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013-019 夢か現か④

******************************


 昇進は、嬉しいものだと聞いている。

 でも、昇進では、お腹は満たされない。

 報酬も、あまり美味しいとは思わない。


 だから、煩い奴を食べてみた。


 凄く、美味しかった。


 結局、生きる為に必要なことは。

 昇進でも報酬でもなく、美味しい食べ物。


 でも今は満腹だから、これ以上は何もいらない。


******************************



「紫、はよ起きて!」


 花菜子の声に驚いて目覚める。


 後ろには見知らぬ和室。

 クラスメイトの何人かと一緒に私を覗き込んでいた。


 その場に居た5人、全員が安堵の表情を見せる。


「羽生さんったら。流石に寝過ぎ」

「??」


『あー…… もしかして、また記憶、飛んどる?』


 花菜子の質問でやっと現実に戻って来る。


 今は、修学旅行中。

 多分、ホテルに到着したばかりの1日目。


『バスに乗った記憶はあるんだけど ……』

『そこまで行くと、ほんまに凄いな …… 。いっぺん、専門医に診てもろたら?』


 そこまで酷いとは感じていなかったものの、花菜子の助言は有り難く受け取っておくことにした。



 1日目の夕飯は釜飯だった。

 美味しい、美味しいと食すクラスメイトを見ながらも、私はただ消化しているだけだった。


 味が、良く解らない。

 美味しい …… のだとは思う。


 奥の席では1組の円達が盛り上がっている。


 でも、解らない。

 皆の会話を聞いても、楽しいとは思えなかった。



 花菜子がクラスメイトとお風呂へ向かった後、残された私はふらりと廊下へ出た。

 部屋の鍵はかけなくても、どうせほぼ貸し切りなのだから、大きな問題も起きないだろうと思った。


 ふらりと、階段を下りる。

 ふらりと、階段を上る。


 本当に、気が向くままに放浪した。


 やがて、立ち入り禁止の看板がある場所へとやって来る。


「それ以上はダメよ」


 振り返ると音神が立っていた。

 気配が無かったので解らなかった。


「花菜子から聞いてはいたけど …… ここまで深刻だったとは」

「…… 何の話し?」

「貴方、夢を見ているでしょう?」


 音神が私に手を伸ばす。


「私の手を掴んで」


 言われるがまま。

 私は音神のその冷たい手を掴んだ。



******************************


 満腹の私が目を覚ます。


 今、誰かに呼ばれた気がした。

 名前ももう、忘れてしまったのに。


『貴方はまだ帰れるわ』


 桜色のソレが私に触れる。


******************************



 目をゆっくりと開ける。


 私は立ち入り禁止の看板を握って眠ってしまっていたらしい。

 音神の姿や桜色のソレは、もう目の前にも、周囲にも感じなかった。


 最近は、こんなことが続いていた気がする。


 夢を見て、

 現実の時間がかなり経過していて、

 睡魔に耐えられずに寝てしまって、


 また夢を見て、


 また、時間が飛んで。


 ずっと頭が働いてくれなかったけど、今なら何となく解る。

 もっとも、今もそこまではっきりとは解らないけど。


「音神が症状を緩和させてくれたんでしょ?」


 私を心配して迎えに来てくれた花菜子に訊ねた。

 花菜子はその場に立ち止まって頷く。


「でも、完全に治った訳じゃない。その原因は黒い面と鬼の面だから」


 黒い面には死神様の命令を強制的に実行させる能力が備わっていた。つまり、無意識でも任務を遂行する際にこの症状が現れることがある。

 それを強化させているのが鬼の面だから、2つを所持する現状、私の症状は完治しないことになる。


「花菜子も解っていたから、クラスメイトにフォローしてくれていたんだよね」

「そこまで解ったなら十分」


 答えた花菜子に笑顔が宿る。


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