#109 幻魔族。(2)
『まぁな。そんじゃ、あいつらに思い知らせてやるか。魔王と同族の俺に喧嘩を売ったらどうなるかをな!クハ!クハハハハッ!一匹残らず、無事には帰さんぞ!』
(ルベルア様!?矛盾にも程がありんす!!けど、どちらが本当の貴方様でも妾の愛は変わりんせん!!)
「貴様こそ、俺達と戦う勇気があるのなら降りてこい!貴様の考えがどれ程甘いものかを分からせてやろう!!」
なっ!?あいつ、声デカッ!
声自体が魔力の俺とは違うだろうに、なんであんなに声デカいの!?まぁ、あいつも声に魔力を通しているというなら納得か。
声の大きさだけならメルと良い勝負じゃね?
戦う前に喉が潰れて戦意喪失してくれないかな。
『そうか、俺を楽しませてくれるのか?口先だけで無いと良いがな!』
「ここに集まったローグは全員が中級以上!ここより先に進めると思うなよ!」
中級?ローグには異名の有り無しの他にもランク付けがあるのか?んんん、危険な依頼なんかに受託制限を設ける為なのかもしれないが、中級以上ってのがどの程度なのか、想像もつかん。
『ユクスはローグの中級以上ってのがどのくらいの強さか分かるか?』
「階級がそのまま個々の強さ、という事ではありんせんが、中級以上となるとワプルを襲っていたハイオーク数体と同等、といったところでありんしょうか」
『なるほど』
それ以上って事なら、手加減してやれば死ぬことはないな。
降下すると、視覚強化無しでも集まったローグ達の全貌が見てとれた。ザッと数えて三十人弱ってところだろうか、幾つかの小隊に分かれて俺との戦闘に備えている。
思っていたよりも少ないが、レコード・ルーラーの伝信から二時間弱くらいしか経っていない事を考えると、多い方なのかもしれない。
それぞれが個人的な意思で集ったのか、ギルドからの依頼で集まっているのか、どちらにせよ、お早い対応ですこと。
ギルドからの依頼とするなら、緊急時に連携を取れるような手段を持っているという事になるが、まぁ、どうでも良いか。
「来たぞ!相手は未知の怪物、気を付けろ!」
「読み通り、フスカからベクールを目指していたようですね。ボアヌスさん、指示を」
「ああ。気を引き締めろ!四人一組で散開!回復役は後方にて待機!怪我人が出たパーティはすぐに下がれ!」
「「「おうっ!」」」
「「「はいっ!」」」
ふむふむ。どうやら【ボアヌス】とかいう名前の、中央やや後方にいる厳ついスキンヘッドの男が全体の指揮を担当しているらしい。
格好を見るからに、ヒーラーのパーティ以外は、壁役と攻撃役、瞬間火力特化役を混成して一つのパーティにしているって感じかな?
ただ、ゲームみたいな感覚で見た目判断をしても、実際の職は分からないんだよな。リエルやレイアみたいな攻撃特化の魔法使いは人口が少ないと聞いているし、案外魔法使いに見える奴らも近接系だったりして。
とりあえず一発ぶちかましてみればハッキリするだろう。
せっかくだ、この前思い付いた新しい魔法を試してみるか。
影から造り出したのは巨大な弓。
三日月形の影にワイヤーを彷彿とさせる太く、強靭な弦。
矢の代わりに射るのは直径一メートル、長さ五メートルを超す円柱状の影。円錐ではなく、円柱なのは、衝撃の強さを優先する為だ。
狙うのは地面!散開したローグ達のど真ん中!
『愚かな人族よ!大地と共に震え上がるが良い!グランド・クエイク!!』
「「――――ッ!ガードフォース!!」」
ギッ――――!ドッッッォォオン!
「「うおおおっ!?」」
「「キャアーッッ!」」
想像以上の爆音と衝撃波。地面が水面を思わせるほど波打ったのが分かった。円柱により圧縮された地面にはくっきりと綺麗な穴が空き、衝突の威力を物語っている。
何人か反応の速いタンクが居るな、防壁魔法によって守られているパーティが幾つかある。中々やるもんだ。
「全員無事かっ!?」
「数パーティが吹き飛ばされたが、体勢を崩されただけだ!問題無いっ!」
「よし!動けるパーティは攻撃に移れ!防戦に追い込まれれば勝ち目は無いぞ!」
「「ああ!」」
「「了解!」」
俺なんか、自分で起こした衝撃波にビックリして眼を瞑っちゃたのに、あいつらは全然動じてないのな。この程度は予想の範疇ということか。
ただ、先端に少しでも丸みを持たせていたならば、瓦礫が飛び散り死人が出ていたかもしれない。今度から、思い付いた技は何処か人の居ない場所で試し撃ちをしてから使うことにしよう。
多少の怪我人を出すことに対し、規格外ヒーラーであるヤハスの許可は事前に得ている。だからといって、やり過ぎれば絶対に怒られる。絶対に!
メルが見ている前でこてんぱんに説教されるのは御免だからな、気を付けなきゃ。
「ショックストライク!」
「閃空!」
「ウィンドスラッシュ!」
――ガギギィッ!
そちらこちらから、あらゆる攻撃が飛んで来る。まさに集中砲火って感じだ。
それにしても、グランド・クエイクって技名、格好良すぎな。【キノキノ(アニメ・昨日の今日は、つまり昨日!)】の主人公、ゴーレンボウ狂四郎が使っていた技の丸パクリだけど!
「良いぞ!そのまま相手に攻撃の隙を与えるな!!ラッドパーティは吹き飛ばされたパーティの支援!アーニャパーティは魔力温存!軽傷者への回復は不要だ!」
「了解!」
「分かってる!けど!あの威力の攻撃をまともに受けたら私達でも治せないかもしれない!皆、注意して!!」
「「「おうっ!」」」
ふむふむ。それぞれのパーティにも隊長を担っている奴が居るのか。未知の怪物を相手に戦いを挑んで来る自信は伊達じゃあない、と。
『クハハハ!痒い痒い!お前達の全力はこんなものか!?』
「挑発に乗るな!伝承を信じろ!魔力体の幻魔族は必ず魔力による攻撃で削れる!消耗戦に勝利するのは数に分がある俺達の方だ!」
「「オオーッ!」」
あのボアヌスって奴、本当に優れたリーダーだな。それほど手応えは感じていないだろうに、士気が全く下がらない。
次はグランド・クエイクに耐えたパーティのタンクを直接狙ってみるか。
『その虚勢がいつまで続くか見物だな!貫け!闇魔法・ダークスティンガー!』
――――カカッ!キィン!
実力の有りそうな大盾持ち数人に向けたダークスティンガーは、直線的な攻撃だった事もあり、ほとんどがボアヌスを含む彼らの盾により難なく弾かれた。ただ、一人を除いて。
「ぐああっ!」
「マグ!!」
「ボアヌス!マグが脚をやられた!」
「クソッ!反応が遅れたか……!ラッド、頼むぞ!」
「任せろ!支援する!マグを連れて早くヒーラーの所へ!」
「はいっ!」
「アーニャパーティは回復準備を!」
「もうやってる!早くこっちへ来て!」
俺の放った闇魔法・ダークスティンガーが一人の【マグ】というタンクの脚に突き刺さった事により、場の空気が一瞬で張り詰める。
とはいえ、他の連中にはあっさりと弾かれてしまった。俺の硬度を持ってしても穴が空かない盾らしい。
それとも、武具強化に似た魔法で強化しているという事だろうか。
「(ルベルア様、以前も伝えた通り、ルベルア様の身体を変化させた攻撃であるダークスティンガーとは、魔法ではござりんせん)」
う、うん。分かってた。尖らせた指を高速で伸ばしただけだもんね。雰囲気に合わせてみたっていうか、格好つけちゃったっていうか、ハッキリ言われると恥ずかしいからそっとしておいて!
「パーティで連携して魔力の消耗を減らせ!魔力回復薬の出し惜しみをするな!負傷者の出たパーティは即時後退!周囲のパーティは攻撃を続行しつつ援護に回れ!」
「「了解!!」」
ローグ達の攻撃も依然として四方八方から続けられているが、度重なる指魔法・ダークスティンガーにより、段々と負傷するパーティも増えてきた。
極限まで高めた集中力を維持し続けるのは、体力と精神力に相当の負担がのし掛かるのだろう。
が、この調子ならメル達が来るまで“激しい戦闘”の続行が出来そうだ。
【兄妹演技作戦】の土台は整った!待ってるぞ、メル!




