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#102 可愛い女の子。

「えっと……はい。私がメルです」


 もじもじと気まずそうに名乗ったメルの表情に、熱くなっていた門番も冷静さを取り戻す。と同時に、今の言動は初対面の女の子に対してすべき応対ではなかったと反省した。


「おっと、すまない。私はベクール王都東門の門番を任されている騎士のヒガシーノ、そこの騎士は――」


「私はクージー、同じく東門の門番を任されている」

(鼓膜が破れていなかくて助かったが、まだ耳がキーンとしている。この子、どんだけ声がデカいんだ!)


 二人の門番がサッとお辞儀をする。慌ててお辞儀を返したメルに、ヒガシーノが尋ねた。


「メル様、この女性の種族とあなたとの関係をお尋ねしても?」

(なんだ、恐れ(ビビっ)て損をした。怪物どころか、とても優しそうな、可愛い女の子じゃないか)


「もちろんです。この子はリエル、私の親友(・・)の天使族です」


 “親友の”というメルの言葉に、傍らで頬を膨らませていたリエルの空気が抜けた。寧ろ、ニヤけたいのを必死に堪えている様子だ。


「なんと!天使族と!?ふむ、知らなかったとはいえ失礼をしました。しかし、どうしたものか」

(もし本当にリエル(この娘)が天使ならば、メル(この娘)もレコード・ルーラーの言っていた討伐に協力した人族?そうだとして、ローグの人達は一体何処に?)


 ヒガシーノはリエルに軽く頭を下げるも、考えが纏まらず、クージーに参考を求めた。


「ううむ、お二人には申し訳ありませんが、審査官(ジャッジ)がここに来るまで待って頂けませんか?お二人の為にもなりますので……」

(ふむ、ヒガシーノが言いたいことは分かる。仮に話が本当で城へ報告に行くのなら、ローグの人達が一緒に行動していないのはおかしいものな。だが、そんな事より耳鳴りがまだ治まらない……俺の耳は大丈夫なのだろうか)


「分かりました、その人が来るまでここで待ちます。あと、リエルが無理を言ってごめんなさい」


「いえいえ、こちらこそ。我々の詰所には冷えた茶や菓子などもありますので、それらを片手にゆるりとお待ちください」

(なんだ、【メル】とは恐ろしいモンスターの事かと思ったが、とても常識的な女の子じゃないか)


「ただ、少し急いでいるんですけど、ジャッジ(その人)が来るまでどのくらい掛かりますか?」


「同僚が呼びに行っていますが、審査官(ジャッジ)はベクールに二名しか居ない為、到着は早くても夕暮れ時といったところでしょうか」


「早くても夕暮れ時……」

(まだ日が高い。昼を少し過ぎたところかな。夕暮れ時までまだ数時間あるし、もっと遅く来る事もあるって事だよね?来たあとでも私達の審査に時間が掛かるかもしれない)


「リエル様が天使ならば、あなたも重要な方だとは思いますが、この過程を省くわけにはいかないのです。審査は一晩もあれば終わるでしょうし、明日には王城へ行けるでしょう」


「ダメ……!それだとダメなんです!」

(少しでも早く作戦を始めないと……ルアさんが困っちゃう!)


「むぅ……そう言われましても……ああ、野宿をしろと言っている訳ではありませんよ?我々の詰所と隣接した審査待ちの方用の宿舎がありますので、今日はそちらでお過ごし下さい」


「まぁ、状況しだいでは今晩か、明日の早朝に国王の側からお呼びがあるかもしれませんがね」

(やっと耳鳴りが治まってきた……良かったー!)


「無理を言ってるのは分かります……けど、それだと遅いんです!あの、緊急用にもっと早く連絡出来る手段もある筈ですよね?」


「あるにはあるのですが……数回使うと壊れてしまう(もろ)い物なので、むやみに使うわけにもいかないのです」

(メル(この娘)は話の分かる娘だと思ったが、意外と頑固だな。あんな高級品を使ったら上から何を言われるか分かったもんじゃないってのに)


 ヒガシーノが近くにあるボックスを見て首を横に振る。

 ボックスとは、人ひとりが入れるくらいの小さな小屋であり、中には【音の魔石】を応用して作られた遠距離通話用の魔石が一つだけ備え付けられている。


 遠距離通話用魔石、通称【通話石】。


 文字通り、音を奏でたり、音を蓄積したりすることの出来る【音の魔石】は分裂しても魔力による効果が共有される為、その特性を利用し、同じ塊から幾つかに切り分け、遠距離通話を可能にしているのだ。


 しかし、【通話石】の使用には幾つかの条件や制限がある。


 ひとつ、どんなに優れた物でも半径五~十キロ以内でなければ魔力による効果が及ばない。


 ひとつ、元々同じ一つの【音の魔石】から切り出された内の、一番大きな物だけが通話を受信できる【親】となり、それより小さく加工された物は送信だけが可能な【子】となる。

 つまり、会話は【子】から【親】への一方通行でしか行えない。


 ひとつ、【子】の魔石の大きさには限界があり、限界以上に小さな欠片には魔力が宿らず、砕け散ってしまう。また、魔力を宿すことの出来る大きさの【子】も、二~三回の使用、下手をすると一回の使用で砕けてしまう。


 その様な制限がある上に、そもそも希少で人工的な製造もほとんど成功例の無い【音の魔石】から作られる【通話石】は、無駄遣いが決して許されない。


「こんな事を言うのは不本意ではありますが、無理を押して通ろうとするのであれば、我々も力で対処しなくてはなりません」

(もう、こう言った方が手っ取り早く諦めてくれるだろう。仮に普通の娘ではないとしても、女の子二人という事に変わりはないのだから)


「強引になんて、そんなつもりは……」


 わざとらしい困り顔を作り、腰に携えた剣の柄を握って見せたクージー。


「おいおい、せっかくベクールへ来てくれた客人に向かってそんな言い方はないだろう」


「変に期待させてしまうのも気の毒だと思ったのでな。逆に、あなた方が我々よりも強いと言うのであれば、我々にあなた方を止める手段はありませんがね」


「全く、仲間の失礼をお許し下さい。ですが、そういう事になりますね」


「うーん……」


 肩をすくめてクージーの悪態のフォローに回ったヒガシーノだが、言葉とは裏腹に口元は少し緩んでいる。

 彼もまた、その言葉の選択が最善だと思ったのだろう。


 しかし、残念ながらその選択は悪手であった。


「ご理解頂けましたら、どうぞあちらの詰所で――――」


「えっと、じゃあ恨みっこ無しですよ?」

(お父さん、この世界では時に悪いこともしなきゃいけないって言っていたのはこういう事だったんだね!)


 ◇メルはモルドーの言葉を過大解釈した◇


「ふぇっ!?ま、まさか、本気で我々とやり合うおつもりですか!?」


「そうしたら通してくれるんですよね?」


「メルがやるなら私もやるもん!こんな都、焼け野原にしてやるんだからッ!!」


「ちょ、ちょっとリエル!それはやり過ぎ!絶対ダメだよ!!」


「焼け……!?クソッ!始めから怪しいと思っていたんだ!やはり貴様ら、魔族かっ!」


「何っ!?ならばここを通すわけにはいかない!貴様らは言葉が通じるから命までは取らないでやるが、代わりに情報を洗いざらい吐いてもらうぞ!」


「うーん、私達に勝てたらね?」


 ニッコリ笑うメルの右眼が淡く紫の光を放つ。


 ◇◆◇◆◇


「ちょっと……話がさらにヤバい方向に行ってない?」


「ヤハス様が早く出ていかないのが悪いニャ」


「えええ!?だだ、だって!みみみ皆がもう少し様子を見ようって言うから!自分はすぐに出ていこうとしてたでしょ!?」


「ハッハッハ!二人が多少戦えるとしても、東門の門番ならば大丈夫でしょう!命は取らぬと言ってますし、俺達がメルとリエルの力を知る丁度よい機会ではありませんか!」


「アーマス、あんた“メルなら言い争いくらい上手く納めてくれるさ!”って言ってなかったっけ?」


「これはこれで一興(いっきょう)ではないか!」


「ででででも!メル様は大型のハイオークやドレイクを倒したんだよ!?リエルはよく分からないけど!」


「でも、俺達がその場を見たわけではないでしょう?その話が本当だとしても、モンスターが相当弱っていたに違いありませんよ」


「メルがすっごい怪力なのは本当ニャ」


「硬い岩に簡単に字を書けるくらい鋭い剣も出してたよ?翼みたいに」


「かか、体がバラバラになりそうな速さで空も飛べる()だよ!?」


「「「「…………。」」」」


 四人のローグの顔色がみるみるうちに青くなり、やがてアーマスが叫んだ。


「死人が出るぞォォオッッッ!」


 ◇◆◇◆◇

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