第17話 集団化の原因
夜遅く街に帰ったその足で協会へと向かう二人。怒りのせいで自然に歩く速さは上がる。協会本部のドアを開ける力も荒々しい。
「トゥーーール!!」
真っ暗な施設の中に響き渡るアルバの声。奥の部屋からガタガタと慌てふためく音がする。仮眠でもとっていたのか、髪はぼさぼさであり、珍しくサングラスをしていない。
「ど、どうしたんですか……?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。これを見ろ」
眉を吊り上げているアルバは、手に持った袋をカウンターにどさりと降ろす。すぐ後ろでアシアラも両手を腰に当てて怒っている。
袋を受け取ったトゥールは、その中身を確かめるためにライトをつけた。普段はサングラスの奥に隠れている琥珀色の瞳が照らされる。
袋の中には、アルバ達が討伐した妖魔から回収した魔石が大量に入っていた。
「こんなにいっぱい、やっぱり……」
「おい、やっぱりってなんだ。お前知ってたのか」
「知っていたという訳ではありませんが、アルバさん達が村へ行っている間に少し調べていたんですよ。例の妖魔が集団発生した事についてです」
「そういえば、そんな事言っていたな」
「少し待っていてください」
そう言うと、トゥールはもう一度奥の部屋へ引っ込んだ。ガサゴソと何かを探すような音が聞こえてくる。しばらくして戻ってきたトゥールの手には数枚の紙が握られており、目にはいつものサングラスが装着されていた。
アルバは渡された紙を受け取ると、アシアラにも見えるようにそっとカウンターに置く。
「フレイ……? 魔術師……?」
「誰だこいつは。こいつが妖魔の集団発生の原因なのか?」
アシアラに読める部分は名前と職業の欄くらいであった。そこにかかれていたものは、この国の最大兵力『魔術師団』に所属する一人の男についてだった。
アルバの問いにトゥールは一応頷くのだが、どうにもすっきりしない表情である。その理由については、アルバも思うところがあった。
今の魔術師団は、国王直属の兵である。普段は王都も周辺を警備しているか、隣国との国境を争っている東側に投入されている事が多い。
妖魔が頻繁に出没しているとはいえ、この街がある王都の南側は比較的平和であり、だからこそアルバ達のような妖魔狩りを専門としている人間でも生活が成り立っている。
フレイという男について書かれている紙をトントンと指で叩きながら、アルバはトゥールをじっと見つめる。
「色々と言いたいことがありそうに思えるんだがな」
「そうですね。ただ、僕の予想も過分に入っているから、あまり吹聴しないでくださいね」
「ああ、約束しよう。……アシアラは帰らせたほうがいいか?」
「いや、私も聞く!」
アルバが言うが早いか、アシアラは腕を組んで抗議をする。
「別にいてくれても構わないですよ。変な噂をばらまきたくないだけですからね。大げさな事じゃあない」
そういうと、トゥールは残りの紙をカウンターに置く。それはここ最近の報告書であった。それも、アルバ達が集団の妖魔に襲われた村の周囲である。
「この報告書は?」
「先ほど見せたフレイという魔術師の目撃証言が記入されている報告書ですよ。炎の魔法を駆使して戦っているそうです」
炎の魔法。その言葉が出てきた時、アルバの隣でアシアラは首をかしげた。アシアラの知る魔法というものは、妖魔を退治できるようなものではなかった。
「魔法って、あの魔法でしょ? みんな使えるやつ」
「ええ、そうですよアシアラちゃん」
「火の魔法なんて、マッチくらいの火力でしょ?」
「まあ、普通はそうですね」
言いながら、トゥールは人差し指の先から小さな火を出した。この国では殆どの者が、ちょっとした魔法が使える。
それは日々の生活をわずかに便利にするものであり、逆に言えばその程度のものでしかない。それらは大した威力にならない為、皆剣を手に妖魔と戦っているのだ。
「わかった! 火薬か何かを使っているのね!」
「違いますよ。その資料に書いてある通り、大規模な炎の魔法で妖魔を倒しているんです」
「まあ、国王お抱えの化け物たちだからな。そういう珍しい奴もいるんだろうさ」
「僕にとってはアルバだって珍しい部類に入るけどね。透明になれるくせに、魔法が全く使えないんだからな」
「それはまあ、アシアラも同じだがな」
アシアラの頭にポンと手を置くアルバ。
「だから、アシアラちゃんを引き取ったのかい?」
「そんなところだな」
アルバのように魔力の無い者は、まるで代わりと言わんばかりに特殊な能力を身に着けていた。昔の人々はそういった者の事を『悪魔の子』と呼び、忌み嫌った。
時がたち、その差別にも似た感情や忌避の視線は随分と薄まっているのだが、それでも古い村にはその文化が残っていた。そういった村では『悪魔の子』が成人して村を出るまで家族ごと村の端へ隔離させられる。だからこそ、アルバは十四の歳に村を出た。
そしてその古臭い風習は、アシアラの村にも確かに存在していたのだった。彼女とその家族もまた、村の隅へと追いやられていた。それがあの不幸を呼び、だからこそ村の長はアルバの申し出をすぐにのんだ。
「とにかく、こいつが妖魔討伐で森まで焼いているから、住処を無くした奴らが徒党を組んで村を襲ってるってことだな」
「提出された報告書を見る限り、そういう事だとおもんだ」
「迷惑な話だ」
そうはいっても、これ以上トゥールを問い詰めても状況は改善しないだろう。仕方がなく、アルバとアシアラの二人は宿へと戻ることにした。




