1 選択
今日は3本投稿します
「『幸運に全振り?ナンセンスだね』」
今も私の脳裏に焼き付いている言葉だ。口にしたのは、迷宮社でそこそこの地位にいる男。キザな口調ではあったが、彼の実力は確かなものだった。だからこそ、この言葉には説得力があるようにも、ないようにも思えてならない。
「君はSPが高いんだ。決して運なんてくだらないものに振るのは百害あって一利なしだよ。もうやめときな」
「運に振ったら人生も棒に振っちゃうよ?それでもいいの?」
最後の台詞は、親父ギャグなのか本気なのか判別できないようなものだったが、とにかく、私は幸運値にSPを振り続けている。
まず、この世界がどうなっているのかを説明しなければなるまい。
ある日、世界は突然の混乱に包まれた。世界各国に、突如として「迷宮」と呼ばれる存在が出現したのである。当初、私は思った。これはもしかして、あの小説のような無双プレイができるチャンスか?と。
しかし、現実はそう甘くはなかった。政府は、物語の中の連合国ほど愚かではなかったのだ。むしろ、税金の使い道がおかしいと感じるほどではあったが、彼らは迅速に動いた。自衛隊、そして在日米軍まで動員し、迷宮を占拠。迷宮は貴重な資源を産出する場所として、一躍世界中の注目の的となった。
だが、世界全体の資源量が急激に減少し始める。各国がこぞって迷宮資源を消費し始めたためだ。特に鉄鋼資源を有する国々は価格を高騰させ、日本では信じられないほど鉄製品の価格が跳ね上がった。これがいわゆる「令和の米騒動②」と呼ばれる事態の始まりである。
そうした中、自衛隊は迷宮からの撤退を余儀なくされた。一方で在日米軍は迷宮から得た資源を本国へと送り続けた。日本政府は交渉を試みるも門前払いを食らい、軍事力、国力、すべてにおいて劣る状況で、為す術もなく指を咥えて見ているしかなかった。
その停滞を打ち破ったのが、民間組織「マルチロストペイレイス社」、通称「迷宮社」である。元来、迷宮から産出される素材の加工技術に長けていた彼らは、それを武器製造に活かし、新たなビジネスを展開し始めた。他国には真似のできない独自の加工技術により、日本の迷宮「伊那ダン」(長野県伊那市)周辺は活気づき、経済は大きく発展した。
その後、自衛隊が迷宮運営に復帰すると、それまで幅を利かせていた在日米軍の立場は微妙なものとなった。そしてアメリカは、「日本が迷宮から撤退しない限り、一切の支援を行わない」と宣言。この発言は国内に大きな衝撃を与え、事態を重く見た重鎮たちが騒ぎ立て始める。果たして、これが何の得になるというのか。
ちょうどその頃からだろう、「氾濫」と呼ばれる現象が世界各地で発生し始めたのは。最初は海外で、やがて日本にも波及した。自衛隊は壊滅状態に陥り、民間にも被害が及ぼうとする中、真っ先に立ち上がったのは迷宮社であった。迷宮社社長自らが前線に立ち、「スコヴィル値1000万級の激辛タバスコを1リットル飲み干す方がまだマシ」と言わしめるほどの激戦を繰り広げたという話は、今や伝説となっている。
この危機的状況の中で明らかになったのが、「自己検査」という能力だ。自身の状態やステータス、SPを確認できるこの力は非常に便利だったが、当初は広く知られてはいなかった。政府がこの情報を意図的に隠蔽したわけではなかったが、国民の怒りを買い、結果として早期に政権が退陣に追い込まれたのは記憶に新しい。内閣総理大臣が誰だったかは、今ではもう忘れてしまった。
そして、この能力によって、人には5から10までの「成長ポイント(SP)」が存在することが明らかになった。このSPの振り方、そしてその総量が、その者が英雄となるかどうかを左右するのだ。
「俺のSPは20ポイントだ」
私のステータスはこうだ。
横嶋 健太
LV: 30
STR: 230
VIT: 210
AGI: 210
INT: 210
DEX: 210
LUCK: 602
APP: 42
スキル: 腕力強化、拳術、剣術
初期にSTR(筋力)に少し振った以外は、すべて幸運値(LUCK)に注ぎ込んできた。ステータスが一定値に達すると、対応したステータススキルを習得できる。さらに、レベルアップで得られるスキルや、努力の末に会得するスキルもある。剣術や拳術がそれだ。APP(外見)はレベルが上がらないと上昇しない。私はただひたすらに、レベル上げを繰り返してきた。
「腕力強化」
「げ、ぎゃぎゃぎゃ!」
緑色の肌をした醜い小鬼、ゴブリンが3体現れた。経験値だけは申し分ない敵だ。強さで言えば、最弱クラスから数えて二番目くらいか。因みに最下位はスライムだ。まあ、妥当なところだろう。
「ふん!」
側頭部をナックルで殴打する。武器の手入れがほとんど必要ないという点で、拳での戦いは非常に効率的だ。
「へ?」
ゴブリンが倒れたその場所に、見たことのないものが出現していた。
「ファーストトレジャーボックス!?」
幸運の寵児だけが遭遇するという伝説の宝箱。倒す敵の数が天文学的数字に達するか、あるいは天文学的な確率を引かない限り手に入らないと言われ、開ける者が最も欲するアイテムが現れるという。
「何が出るんだ?」
蓋を開けた瞬間、そこにあったのは……
「チッ、ポーションなんていらねーよ!」
しかし、待てよ? これはもしかしたら……鑑定にかけるべきか? 鑑定機とは、アイテムの真の価値を教えてくれる便利な機械だ。端的に言えば、でかい。
そう思いながら、私は帰路についた。
◆◇◆◇◆◇
まだ帰宅するには早い時間帯だ。迷宮内も人影はまばらで、閑古鳥が鳴いていそうな静けさだった。
「鑑定おなしゃーす!」
そう言って500円玉を投入口に挿入し、ポーションをセットする。機械が「ウィンウィン」と音を立てた後、一枚の紙とポーションが出力されてきた。
なんだこれは?
幸運のポーション?
______________
幸運のポーション
幸運値が2398増加する。
魔石ガチャを入手する。
______________
______________
「ふぁ!?」
思わず声が漏れた。嘘だろ? これはとんでもないものが出てきてしまったな。
……飲むしかない。
横嶋 健太
LV: 30
STR: 230
VIT: 210
AGI: 210
INT: 210
DEX: 210
LUCK: 3000
APP: 42
スキル: 腕力強化、拳術、剣術、魔石ガチャ、ドロップ率増加、ラッキーパンチ
「うっそーん……マジかよ……」
やばい、これは本当にやばいじゃないか。
幸運値って、1000を超えてもステータススキルが得られないことで有名な、いわく付きの数値だ。私はそれに全てを賭けてきた。そしてついに、そのときが巡ってきたというわけか。
今日はもう帰ろう。義妹とはいえ、家のことを一手に引き受けてくれているあいつがいる。月収30万と言いながら、パートで頑張っているらしいし。
そんなことを考えながら、私は家路につくことにした。
◆◇◆◇◆◇
「へー、お兄ちゃん、やっと帰ったの?」
「ああ、そうだ。明日からは第三層に潜ってみようと思う」
第二層はゴブリンが主で、初心者たちがたむろしている場所だ。私はそこでひと月ほど時間を費やしてきた。
「それなら、私も連れて行ってよ」
「は!? 急に何を言い出す!そもそもLV1のお前を連れて行くわけないだろ!せめてLV30になって、俺と同等になってから言え!」
「それなら大丈夫だね。私、パートって言ってたけど、実はダンジョンに潜ってたの。お兄ちゃんだけに任せておけないから」
その言葉に、私はこめかみに手を当て、思わず眉をひそめた。返す言葉が見つからない。ダメだ、こりゃ。
「あーもう、確かにそろそろソロプレイは限界かなと思ってたところだしな。ところでお前、どんなステータス振りしてんだ?」
私はそう聞いた。
「後衛特化型かな。こんな感じ」
そう言って彼女はステータスを見せてきた。
横嶋 明日香
LV: 30
STR: 120
VIT: 120
AGI: 150
INT: 450
DEX: 210
LUCK: 20
APP: 50
スキル: 脚力強化、基礎魔法、思考加速、並列思考、器用
「お前には俺もスキルも見せてやるよ」
横嶋 健太
LV: 30
STR: 230
VIT: 210
AGI: 210
INT: 210
DEX: 210
LUCK: 3000
APP: 42
スキル: 腕力強化、拳術、剣術、魔石ガチャ、ドロップ率増加、ラッキーパンチ
「へ? LUCK3000? こ、これバグっちゃったりしてない?」
「ねーよ、ただ、ゴブリンからファーストトレジャーボックスを手に入れただけだ」
「ああ、でもそれまでずっと幸運値にしかSP振ってなかったんでしょ?バカじゃないの? それと、ラッキーパンチの効果くらい、ちゃんと確認しておきなよ」
そう言えば……
「確かに」
「はあ、しょうがないね。こうよ」
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ラッキーパンチ
全ての攻撃がクリティカル判定になり、ダメージが1.5倍になる。
メタル属性に属する敵に対して絶大な効果を発揮する。
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「これ、完全にぶっ壊れてない?」
メタル属性と言えば、どれだけSTRを高めても通じず、かといって稀に一撃で倒せることもあるため、クリティカル攻撃が必須と囁かれているあのメタル属性だぞ?
これ、いろいろとチートじみてるんじゃないのか?
まあいい、そんなことはどうでも良い。今、最も気になるのは「魔石ガチャ」だ!
「魔石、くれないか?」
「ん? ああ、このこと?確かに気になるね。やってみよっか」
彼女は極小の魔石を50個ほど取り出し、床に置いた。
* * *
「タラリン♩」
非常に耳障りな音が、静かな迷宮に響き渡ったのだった。
ブクマと⭐︎5評価何卒お願いします!




