50.エピローグ
鮮血の魔女フレア・ブラッシーは、アンドレ山脈に消えた
ーー1年後。
リング上では絶対王者ギガンティック・ロシモフと不屈の挑戦者マリガン・カスタードのタイトルマッチが行われていた。
『ロシモフと森のゆかいな仲間たち』は、フレアの追放で洗脳が解けたとして極悪なヒール路線からライトヒール路線へと変更していた。
リーガル王国の次期王位継承者と紐づいていたリーガル王国認定王者は、ロシモフの「そんなものいらねぇ」発言で継承権とは切り離された。
フレアが追放されたことで、ロシモフ達は王国の敵ではなくなり、アリスやベスといった孤児達も公然と応援をすることが出来るようなった。
プロレス自体も胡散臭く演出過剰な路線から力と技を競い合う、クリーンな明るく楽しいプロレスへと変貌した。
フレアが、どこまで意図して追放を受け入れたかは分からないが、全てが上手く回ったように見えた。
何度も防衛を繰り返したロシモフは、絶対王者として君臨していた。
マリガンは、最も王者に近い男と言われながらもロシモフの壁をなかなか越えられないでいた。
チャールズは学園を卒業後、王位後継者として本格的に政務に携わるようになったこともあり、以前ほどリングに上がらなくなっていた。
一部で失恋の影響との噂も流れていたが……。
それでも今日は親友のタイトルマッチということもあり、セコンド席にチャールズの姿があった。
一方で、リーガル王国の経済は、政務に復帰したエリックが次々と新しい事業を奨励したことにより益々、好調となっていた。
フレアから得た前世の知識をもとに、実現までの道筋が明確な内燃機関の開発は凄まじく、通信だけが発展しつつあった王国の物流、輸送に革命を起こそうとしていた。
開発の陣頭に立つエリックは、今度発表される内燃機関の車は、馬車で十日掛かると言われるアンドレ山脈まで三日で踏破させると豪語していた。
もしそれが実現できるような事があれば、リーガル王国の経済はさらなる発展を遂げるであろう。
そして、それは実現しつつあると、王子であるチャールズのもとにも報告されていた。
すべては順調にまわっていた、だがその中にフレアが居ない事にチャールズは寂しさを感じていた。
リング上ではこの国最高峰の好勝負が繰り広げられていた。
この一年で二人とも腕を上げ、ロシモフとマリガンの攻防は目の肥えたファンを十分満足させるものとなっていた。
「ロシモフのツームストンパイルドライバーがマリガンの脳天をマットに突き刺した! そのままフォールに入ります、これは厳しいか!」
試合も終盤、ついに飛び出したロシモフのフィニッシュホールドにアナウンサーは絶叫した。
「マリガン、これは返せないですね!」
解説のアトキンスの言葉通り、ロシモフにそのまま3カウントを奪われた。
「マリガン選手、健闘空しく、今回もあと一歩及びませんでした!」
(良い勝負だった……それでもーー君の居ないリングは寂しい)
セコンド席のチャールズは、感傷に浸っていた。
「…いきますわよ!」
聞き覚えのある声が背後から聞こえた――瞬間、チャールズは衝撃に備える準備をした。
次の瞬間、頭にパイプ椅子が炸裂した。懐かしい衝撃だった。
殴った犯人は前のめりに倒れたチャールズを一瞥するとそのままリングに駆け上がった。
リングを駆け上がった人影はロシモフの前で片膝をついて立ち上がろうとするマリガンを踏み台にして跳ぶ。
――シャイニングウィザード!
ロシモフの顔面に膝が突き刺さり、不意を突かれたロシモフがよろめきロープにもたれ掛かった。
「オーッホッホッホッ! この国のチャンピオンは大したことが無いわね! わたくしが真のプロレスというものを教えて差し上げますわ!」
宣戦布告とばかりに王者の顔に膝を叩き込んだ女が高笑いをする。
「アトキンス将軍! リングに謎のマスクマンが乱入してチャンピオンに襲いかかりました! あれは何者でしょうか?」
「マスクマン? いえ、あれは女ですよ! いったい何者でしょうか?」
黒地に目元だけピンクの隈取りが入ったマスクを被った謎(?)の女が拡声器を口に当てて高笑いを上げていた。
見覚えのある身のこなし。聞き覚えのある高笑い。
(フレア?)
チャールズは、椅子で殴られたダメージから首を振って回復し、リングを仰ぎ見る。
踏み台にされたマリガンがいち早く反応した。
リング下に指示を出すと、マイク(のような魔道具)が放り投げられる。
受け取ったマリガンは言った。
「お前--フレアだろ!」
「お前は追放された筈だろ!」
「ふざけるな! のこのこと戻ってきやがって!」
マリガンの一言で、客席からヤジが飛ぶ。
「フレア? その方でしたらアンドレ山脈で熊に食べられて亡くなりましたわ! わたくしの名はスーパー・ストロング・フレア!」
怪しいマスクを被った女は、臆面もなくそう言い切った。
「……捕まえたフレア! もう逃がさない!」
リングに上がって来たチャールズは、スーパー・ストロング・フレアの腕を掴む。
チャールズの身体が宙に飛んだ、無造作に掴んだ腕を固められ、小手返しの要領で投げ飛ばされていた。
「何か勘違いをされているようですから、もう一度教えて差し上げますわ! わたくしはカレル・クラウザー帝国からの刺客 スーパー・ストロング・フレア!」
「リーガル王国は、このわたくしの手によって、カレル・クラウザー王国の軍門に降るのよ! オーッホッホッホッ!」
何を企んでいるのか? スーパー・ストロング・フレア!
一体、何者なのか? スーパー・ストロング・フレア!
第一部終了です。
第二部は、この続きではなく帝国編になります。
形になったらアップしていきたいと思っています。




