012-016 どっちつかずの
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香穂里が殺したのは、自らの母親だった。
香穂里は懺悔し続けて精神を病んだ。
それでも、香穂里は記憶を封じなかった。
それは、母親のことを忘れたくなかったから。
パソコンに打ち込まれた文章は、それはもう酷いモノだった。
香穂里が全ての原因、香穂里が全ての元凶。
生まれてきたことも、生きていることも、全てを拒絶する内容。
打ち込む黒い面の背後には、仁王立ちの円と瞳。
2人の瞳にはパソコンの画面が反射して映り込んでいた。
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目を覚ませば、自宅の天井が目に映った。
今までとは異なる夢だった。
リアリティは、あった。
でも、今までは主観的だったのに対して、さっきの夢は客観的。まるで目が防犯カメラになっていたような、不思議な感覚だった。
呆然としながらも登校する。
花菜子が先に座っているのは、もはや見慣れた光景となった。
でも、互いに話すことも無く読書をし続けることもある。
今日はそんな日だったお陰で夢の内容をじっくりと考えることが出来た。
放課後。
夢の通りに円と瞳が香穂里を旧校舎に呼び出していた。
冷静に苛立っていた香穂里が立ち去った後、円と瞳が話し合い、瞳がどこかへと向かう。
そんな背中を見送った後で、私は円の残った教室へと足を踏み入れた。
「円」
私は円を引き止めた。帰り支度を始めていた円が私を振り返る。
「あら、紫?
…… そんな険しい顔をして、どうかなさった?」
『険しい顔にもなるよ!』
驚く円を他所にテレパシーで続ける。
『何をしようとしているのか、解ってるの?』
『一体、何のことですの?』
『とぼけても無駄。その手に持っているモノ、読んだから』
円はかなり驚いていたのか、ただただ目を丸くして私を見つめていた。
が、流石に鬼の面に選ばれただけのことはある。
それだけで理解したのか、円も表情を変えて私を警戒していた。
『千秋様の御傍に居続けた貴方には関係がないこと。それとも、私に手柄を取られることが気に食わないのかしら?』
私が里の中に居ることは知っているらしい。
それならば、話しは早い。
ただ、まだ解らないこともあった。
『手柄? ウチはただ、香穂里を巻き込もうとしていることを注意しにきただけ。黒い面を持っている協力者は巻き込んでも良い規則だけど、そうじゃない一般人、特に能力者を巻き込んだら処罰は免れないよ?』
『香穂里さんは協力者の娘ですわ』
円は言い切った。
今度は私が目を丸くする。
『ですが、本人はそれに気付いていないだけ。私は今回を期に香穂里さんを協力者として自覚させると共に、あわよくば瞳の目的を達成させることが狙いですの。
まぁ、瞳の目的はかなり難しいでしょう。それでも、強力な協力者が居れば、私達も動きやすくなる。
私、間違ってます?』
円が私を見つめた。
確かに、円の言い分は一理ある。だが、リスクが大き過ぎる。
香穂里の傍には不可侵条約を結んでいる音神が居る。音神の目的は死神様でもまだ判明していない。
万が一にも音神が計画に気付き、音神の目的の為に阻止してきた場合、互いに『不可侵条約の破棄』と捉えられてしまう可能性が高い。
まして、香穂里が協力者の家族だとバレただけでも死神様にとっては痛手だろう。
「私、そろそろ行かないとなりませんの」
円は私の答えを待たずに進みだす。
今の私には、円の大きな背中を見送ることしか出来なかった。




