第8話 記憶の断片(メモリー・コード)
【モニター室:組織拠点】
暗闇の中、無数のモニターが光を放つ。
画面には、破壊された教室と逃げ惑う生徒たちの映像。
中央の大型モニターに映るのは――“彼”、変身した少年の姿。
「解析結果は?」
低い声が響く。
白衣の女が端末を操作しながら答える。
「反応値、想定を超えています。……“コード・ゼロ”の再起動を確認。」
「ほう……眠っていた兵装が、再び動き出したか。」
声の主は、黒いロングコートの男。
髪の隙間から覗く片目には、金属の義眼が光っている。
「対象の少年、ただの継承者ではない。」
「つまり……?」
「“オリジナル”の血を引いている可能性が高い。」
室内の空気が張りつめる。
誰もが、その名を口にすることを避けた。
――“創造主”。
白衣の女が小さく息を呑む。
「まさか、あの伝説が現実に……」
「真実を知る必要はない。」男は冷たく言い放った。
「我々の目的は、“完全体”の回収だ。」
その瞬間、別のモニターが警告を発する。
《被験体03、暴走兆候アリ。》
画面に映るのは、拘束装置の中で暴れる“別の被験者”。
その胸には、同型のベルトが融合していた。
男の義眼が僅かに赤く光る。
「……あれを、次の現場に送れ。」
「まさか、同型をぶつけるつもりですか!?」
「適合者同士の共鳴が、最も早く“鍵”を呼び覚ます。」
モニターの光が、男の口元に浮かぶ冷たい笑みを照らした。
---
【夢:ベルトの記憶】
――暗闇。
耳の奥で、金属が擦れる音がした。
視界の中に、見覚えのない戦場が広がる。
焼け焦げた街。崩れたビル。
そして、その中心に立つ一人の戦士。
ベルトを装着し、敵に囲まれながらも動じない。
その姿が、どこか懐かしい。
「……誰だ、あれは?」
声が届かない。
だが、確かに“俺”と同じ声で叫んでいた。
――『この力は、呪いだ! もう誰も、変身するな!』
次の瞬間、爆光が辺りを包み込む。
戦士の身体が光に溶け、ベルトだけが残った。
それが地面に落ち、静かに光を失う。
《記憶断片、再生終了。》
夢の中で、声が聞こえた。
それは、いつものベルトの声ではなかった。
もっと深く、悲しみに満ちた“意志”だった。
目を覚ますと、額に冷たい汗がにじんでいた。
枕元では、ベルトが微かに脈打つように光っている。
《継承者ヨ……目覚メノ刻ガ近イ。》
遠く、夜の闇の中で、監視カメラの赤いランプが一瞬だけ光った。
その視線が、確かに――俺を見ていた。




