表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/116

#114 ベクール王都・北門の向こう側。

 ◇◆◇


 ほどなく北門へと到着したメル一行。

 門の外側にはベクール王都とアクンを結ぶ幅の広い道が一本だけあるが、先に北門に到着していた騎士や兵士達はその左側、どこまでも続く草原の一角に集まっていた。


 事態は急を要すると判断したイーストランス団長のハーリッドにより、アクンとフスカを結ぶ正規の道を通らずに、馬での移動に支障のない草原を突っ切り、接敵までの移動時間短縮を狙う作戦だ。


「立派な馬……あの一本角と青い(たてがみ)がある馬がライネルホースですか?」


「綺麗な毛並みだね」


「ああ!あの数のライネルホースが一度に集まっているのを見るのは俺も初めてだ!」


 草原には骨格が通常の馬より二回りは大きい、馬鎧を装着された軍馬と、軍馬に取り付けられた馬車が所狭しと並べられていた。

 総勢二百名の上級兵士の為に配備されたものである。


 ベクールという人界有数の大国でありながら、二百という数はあまりに少なく思えるかもしれないが、それほど【上級兵士】になるための条件は厳しいという事である。


 それらとは別に、首回りにぐるりと青く長い毛の鬣をこさえた白色の一角馬が三十頭。

 軍馬よりもさらに一回り大きな体、強靭さとしなやかさを兼ね備えた引き締まった筋肉は、日の光を受けて逞しく輝いている。

 こちらはイーストランスが騎乗する為のライネルホースだ。


「ハーリッド!」


 ライネルホースにまたがり忙しく各所に指示を出すハーリッドを見つけ、ヤハスが声をかける。


「ヤハス殿!思っていたより早いお着きで。こちらの状況は、準備の整った隊をフスカ方向に出陣させていたところです。私も残り六輌の馬車を確認してから出発するつもりでしたが、それは他の者に任せ、私達(イーストランス)もすぐに立つとしましょう」


「そっちこそ早かったね。幻魔族がベクールの近くに来る前に倒さなければならないから自分達は急ぐけど、向かう前に全てのライネルホースに総合強化魔法(インペリアル)を掛けておきたいんだ。一ヶ所に集めてくれる?」


「それは有り難い。イーストランスに告ぐ!各隊、速やかに集合せよ!」


 補助魔法で協力をするというヤハスの申し出を受けると、行軍管理を一旦止めたハーリッドが手に取ったのは音の魔石を利用した拡声器。


 命令通り、速やかに集まったイーストランスは五人一組で構成された四つの隊。

 イーストランスは、この四つの隊に団長(ハーリッド)の隊と副団長(ムアーカ)の隊を加えた六つの隊で全隊となっている。


「ローグの皆様もお揃いで。何か問題ですか?」


 少し遅れてやって来たムアーカが尋ねた。


「いや、ヤハス殿が我らの乗るライネルホースにインペリアルを使ってくださるそうだ」


「それは助かりますね。ならば、ローグの皆様の為に用意したライネルホースの馬車も此方に呼びましょう。デリック、頼みます」


「ハッ!」


 ムアーカが騎士の一人に指示を出すと、その騎士はすぐにライネルホース二頭を動力とした馬車を引き連れてきた。

 軍用馬車では各部品の殆んどにミスリルが使われており、通常の馬車よりも大きいにも関わらず、丈夫さと大幅の軽量化が成されている。

 すごーくお金がかかっているのだ。が、メル一行の為に用意されたというライネルホースの馬車には――。


「これはまさか、アルミナムですか!?」


「はい。東の大国と呼ばれるベクールでも、アルミナム製の馬車は二輌しかなく、本来は有事の際の移動手段として国王だけが乗ることを許されているものです」


 やって来た馬車に驚き、思わず声を上げたアーマス。

 質問に答えるハーリッドの顔は、まるで自身の所有物を自慢するかの様に得意げだ。


【アルミナム】というのは、アルミックという取り扱いの難しい、特殊な鉱石を加工して作られるものであり、扱いの難しさから、人族では加工が不可能だと言われている。


 その特徴は素晴らしく、強度、軽さ、耐久性、腐食などに対する耐性、魔力の伝達率などに優れた金属なのだ。

 完全にミスリルの上位互換と言えるだろう。


 見た目も良く、白銀に輝くミスリルよりも白く、綺麗に磨くと落ち着いた光沢が出る。が、目玉が飛び出るくらい高価でもある。


 他の軍用馬車よりもさらに太く大きな車輪がつけられていて、()つ軽い為、柔らかい草原の土でも難なく進める造りになっている。


「よく使用許可が出たね」


「スリウット卿の指示で陛下に確認をしに行った兵が“貴様はワシがこの様な時に出し惜しみをするような、無能な王だと言いたいのか?”と叱られたそうですよ」


 と、ヤハスに答えるハーリッド。


 天使王から黒き鳥ノ王討伐の助力を求められた時には兵のひとつも出さなかったじゃないか!と思ったヤハスだったが、その言葉を飲み込んで、ベクール王・トーラスの変化について問いかけた。


「へぇ……ねぇ、ハーリッド、君はどう思う?」


 主語の欠けた問いかけだったが、ハーリッドはその意を酌み、「ふむ」と頷く。


「国にとっても、私にとっても、よい変化かと。軍の先頭に立って戦えなくなってからというもの、陛下はいつも厳しい顔をしておりましたから、少しでも穏やかになれば嬉しく思う国民も多いでしょう」


「うん、そうだね。自分も同感だよ」


「さて、どうでしょうね。私は少し不安に思いましたが?」


 ヤハスとハーリッドの会話に「ふっ」とため息をついたムアーカ。

 その呟きにハーリッドは首を傾げた。


「副団長?それはどういう意味なのだ?」


「深い意味はありません。私もベクールの未来を案じる気持ちは同じ、という事ですよ」


「そうか。ベクールがより良い国として動いていく為には、我らもより一層の努力が必要になるだろう。副団長にはこれからも苦労をかけることになるが、宜しく頼む」


 (ベクール)の未来を思うハーリッドの言葉に「ええ」とだけ返したムアーカ。


「さて、時間が勿体ないから魔法をかけちゃうね」


「頼みます。皆、なるべく近くへ!」


 どことなく気まずい雰囲気だと感じたヤハスは、強引に話を切り上げ、意識を集中させて魔力を高める。

 ライネルホースが草原の一角の、そのまた一角に固まったのを確認し、ヤハスは青く光る杖を高く持ち上げた。

 と、約三十頭のライネルホースが肩を並べる足元いっぱいに綺麗な青色の魔方陣が浮かび上がる。


「かの者達に、聖なる光をもって大いなる力を授けたまえ!インペリアル!」


 そこかしこから「おお……!」という声が上がり、ライネルホースとそれに跨がる騎士達はキラキラと輝く小さな光の粒に包まれた。


「ふぅ。途中で効果が切れちゃうと思うけど、何もしないよりマシだと思うから」


「十分です」


「それじゃあ自分達はこの馬車に乗れば良いんだね?」


「はい」


 メル一行にと用意された馬車を指差すヤハスの後ろで「なんか、もう酔ってきた……」なんて溢しながら露骨に嫌そうな顔をするレイア。


 既に吐きそうである。


「大丈夫だって、この馬車は前回出してもらったオンボロとは訳が違うからな」


「ハハ、炎姫殿は余程悪い馬車に当たった事があるようですね」


「まぁ……ね」

(国王軍(あんた)んとこのだから!)


「アーマス殿も言った通り、その馬車は衝撃のほとんどを吸収する事が出来ますので、快適な乗り心地です。では、せっかくのご厚意を無駄にしない為にも、我々もすぐに立つとします。何処で戦闘が始まるかは幻魔族(あいて)次第ですので、お互い十分に気を付けましょう」


「うん。じゃあ、また後で」


 ハーリッドとムアーカに一連の挨拶を済ませたメル達は、ライネルホースの馬車に乗り、イーストランスよりも一足早く出発をする事に。

 

 風のように走り出したライネルホースの馬車は、あの心配はなんだったのか?とレイアに思わせるほど、快適なものであった。


 道のりは御者任せであり、御者に下されている指示は“先発隊の足取りをたどりつつ、途中の村・チャロを経由してフスカを目指せ”というものだ。


 簡易的な魔力測定器を用い、想定よりも早く幻魔族(ルベルア)が近づいていた場合や、想定ルートとは違う位置からの接近を確認した場合には臨機応変に対応せよ、との指示もされている。


 メルが居る限りルベルアの位置は把握でき、逆にルベルアからもメルの位置が分かる為、六人の中には行き違いをするかもしれない、という心配をしている者は居ないのだが。


「これより、イーストランスも幻魔族を目指す!全体、副団長の隊に続き、安全かつ速やかに進行せよ!私の隊も後続の兵士団に主旨を伝え次第、すぐに追う!」


「「「ハッ!」」」


 ◇◆◇


「行ったか?」


「ああ」


 とある岩影に怪しく身を潜める二人の男達。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ