憐れなる狐は熊に追われる
「俺が何したって言うんだぁぁぁ!!」
崩れかけの茶色い町中を、青年が一人、泣き叫びながら逃げていた。
そんな青年を追っているのは、二匹の熊。
否、見た者の殆どがツキノワグマかグリズリーを連想するようなマスクを着けた二人組の屈強な男達だった。
「待て狐野郎!ウチの育ててる野菜食っときながら無事でいれると思うんじゃねぇぞ!」
「あの空き地で育ててたヤツですか!?ごめんなさい謝るので許してください!!」
「謝って済むなら俺ら皆こんなところにいねぇぞボケェェェ!!」
まさに火に油。
青年は疲労困憊の脚を生存本能のままに動かし、適当に道を曲がりながら自問自答する。
───なんでこうなったんだよ畜生!!
♂♀
数時間前、とある護送車内部
「あの、先輩」
「ん?なんだ、どうした?」
「いや、えっと、今から行くとこの詳しい情報教えていただきたいな~と………」
「………説明あったろ。聞いてなかったのか?」
「寝不足で寝てました!」
「正々堂々答えるんじゃねぇ!」
「いでっ!」
「ったく………今から説明するから、耳かっぽじってよーく聞け」
「はいっ!」
「………ホントにほじるか。まぁいい。今から行くのは死刑囚レベルの犯罪人達が収容されてるスラム街だ。通称は“水”」
「水?なんの略なんですかそれ?」
「“Heaven of Hell”………地獄の天国って奴等が呼んでいる。だから“水”だ」
「………あの、よく分かんないんですが………」
「………水の原始構造、知ってるか?」
「えっと………H-O-H………あぁ!」
「やっと分かったか」
「はい!英単語の頭文字を取って“水”なんですね!なるほどなぁ………!」
「以上で説明終了だ」
「短ッ!?他に無いんですか!?」
「他は知らん。奴等が勝手にルールを作ってる。………あぁ、そういえば」
「やっぱりあるじゃないですか!」
「奴等、必ず何かしらの動物のお面を着けている」
「なんでですか?」
「顔が割れると困ることになる奴が多いんだろ。それと、お面で仲間か判断している。暴走族やカラーギャングみたいにな」
「………なるほど。だから今護送中のヤツも狐のお面を着けさせてるんですね」
「あぁ、そうだ。………お、見えてきたな」
「うわぁ………崩れかかってるし茶色いし、中央付近には変な塔建ってるし、ゴミみたいなところですね!」
「スラム街だしな。………すまんが出てフェンスを開けてくれ」
「あ、はい。………大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「あの、スラム街の連中が逃げ出したりとか………」
「あぁ心配ない。奴等ここを好んでるんだ。寧ろ言うとここから出たがらないんだ」
「住めば都って事ですか。あ、フェンス開けてきますね」
「おう。………さて」
護送車はフェンスを通り、フェンスを開けた新米刑事を待つため、一時停車する。
新米は開けたフェンスを律儀に閉め、護送車へと戻った。
そして護送車は大通りを適当に右へ左へと曲がり、停車した。
そして先輩と呼ばれた警部は車内の無線機を取り、スイッチを入れる。
「あーあー。聞こえるか囚人。これからお前を下ろす。歯ァ食いしばれ」
『だぁぁぁかぁぁぁらぁぁぁ!!俺の話を聞けェェェ!!!俺はなんにもしていない!!え、ちょ、待て、傾いてる!この車傾いて………のわぁぁあぁぁ………』
「よし。帰るぞ」
「はい先輩」
嗚呼無情。
哀れな囚人───狐のお面を被っている青年───は無様に地面に転がっていた。
「………あんまりすぎんだろぉ………」




