置も真逆で。
朝と夕方は、同じようで違う。それは色の違いなどではなく、理科的なことでもない。
空は姿を変える。一日の中で幾重にも。
だから、好きだ。そうやって何度も変われるから。
この世界に住まうひとりである自分とは違って、独創的で、かつ合理的。
『美しい』と人は言うが、それは我々人間が知っている一番の表現方法だからである。私は、そう思っている。
『空』は、世界は、そんな言葉では到底表しきれない。我々が口にすることが叶わない何かがある。そんな、気がする。
どんどん日が沈んで行く。どんどん空が紫色になって行く。
ーもうすぐ、夜が訪れる。
ガラガラガラ。
大きな音を立てて前の扉が開いた。中に彼女が入ってくる。
ふっと外を見た後、私は椅子から立ち上がった。
いつもの分かれ道で彼女と別れ、駅へ向かう。
彼女は学校の近くのマンションで一人暮らしをしている。その近くまで、私と帰っている。
くるみは、普段、いや、基本的に本を読んでいる。他人と会話らしい会話をしている所を私は見たことがない。しかし、私と居るときの彼女は、それがまるで嘘のようにペラペラと、積極的に話しかけてくる。それが何故か嬉しくて、楽しくて、同じように私もペラペラと話す。
車道を車が走る。歩道を人が歩き、自転車がその間を縫うように通る。そんな忙しい歩道を繋ぐ橋の上で、ふと、空を見上げる。
既に、空の半分が紫だった。何だか、胸に寂しさが込み上げてくる。
ー今日も半分以上が過ぎたのか。
ー明日に近づいているのか。
時が、進んでいる。それは良いことだ。だが、言ってしまえば、それは『生きれる時間』を失っているということになる。
まだまだ、気にする年ではないのかもしれない。しかし、妙に気になる。それはもう、仕方の無いことだ。
上へと手を伸ばし、何度も握ってみせる。
こんなに近くに感じるのに。空が掴めない。
昔、読んでいた本の誰がが「空を掴んでみたいな」なんて言っていた。
そんな事、出来るはずもないのに。
空とは、地上に居て見上げた時、そこに見えるものらしい。
なんて曖昧なことか。
そう思うと、なんだか空が遠いように感じる。
手を下ろし、下に置いていた鞄を持つ。
オレンジ色の空に背を向け、私は早足で歩道橋の階段を駆け下りた。
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