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リーア姫のおウチ事情!  作者: ジョシュア
後編 Small Man
8/8

一番、本当のこと

 夕焼けはいつも眩しい。そして俺の目を周りへと巡らせる。公園の入り口で、そっとたたずんでいた。

 家の近くにある公園。俺はこの公園が嫌いだった。それでも毎日のように来てしまうのは何でだろう。

 今でも忘れられないものがあるから?

 それが答えだ。忘れられない、忘れてはならないものをたくさんここに置いてきた。

 両親が引っ越しを決めたタイミングと、俺が大学へ進学するタイミングは同じだった。もう独り立ちできるだろうと言って、一人暮らしをすることになって、この公園の近くに住みたいと自然と思った。

 大切なものを失うときは、いつもこの公園だった。

 小学校のとき、親友の転校を知って、大げんかしてそれきり別れたのもこの公園だった。

 中学校のとき、兄弟みたいだって言われて育った猫は、死に場所に選んだのもこの公園だった。

 高校のとき、好きだった女の子にフられたのもこの公園だった。

 嫌なことばかりだったのに、それでもここに足を向けてしまうのは、きっとここにたくさんの落とし物をしたからなのだろう。些細なことばかりだけど、俺の性格は些細なことですっかり尖ってしまった気がする。

 本当のことを言えば、人は離れて。

 相手のことを思えば、人は離れて。

 そして誰もいなくなる。大切なものほど、失ってしまう。

 だから嘘をついて、ずるくなっていくのが大人なんだって。

 夕日に染まるこの公園に、子どもたちはもういない。もう帰る時間だ。俺もここに長くいる理由はない。

「なんだ、あれ?」

 そんなときだった。ベンチに誰かが寝ているのが見えた。

 それは幻想的だった。金色の髪に白い肌を持った、ドレスを着ているお姫様が安らかに寝ている。童話か何かで、幼いころに感じた感覚が、俺の中で過る。

 ……それは親切心だったのか、出来心だったか。

 この女の子を家に連れて帰ることにした。警察を呼んで大騒ぎにさせたくない。このままでは風邪を引いてしまう。理由は後付けだった。

「どなた……ですか?」

 部屋で寝かせていたその子が目を覚ましてそう聞いてきたとき、俺はどう答えればいいのかわからなかった。

 いや、誰だって答えられないはずだ。こんな状況、普通ならありえないのだから。

「お兄ちゃん、かな」

 とっさについたその嘘は。

 きっと俺の人生の中で一番大きなもので。


 そして一番、本当のことだったんじゃないかって、今なら思うことができる。



   *   *   *



 騒がしい機械的な音と、暗い屋内に反して光るエフェクトと画面。大の大人から中学生、小学生まで集まる空間。

 ゲームセンターに行ってみたい、とリーアが言うから、俺は久しぶりにそこへ足を踏み入れた。騒がしいところは苦手だけど、仕方ない。

「お兄ちゃん、車のゲームがあるよ。あれで運転の練習できるね」

「あんな速度で走ったら逮捕されるからな」

 リーアは目を輝かせて、いろんなゲームを見ていった。俺もしばらく来てなかったから知らないゲームが出ていてびっくりしたし、昔やっていたゲームの続編が出ていて少しやりたくもあった。が、今日はリーアの要望で来たのだから、リーアのやりたいようにさせよう。

 リーアと歩いていると、注目を集める。そりゃそうだろう。金髪碧眼の見るからに外国人だし、元気いっぱいだし、可愛いし。

 可愛いし。

 リーア自身も感じているようだけど、気にする様子は見せない。むしろ俺が気にし過ぎなのかと思うくらいだ。

 兄バカだな、なんて言われても何も言い返せない。

「あまり離れるなよ。迷子にすぐなるんだからな」

「むむ、お兄ちゃん、あたしのことを信じてないな! ぷんすこ!」

「どこに信じられる要素があるんだよ」

 そう言って、苦笑い。「はーい」と言ってリーアは俺と開いた距離をつめる。

 俺の腕にそっと回されたリーアの手は、ドキドキではなく安心感を与えてくれる。ここにいるんだって思わせるのだ。

「あれあれ! あれやりたい!」

 リーアが指差した先。そこを見て、俺は少し頬を引きつらせた。

 ゲームセンターの奥には異様な一角がある。

 先人曰く、リア充の巣窟、女子力が試される場所、男子オンリーだともれなくレッドカード一発退場を命じられる花園。

 プリクラである。

 正直に言ってしまえば、まだリアルファイト寸前の格闘ゲーム筐体の方が俺はいい。

「あれはちょっと」

「この前テレビでやってたんだけど、普通に写真撮るだけじゃなくて、文字を書いたりできるみたいで面白そうだなって思ったんだぁ。肌も綺麗に写るんでしょ? すごいなあ、あたしの国だと宮廷画家に数ヶ月かけて、しかも賄賂を渡さないとそんなことしてくれないよ」

「おい最後」

 リーアの視線はプリクラから離れない。そうか、俺にゲームセンターへ行きたいと言った理由はそれだったのか。テレビとか写真とか、リーアはすっかりこの世界の常識に染まっているようだった。

 そこまで期待させてしまったからには、断ることはできない。一人で撮るものでもないし、俺も同行するしかない。

「わかった行こうか」

「やったあ!」

 テキトーに機械を選んで、百円玉を投入する。プリクラなんていつぶりだろうか。高校のときも一回も使ったことない。

 機械音声の案内に従って、いろいろ設定する。リーアはそれも楽しそうにやっていた。

「ほらお兄ちゃん、笑って笑って」

 リーアが俺にのしかかってくる。響くシャッター音。ここで俺は、残念なお知らせをしなければならない。

「リーア、俺は写真が苦手なんだ。笑って写ることができない」

「そんな弱点があったの!?」

 その後、いろいろいじって、出てきたプリを見る。

 そこには笑顔のリーアと、上手く笑えていない俺が写っていた。

 リーアはそれを見て吹き出していた。

「なんか、お兄ちゃんらしいね」

 俺は恥ずかしくなって、そっぽを向くことしかできなかった。

 それでも、思い出が一つ、こうしてできたのだとしたら、写真も悪くはないな。


「今度はあっちのでやってみよう!」

「絶対に嫌だ!」

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