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異世界人の友人を募集したら、向こう側から本物が来た件 (下)

 当日29日までのあいだ コメント欄は賑やかにそして沸いていた。


 もはや「作戦会議室」と化していた。

「風・風へのルート確認。ヨシ!」

「当日、俺は現地に行けないから、自宅のベランダから小倉の空を観測する」

「誰か、4月29日の風・風周辺の気象予測、最新版持ってこい」

「おい、主。豆腐の準備はいいか? コーヒー豆の鮮度は?」

 彼らは、あたかも自分が主のスクーターの部品の一部にでもなったかのように、喧しく、そして静かに、その日を待っている。

「……(ワクワクが止まらなくて、仕事が手につかない)」

「……(俺も、当日は新しい靴を履いて過ごすことにする)」

 見ず知らずの他人の待ち合わせに、これほど多くの人間が「自分の人生」を重ね合わせている。

 サイレントチェンバーたちの 騒ぎ方が心地いい。


 当日29日


 14:00(1時間前)

「……(待機中)」 「おい 5日前からいるのは貴様か」「www」

「小倉北区、現在晴れ。風速よし。絶好のコーヒー日和だ。……現場には行かない。それが観測者のマナーだからな」

「ガソリンは満タンか? 主、落ち着けよ。深呼吸だ」


  14:55(5分前)

「北九州の空気、急に張り詰めてきた気がする」

「異常なし ヨシ!」

「今、京町のアーケードを125ccが横切った音がした(幻聴)」

「あぁ、俺も『風・風』まで行きたい……。でも行かない。俺たちの居場所は、ここ(静寂結界)の中だからだ」


 15:10(接触予定時刻)

「……どうなった?」

「更新が止まったな」

「異常なし、か。それとも、歴史的接触ファーストコンタクトか」

「おい、誰か呼吸の仕方を教えてくれ。俺までdkdkしてきた」

「待機中のあいつ どこいった?」「www」




 結局会えなかった。

 がっかりしたけれど どこかホッとした自分が居る。


 コメントいれておいた。


「しばらく待っていましたが 会えませんでした。残念。

 楽しみにしてくださった 皆さん ごめんなさい。」


「あちゃー」

「っぱ釣りか…」

「主、おつかれー」

「居れば まずニュースになるわな」

「みんな お疲れ様~」


 祭りは終わった…。熱気が一気に冷えていく。


 そしてまた各人、結界の中に閉じこもっていく。


 沢山の視線に晒されていた私のスマホは、今はただの黒いガラス板に戻った。

 画面を閉じれば、小倉の街の喧騒が急にボリュームを上げた気がする。

  「結局、誰も来なかったんだな」

 私は、冷え切った125ccのエンジンをかけた。

  観測者たちが「釣り」だと笑っても、あるいは同情しても、

 私の中には確かに、あの「dkdk」した時間だけが熱として残っている。



 あれから 脱力しすぎて数日、家の配達を手伝って時間を潰すしかなかった。

 GWのわくわくする感じは 全くなく、ダラダラな雰囲気で終わろうとしてた。

 その日も配達が終わり、若戸大橋の袂のベンチでコーヒーを飲んでた。

 相変わらず青空に赤い橋のコントラストが美しかった。


「ご、ごめんなさい……あの時、遠くから見てたんですけど、怖くて……」


 背後から 急に震えるような声をかけてきた。

( ゜д゜)ハッ!?何?俺に言ってるの? まぁ周りには俺だけしかいないけれど。

 不意打ち!やられた…この展開読んでなかった。結界が崩壊していく。

 振り返ると フードを被った猫背の男が居た。

「ここでは何ですから 家の方で話をしますか?」

 俺も蚊の鳴くような声しか出なかった。

 スクーター2人乗りで 家まで連れていくことにした。

 重さを感じない。まさかね…。

「どうぞ 汚いところですが、上がってください。よければ色々お出ししますので、食べて行ってください」相変わらず か細い声で言った。

 私の精一杯の絞り出した声に、玄関先で彼は、見たこともないような奇妙な角度で固まった。

 彼の視線が宙を泳ぎ、指先が意味もなく服の裾をいじっている。 その「馴染めなさ」の挙動を見た瞬間、私の胸の奥から、乾いた笑いがこみ上げてきた。


「はぁ……結局、お前もコミュ障かっ!」


 私の叫びに、彼は一瞬驚いた顔をし、それから、今日一番の(でも、ひどくぎこちない)笑顔を浮かべた。

 私たちは、猫背を丸めたまま、狭い玄関で笑い合った。

  異世界だの、鑑定スキルだの、そんなものはもうどうでもよかった。

 その夜、私は静まり返った部屋で、最後の一仕事を終えるためにPCを開いた。

 祭りが終わって 静かになったコメント欄にこうつづった。


「募集は終了しました。」


(終)


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