表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂の棺  作者: 天海六花
ミナゴロシ
45/59

4

     4


「鐘楼のところに部屋があるから、そこに隠れてなって」

 ジェレミーに案内されるまま、裏手から教会内へと進入するカルザスとシーア。

「上の部屋って狭いから、オレは礼拝堂にいるよ。兄ちゃんたちはゆっくり休んで」

「ありがとうございます。ジェレミーさん」

「ジェレミーでいいよ、カルザス兄ちゃん」

 人懐っこい笑みを浮かべ、ジェレミーが蝋燭をカルザスに手渡す。

「あ、ここ。中庭に面してるんですね」

 月明かりに照らされた中庭の、ささやかな花壇が見える。わざわざ土を入れて心を癒す花を植えている。神父かシスターかが面倒をみているのだろう。そしてその花壇の隣にはシーア・セムとセルト・セムの墓。

「……シーアがあそこにいる」

 ぽつりと呟き、シーアは片手を耳に当てる。そこには奴がいつも身に付けておる硝子細工の耳飾りがあった。幾つもの輪を合わせたような造りのそれは、風になびけば僅かに揺れ、心地よい音を奏でるのだ。

 以前、男装時には外しておったが、今はつけておる。

「……ジェレミー、カルザスさん。ちょっと待ってて。すぐ戻る」

 シーアは窓を開け、そこから内庭へと飛び出した。

「あ、待ってください」

 内庭の隅。シーア・セムの墓石の前で、シーアはじっとそれを見下ろしている。

「外に出るなんて危険ですよ」

「やっぱりシーアに渡そうと思って……」

 カルザスが首を傾げておると、シーアは片方の耳飾りを外した。それを墓石の前に置く。

 無言のまま墓石を見つめているシーアだが、その横顔には、つい先日、見掛けた時のような安らぎの表情はない。どちらかといえば、憂い、今にも嗚咽が漏れそうといった様子だ。

「……おれからシーアへの……最初で最後のプレゼントだったんだよ」

 ほう。そのような大切なものだったのか。

 しかし俺が夢で見たセムは、同じものを身につけてはおらんかったはず。男から女への、装飾品のプレゼントだ。照れて渡しあぐねておったのか?

「シーアは白とか透明感のある青とか、そういった色が好きだったんだ。いつも眩しそうに、おれを見ていた。笑う事を苦手として、俯いたまま歩く事しか知らなかったシーアが、おれといる時だけは上を向いて、控えめだけど笑顔でいてくれたんだ。だからおれはいつでも一緒だって言いたくて、この透明な硝子の耳飾りを選んだんだ。控えめなシーアには少し派手かな、とは思ったけど……」

 残ったもう片方の耳飾りを指先で弄びながら、シーアは目を細める。

「シーアは一度もこれに触れる事なく、おれの前からいなくなっちまった。これを買った日に……シーアに対するおれの気持ちをこめて渡そうって思ってた日に……シーアは死んだから……」

「そう……なんですか……」

 カルザスは気まずそうに顔を伏せる。

「一つずつ、持ってような。おれとお前はいつでも二人一緒だから。大事にしろよ、シーア。おれはずっと大切にするから。これがある限り、いつでもお前の傍にいる」

 指先で耳飾りを弾き、夜空に澄んだ音色を響かせる。

「行こ、カルザスさん」

 シーアがカルザスの肩を叩く。

 奴に促されたカルザスは、その顔を見返してやる事ができなかった。俯き加減にシーアの隣を黙って歩くだけだ。明るい声で促されるものの、奥歯を強く噛み、必死にその想いを堪えるような辛そうな表情は、とても正視できるものではなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ