085---- 寝てか覚めてか
私がゆっくりと目を開ければ、そこは教室の中だった。
久々の空気を吸い込む。
心地の良い早朝の空気だった。
ありふれたクラスメイトの雑談が聴こえ、目前には時間割が張り出されている。
その隣の黒板には今日の日付が書かれてあった。
4月3日。
それは、3年生としての始業式の日。
―― ぎゅー、ぐるぐるぐる~~
「豪快なお腹の虫ですわね? 紫」
「朝飯、食って来なかったのか?」
教室の前方のドア付近に円と瞳が立っていた。
その2人が教室に乗り込んで来る。
「円、今日の分の弁当は?」
「まだ手元に無いですわよ。流石に今の時間帯にはシェフが間に合いませんもの。それに、今開封してしまったら全部紫のお腹の中にしまわれてしまいますわ」
「そりゃ困る!」
2人の会話はいつも通りだった。
これは、夢なのではないか。
実感がまだない。
だから、私は鞄を開けてみた。
そこには布に包まれたお弁当らしきモノが1つだけ。
教科書やノートは一切無い。
「何だ、持ってきてたのか」
瞳が鞄から私のお弁当を取り出す。
「どうせ円の弁当が来るんだし、今食っちまえば?」
頷き返して、私は自分のお弁当を恐る恐る、開いた。
綺麗に詰められたお弁当。
それを作った記憶は無い。
だけど、これと全く同じ物を、あの大会の時に食べていた人を、私は知っている。
しかし、蓋を開けた時に鼻を突いた、美味しそうな匂いには負けた。
箸を持って、卵焼きを刺して、口に入れる。
絶妙な塩加減で巧妙な甘い味覚が口の中いっぱいに広がる。
戻って来た、という実感が一気に込み上げて来た。
ここは夢じゃない。
紛れもなく現実。
円と瞳の間には太くて立派な線が見える。
もちろん、それ以外にも2人からは色々な線が伸びていた。
千尋が里の主を討ったことも、
遠音が見守ってくれていたことも、
私がお父さんを倒したことも、
全て、全て、記憶に残っている。
そして、戻って来る際の悪夢は見なかった。
こんなこと、今まで一度も無かった。
――全て、終わったのだと理解した。
「円! 瞳!」
私は箸を持ったまま2人に抱き着いた。
2人は多分、驚いていたと思う。
「これからはずっと一緒だから!!」
これにて人情篇・完結です。
お読みいただき、ありがとうございました!
そして、次作の投稿までお待ち頂けると幸いです。
葉月雷音




