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砂の棺  作者: 天海六花
ミナゴロシ
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「訳は聞かないでおこう。だが、夜が明けると共にここを立ち去ってはもらえないだろうか? 君たちが隠している事情は、他の信者たちに知られても困るのだろう? こちらの身勝手な願いなのだが……」

「こちらこそ、ご迷惑を承知で匿っていただいてますし、早々に失礼させていただきますから」

「神父にはこれ以上迷惑は掛けないよ。ホントに……悪いね……」

 カルザスが神父に詫びると、シーアも小さく頭を下げる。

 セムの墓石の前で話しておった時にも感じた事だが、シーアはこの神父の事を全面的に信用しておるらしい。その口調や雰囲気から容易に察しできる。この者が心から信用しておる者など、カルザス以外には存在せんと思うておった。これだけ心を開ける者など……。

「疲れた顔をしているね。鐘楼の上の部屋でよく休みなさい。これくらいしかしてやれなくて申し訳ない」

「いえ、とんでもない。感謝します。遠慮なく休ませていただきますね」

 カルザスはシーアの背を押して奴を促す。

「オレは礼拝堂にいるからね」

 ジェレミーがにこりと笑みを浮かべる。

「神父。朝日が昇る頃におれたちは出て行く。挨拶はできないと思うけど……」

「ああ、分かった。無理を言ってすまないね。出来る事なら力になってやりたいのだが、こればかりは私の力も神の力も及ばない」

「いいんだ。神父、シーアとセルトの事……頼むよ」

 神父が頷くと、シーアは鐘楼へ向かう通用扉を開いた。無言のまま鐘楼のらせん階段を昇りながら、シーアは額を押さえる。

「どうかしましたか?」

「……何でもない。大丈夫……」

 らせん階段を昇り切り、鐘を打つための吹き抜けとなっている小さなフロアに、何の用途に使用されるものなのか、簡素な部屋があった。獣脂のランプの光量はさほどでもないが、この狭い部屋にはそれで充分だ。

 薄手のシーツを被せた固い寝台と背もたれのない椅子があるだけだが、多少の疲れを癒すにはこれで充分だろう。

 シーアはカルザスが部屋に入ると、錠を落としてその場に座り込んだ。

「あのぉ……シーアさん、本当に大丈夫なんですか? 今日は夕方からずっと外出してましたし、ちょっと正気を失っちゃったりしてましたし、相当お疲れですよね?」

 カルザスがシーアの前に屈みこむと、シーアはゆっくりと顔を上げる。

「……甘えてもいい……のかな……」

「いいですよ」

「それじゃ……甘えるけどさ、ホントはもう……動けないんだ。体が疲れてるのもあるけど、精神的に……限界、かな……?」

 壁に寄りかかったまま、シーアは項垂れる。カルザスはその肩を揺さ振り、顔を覗き込む。

「横になって休んでください。僕が……見張ってますから」

 後半は小声で耳打ちするカルザス。はっと顔を上げ、シーアはカルザスを凝視した。

「ジェレミーの事……信用してないんだ」

「それはあなたもでしょう?」

 辛そうにカルザスの手を借りて立ち上がり、シーアはベッドの縁に腰を下ろす。カルザスが頷くと、シーアはおとなしく横になった。ゆっくりと肺の中の空気を吐き出し、掌で目許を押さえる。

 随分顔色が悪い。精神的にも、肉体的にも、相当無理をしておったようだ。こやつがここまで弱音を吐くなど、かなり珍しい。だが詮無きことだ。

「ジェレミーは確かにシーアの弟だ。けど、おれを憎んでいるはずなんだ。シーアとおれが惹かれあった事にはあいつも納得してたけど、おれが暗殺者だったせいでシーアを死なせてしまった事に怒り、ジェレミーは一人でおれのところに乗り込んできて、泣きながらさんざん罵倒してきた。恨まれる事はあっても感謝される事なんてないはずなんだ。十三年経ったからって、大好きだった姉を奪われた憎しみが、たったふたりきりの姉弟だったジェレミーから消えるはず、ないんだ。おれがシーアを忘れられないように、きっとあいつもたった一人の姉を忘れられないはずだから」

 胸の上に手を置き、シーアは顔を背ける。

「成長して、セムさんの身に起こった事実を受け入れた、という事は無いでしょうか?」

「有り得ない。有り得ないんだ。十三年前、おれのところに乗り込んできたジェレミーは、暗殺者仲間に捕まって行方知れずになってるんだ。それがこんなタイミングよく、おれの目の前に現れるなんて……」

 暗殺者に捕まり、暗殺者の密偵としてシーアに接近しているという事だろうか? 捕らえた民間の者を、そのまま生かしておく利点など、暗殺者たちにはないからな。

 カルザスはううんと唸り、腕を組む。

「ジェレミーさんに付いていきましょうって言った僕に対しても怒っちゃってます?」

「そんな事ないよ。さすがにちょっと……どうしようかなって迷ったけどさ。カルザスさんが言うなら、おれはどこにでも行くよ。おれは……カルザスさんに甘えていいんだよね? 付いていってもいいんだよね? 袖、ずっと掴んでていいって言ってくれたよね?」

 眠そうに瞼を閉じかけたまま、シーアは口元を綻ばせる。そしてカルザスの服の袖を握ってきた。

 ああ、この手……アーネスとアイセルの幼き日を思い出すな……。

「ええ、言いました。何か問題が起こっても、僕がシーアさんを護ればいいだけですよ。安心してください」

「うん」

 微かな笑みを浮かべ、シーアは瞼を閉じる。

「……適当に……起こしてくれよ。交代するからさ」

「はい、お願いします」

 状況を打破できたとは言えんが、僅かでも休息を得られるならば、素直にそれを受け入れるべきだ。酷く顔色の悪いシーアを休ませてやりたいからな。

「ゆっくり、休んでください」

 幼い子供を寝かしつけるような柔らかい口調で言い、カルザスはベッドサイドの椅子に腰掛けた。

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